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「弥生さん!ここです。」深山が連絡を受けて捜索本部の外に出て来たのは10時半を少し回ったところだった。
バス通りが再び渋滞して分岐の警官に通報者の身内だと言っていたところ聡史の父親も来たので深山に連絡を入れて本部方面に通してもらい、宗麟の車を見つけて浅井の車の後ろに着けたところを呼び止められた。
「深山さん。いつもすみません。翔達はどうですか?電話では話せたんですけど、人が殺されたとか・・・」
弥生が深山に言い、雫が後ろに立った。聡史の父親が雫の後ろに止めた車から出て来たところで深山が弥生たちに手で挨拶して、聡史の父親に声を掛ける。
「仲村さん。御無沙汰してます。聡史君とは話せましたか?」
「ええ。朝、連絡いただいてから直ぐに。多分大丈夫です。あいつには晴美がついてますから。楓さんも向かっていただいているみたいですし。あまりこちらから連絡入れるのもご迷惑と思っていましたので、その後は話していません。現状を教えていただけますか。」
「ここでは人目がありますから中へ。」
規制線を分岐まで広げたにもかかわらずカメラを持った人間が現れては警官に追い出されている。
本部内には村井と浅井が地図の前で打ち合わせをしていた。
深山は別のテーブルに通し、村井に紹介してから自分も座り、事の経緯を説明して現在進行中の動きを話始める。
「先程、楓さんが現場へ向かいました。少し前に二陣で入った県警の特殊事例対策本部の佐々木監理官達から連絡が入りまして二人の無事と被害者の状況確認が取れた報告を受けています。神崎本家の史隆さん達が山狩りをするために布陣を張っているとの連絡もいただきました。」
「二人とも無事なんですね。史さんが山狩りをするっていうのはどういう事ですか?」
弥生が聞き、雫が身を乗り出す。
「楓さんの指示で東丹沢全域から包囲して、何かを追いつめるように位置に付いています。県警の警察官は一般人が現場の巳葺山に入らないように規制しています。」
仲村が口を開いた。
「子供たちを戻すことはできないのでしょうか?その監理官も現場で保護出来ているんですよね。」
「現場状況から、二人は殺人の目撃者であり、通報者です。しかし、不本意ではあるんですが・・・客観的に見ると被疑者でもあるんです。お気持ちは私も理解していますが監理官が直々に現場入りしていますのでお待ちください。」
殺人の目撃者として通報をしたのは聡史であるが、事件の証人は無く、現場にいた二人しかいない。通報の内容から被害者はロープで逆さに吊られている。「人間」の仕業である以上、二人は被疑者として確保される必要があった。
「まあ、法律的にはそうなりますね。現場のご判断にお任せします。」
仲村は言い。その後は静かにしていた。
弥生も腹を決め待つ事にしたが、雫が黙っていなかった。
「翔達は被害者ではないっていう事なんですか。寝込みを襲われたって言っていたんですよ。一般人を。未成年者を守っていただけないという事ですか?」
「雫さん。お会いしたのは宗連さんの法事以来ですね。私の事、見覚えありますか?私にとって、あなた達は家族同然だと思っています。私も現場に同行したかったんですが楓さんの指示でここにいます。全ての要である楓さんが自発的に動いてくれています。私の経験でも非常に稀な事です。彼女が指示を出している以上、例えこの国の総理大臣であってもその指示には従っていただきます。」
決して大げさな表現ではない。深山は固く決心して雫を見据えて言った。
深山の目を見た雫は「わかりました。」とだけ言い外に出てしまった。
弥生が後を追うと、顔を覆ってしゃがみこんでいる娘の肩を抱いた。
「おかしいな。どこからも連絡がこない。」
史隆が哲也に語り掛ける。13時に籠を閉じ始め2時間が経過している。スタートから3キロメートル以上進行していた。前進しながら左右にも分かれるので通り抜けた所に見落としはない。道志川からの最後尾グループからも気配すら目撃していない。前に進むにつれ前衛に追いついて人数は増えていく。南側からも同様だった。
史隆のスマホが震えた。「九鬼一志」スライドして耳に当てた。
「史隆さん。そっちはどうですか?こちらの山からは陰の気配無いですよ。週末の楽しいハイキングになってます。連れて来た人達に何か経験積ませようと思ったんですけどこのままでいいんですか?」
史隆は自分が言いたいことを先に言われ苦い顔をして哲也にウインクする。
「一志君。こっちも同じなんだ。自分たちは東北の最後尾にいて宮ケ瀬からある程度急いできているんだけど気配がない。それぞれの山頂からも連絡ないな。一志君。丹沢の狒狒は幽世に移動出来たりするのかい?」
聡史が聞きながら別の作戦が必要かを考えた。
「いや。自分が知る限り狒狒にその力はないです。通常の物怪と同じです。陰には潜みますが、異空間を作るほどの者は家の連中も見たことないと思います。もしかして、十年前に出た『奴』が裏にいる事ありますか?自分は中学に上がったばかりの頃なんで詳しくは知らないんですが、相当ヤバい奴って聞いてますけど。」
『奴』は隆一と差し違えたと思っているが、他の個体がいるのかを疑う。疑いは直ぐに消えた。存在を感じれば楓が言うはずだった。
「楓さんが奴の気配に気付かないはずがないから考えからは一旦外そうと思う。ただ・・・一志君。物怪が別の種族の物怪に何かを教える事は出来るものかな。」
史隆の話を聞いて九鬼一志は足を止めた。
「史隆さん。作戦の変更を提案します。楓さんと連絡とって指示してください。」
「父さん!」振り返って哲也が叫んだ。
「北方面の琴乃さんが発見した!二十頭の狒狒だって。」
「一志君。」スマホをスピーカーにして話す。
「陽動だと思います。琴乃さん相手に狒狒二十頭は少ない。あいつらだって相手の力量くらい解るでしょ。史隆さん。手薄で要人が居そうな場所は?」
一志が言い、史隆は配置した位置を思い浮かべる。「東南。登山口だ!」
「哲也!誰でもいい。捜索本部だ!登山口に人を回せ!急げ!」
琴乃と通話中のスマホを史隆に投げつけ、ザックからタブレットを抜き出す。配置を見て一番近い山住の者に連絡を入れた。
哲也のスマホを受け取り耳につける「琴乃さん!」言うと琴乃が話し始めた。
「史さん。やっちゃっていいよね。一君は何だって?」
「勿論です。巳葺山を包囲します。片付けたら一気に詰めてください。彼は陽動だと言ってます。琴乃さんに二十頭は少なすぎるって。」
琴乃は笑い出した。
「分かってるじゃない。じゃあ遠慮なく。」通話を切った。
「一志君。君も・・・」言うところを「こちらも進みます。間に合えば自分が登山口に向かいますよ。誰がいるんですか。」
「雫がいる。」史隆が言い、一志が息を飲む。
「分かりました。本家の者達にも向かわせます。」




