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朧 OBORO  作者: 悠良木慶太
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雨が上がると地面からの湿気がこみ上げて来る。暫く誰も声を出せないでいた。

佐々木の携帯が震える。画面に「秋月楓先生」と出ていた。スライドして耳に当てる。

「涼子ちゃん。あと40分位で行けると思うけど、大丈夫?」

山道を歩きながらで藪を漕ぐ音が聞こえるが、楓は普通に話す。息一つ乱れていない。

「大丈夫?じゃないですよ。大きな蛇って私、青大将くらいのを想像してましたけど、なんですかあれ。30メートルはありましたよ!登山者に被害とか起きないんですか?」

佐々木があたふたして話す。須藤と風丘は顔を合わせて笑っている。

「あら?もう出て来たの?翔君と話してた?その感じじゃ、もう行っちゃったみたいね。ふふふ。皆ずぶ濡れ?クク・・・翔君と換われる?」

楓の要望に翔を呼びスマホを渡す。

「はい。・・・はい。・・・分かりました。」と言い、佐々木にスマホを返す。

「もう大丈夫よ。あと少しで着くから頑張ってね。」と言って楓は通話を終えた。

佐々木は翔に、楓との会話を聞く。

「あの大蛇が言った事を覚えておくように。理解しなくてもいいから、何て言われたかはまだ誰にも話さない事。皆を守ってね。って言われました。」

「お前が皆を守れって。・・・楓さんが言ったのか?っていうか話ししてたの?大蛇と?」

聡史が聞いた。聡史にはもはや不思議な事は何も感じず、ただ事実を受け止めている。

「ああ。そう言っていた。大蛇は、頭の中に一方的に・・・日本語だった。」翔が答える。

「楓さんが言ったんなら宜しく頼むぞ。」宗麟が言い、翔の肩を叩く。

緊張が切れ、一同力が抜ける。

「あの、監理官。自分には何が起きていたのか理解できないんですが。あの大蛇は何なんですか?生き物ですよね。」

佐藤が聞いて来た。当然の質問である。

「私も大蛇については分からないの。ただね、私の管轄である特殊事例対策本部は、こういった事例を多く取り扱っている部署なのよ。まあ、今のは特殊中の特殊だけど。所轄のように、普通に働いている警察官で知っている人はほんの一握りの人間よ。だけど、特に秘密組織な訳ではないの。あんなの報告書に書けないでしょ。代わりに私達が処理するの。ドラマのXファイルみたいな感じよ。」

所轄の二人は上官ぶらない佐々木に人間としての魅力を感じた。

小屋から藤盛が出てきて何か叫んでいるが皆で無視する。

晴天の空に太陽が上がって行き木々の影を落としていた。森は静寂を取り戻している。

暫く岩屋の周りでくつろいでいると虫の鳴き声が止んでいる事に気付いた。

翔は強い耳鳴りを覚えて宗麟を見ると険しい表情の伯父がいた。

「佐々木さん。」と言い藤盛を引き戻すように言う。

須藤が駆け寄り呼び止めようとした刹那。須藤は小屋の左にある大木に吹き飛ばされた。

何処から湧き上がって来たのか薄黒い煙のような「霧」が立ち込めている。

「風丘君!」と佐々木が言い。須藤を回収しに動く。二人が近づくと須藤は左手を振って「大丈夫です」と言った。風丘が肩を抱き岩屋へ移動する。所轄と翔達も向かい入れ須藤を横穴に(かくま)う。佐々木は藤盛を呼ぶが「うるさい!」と言って藪へ消えてしまった。

止むを得ず佐々木も岩屋へ走る。後ろから強い衝撃を受け岩屋へ飛ばされてしまった。

藪の奥から悲鳴が上がり、大きな塊が宙を舞った。

(うめ)き声を漏らし、這いつくばりながら何処を目指しているのかぐるぐると両手で地面を掻きながら「助けてくれ。助けてくれ。」と呻く。霧の立ち込めた藪から黒い人影らしきものが大勢出て来る。中腰で二足歩行の生物は、昨夜脊山を殺害した獣の姿だった。

獣達は森の霧からも沸いて出て来た。一際大きな個体が三頭見える。一頭は右腕に傷があった。『脊山さんを殺したヤツだ。』翔が気付き聡史に目で合図する。

「でも大きさが違うぞ。倍以上の大きさだ。」聡史が翔に呟く。

所轄の二人が佐々木の両肩を左右から抱え横穴へ連れて来た。意識を失っている。

傷のある個体が藤盛に近寄り左手で片足を持って持ち上げ、地面に叩きつける。衝撃で掴まれていた左足の膝から骨が飛び出し、顎が砕け、血飛沫が舞った。掴んでいた足を不思議そうに眺め膝から先を引き千切る。絶叫がして、千切られた足が岩屋まで飛んできた。

叩きつけられた衝撃で左肩が脱臼したらしく腕の向きがおかしな方向に向いている。

今度は右足を掴まれた。顎が砕けているため声にならない「ヒューヒュー」と呼吸音とも取れない悲鳴がして再び地面に叩きつけられる。左腕から骨が飛び出し顔面は形を成していなかった。まだ動く右手が宙を掴もうとして泳ぐ。その右腕を掴むと肩から引っこ抜き投げ捨てた。血だまりの中、口らしき穴をパクパクと開けていた藤盛の頭を掴み、肩を押さえると脊髄が付いたまま頭が体から抜け、静かになった。

傷ものは藤盛の頭を投げ飛ばし雄叫びを上げた。

獣達は岩屋に近寄って来る。

宗麟は佐々木を揺すり、目を覚まさせる。顔を(しか)めて息を吹き返すと周囲を見て叫んだ。

「風丘君!」言われた風丘が発砲を始めた。

獣達は一旦引き下がるが一番大きな獣が吼えると列を整えて向かってくる。

所轄も発砲するが数に任せた群れは引かない。あと10メートルまで迫ってくると、ピタッと足を止める。岩屋から結界のようなものがあるのか、前に進めなくなっていた。

「だから、岩屋を背にして身を守れと言ったのか。」宗麟が呟いた。


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