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追試予定の生徒が翔に物理の問題の解説を聞き終わるのを見て、聡史が昨日の感動を話に来た。慎也が聞きに来て、悔しがって寛美の高校時代の伝説を語った。
「水橋寛美先輩っていったら、開校以来最高の天才って言われていたんだよな。全科目の学業試験全て満点って記録出してるらしいぜ。しかも美人でスポーツも、確か弓道の個人戦、優勝してるんじゃなかったっけ?正面玄関にトロフィーあったよな。うちの学校、弓道の個人戦だけやたら強いんだよ。皆気にしていないけどさ。俺も会いたかったなあ。翔はともかく、聡史はメシまで奢ってもらったんだろ。」
「あっ!」言われて気が付いた。中学の時、姉の雫に連れられて弓道場の寛美の応援に行った事があった。全国大会は別の県で行われたため行かなかったが全国大会で優勝したとは聞いていたのだった。聡史と顔を合わせて口を開けたまま固まっていた。
「寛美さんと深山先輩って知り合い?寛美さんからうちの学校って弓道の個人戦連覇だったって事か。知らなかった。翔。お前は?」聡史が聞いた。
「気にしていなかった。なんか凄い人っていう事は認識していたけれど、物心ついた時には普通に面倒見てもらっていて、何かを知りたいときには、寛美さんに相談すれば解決するから、頼りになる優しいお姉さん。っていう感じでいた。深山先輩が弓道やってたのも・・・あ、中学で表彰されてたけど、考えが及ばなかった。すまん。」
寛美は父親の水橋教授も舌を巻くほどの才女で、幼少の頃から目に入ったものは全て記憶され、類似の内容も解析できるため、古文書や遺跡の調査には同行させて類似又はその違いを指摘させていたほどである。弓道は高等部に入ってから始めて高等部三年の時に優勝していた。大学に入ってからは専ら学業中心になり、教授の研究室に一年生の時から出入りする特別待遇を受けていた。
「なんだよ。昨日のアフターで聞けばよかった。まあ、今日も弓道場覗いて行こうぜ。」
聡史はやる気満々で言う。
「アフターって何だよ?お前はオヤジか?寛美さんにそういう言い方するのやめろよな。ねーちゃんに言いつけるぞ。」
翔は冗談めかしに言ったが、弓道場には行きたいと思っていた。