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クロエの魔導書 ナギサと魔導書の出会い篇  作者: 雪見
第2章 再起の国、エイト
9/9

7頁 隠し部屋ってワクワクしますね

 時々考える。魔法を学び続ける意味はあるのかと。


 このまま、学校を卒業して、魔法使いの称号を得て……そこから先には何があるのだろう。


 もちろん、私はまだ魔法を学び続けたいと思っている。まだまだ自分の魔法を伸ばしたいと思っている。


 だけれど、時々そんなことを考えてしまう。


 私のしていることに、意味はあるのかと。


 イリアの話を聞いて、そう思ってしまった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 昼食を食べ、私達は家の周りを散歩した。

 この国は自然が多く、ミラルとは違った雰囲気を醸し出していた。

「この国いいなあ……帰れたらまた来たいな」

「いつでも歓迎するよ。まあ、ミラル王国からはかなり遠いから頻繁には来れないだろうけど」

 転移ホールが出来たら楽だろうけど、とリットは付け足す。

 確かにその通りだ。転移ホールが実用化されたら私達の生活はかなり楽になる。

 こんな便利なものが私の知らない間に開発されていたと思うと、なんだか感動した。


 散歩を終え、私達はリットの家に帰ってきた。

 帰ってくる頃には、日も暮れていた。

「それじゃ僕は夕飯作るから。」と、リットはキッチンに向かった。

「うーん、何しようか」

 イリアが退屈そうに頬杖をつきながら足をぶらぶらさせる。

「私は家だったら暇な時本とか読んでるけど……今はそういう状況じゃないしなぁ…」

 その小さな呟きがイリアには聞こえたらしく。

「本、ねぇ……あっ!」

「どうしたの?」

「そういえばこの家、書斎があるんだった!ナギサちゃん、ちょっと行ってみない?」

「え?私はいいけどリットは……」

 一応ここはリット、もとい他人の家なので、許可なしに部屋に突撃するというのはいかがなものなのか。

「大丈夫だよー。ここリットの家だし」

 うーん、うーん?

「いや、一応他人の家だし…ね?」

「大丈夫だって。さ、行こ」

 半ば強引にイリアに連れられ、私とイリアはこの家の書斎へと向かった。


 部屋の中に入ると、まず目に入ってきたのは天井まである高さの本棚。そこにびっしりと詰まっている本の数々。

 個人的にはここでもう既に満足していた。

「ここがリットの書斎。ま、リットがお父さんから譲り受けた部屋なんだけどね」

「リットのお父さんって、確か」

「そう、魔法学の研究者。『転移ホール』も、その研究の成果だって言ってた」

 身近にこんなすごい人が居たのか……と関心しつつ、部屋の中を見回す。

 やはり、見たことない本がたくさん並んでいて、私の好奇心を刺激してくる。

「これ、読んでみてもいいのかな」

「良いんじゃない?」

 時々思うが、何故リットの家なのにイリアが許可を出しているんだろうか……

 そう思いつつ、私は手に取った「よくわかる魔法学」という本を開き、適当なページで止めた。

 そこは、「魔結晶」と呼ばれる、かつて魔法の繁栄に一役買った魔法資源について書かれているページだった。

『──魔結晶とは、大気中にある魔素と呼ばれる魔法を使う際に使用される元素が、地中に取り込まれ、結晶化したものである。強大な魔力が封じ込められた結晶であり、別名『魔法石』とも呼ばれている。

 その魔力の強さ故、現代文明の発展において活用され、重宝されてきた。しかし、近年においては採掘される魔結晶の減少が進み、あまり使われる事は無くなってきた。──』

 文中の「魔素」については、ハイジ先生から、また学校の授業で度々聞くので存在は知っていた。その魔素が結晶化したものが、あの「魔結晶」……

 まだまだ、魔法について知らないことが多そうだな、と思いつつ、別のページを開いてみる。

『──魔法の発動について。人間が魔法を発動することが出来る原理は、未だ解明されていない。発動方法は詠唱など様々ある。しかしそれはあくまで魔法発動の前段階であり、その後どのようにして人間の体内から魔法が放たれるのか、その原理は未だ謎のままなのである。しかし、「魔素」というものが関係している、という事は近代科学で判明した。──』

 確かに、と読みながら思った。

 魔法の詠唱自体は簡単だが、詠唱をした後の事は私にもよく分かっていなかった。

 何気なく使っている魔法でも、謎が多いんだなあと思いつつ、私はその本を閉じ、戻した。

 将来は魔法学を学んでみようかな。魔法使いになったとてやる事はあまりないだろうし。


 気づけば書斎に入ってから30分程が経っていた。あの後も色んな本を読んでいたが、どれもためになるような内容で終始楽しかった。

 一方のイリアはと言うと。

「じー……」

 どうやら何かを見つめている様子だった。

「何を見つめてるの?」

「ああ、これこれ」

 イリアの目線の先には、本棚の横に意味深な出っ張りがあった。

 それはいかにも「隠し部屋の入口」のようなもので、押してくださいと言わんばかりに飛び出していた。

「これ押したら隠し部屋……とか」

「そうだよ隠し部屋!前から怪しいと思ってたんだよねー、これ」

 どうやらイリアは存在自体は知っていたらしい。

「今ならナギサちゃんもいるし、これ押して何か起きても許されたり」

「何故そこで私を」

「いやあ、リットって女の子には怒れないから、まあリットは基本誰にも怒らないけど」

「と言うか、最初からリットに許可もらって開ければいいんでは……」

「あ、その発想はなかったわ」

 まずその発想に至るだろ普通。リットを信用しすぎてて怖いわこの子。

「ま、とりあえず押してみよっか」

「ちょおおお待てええええ!人の話聞いてた!?!?」

 イリアがそれはもう自然にその出っ張りに手をかけるものだったから、勢い余って叫んでしまった。

「大丈夫だって〜」

 と、呑気に言いながらイリアはその出っ張りを押してしまった。

 その出っ張りは見事に本棚にハマった。……が、何も起きない。

「あれ、何も起きないね」

「うん、何だったんだろ──」

 油断していると、突如本棚がゆっくり動き出し、横に移動していく。

「うおおおおお!やっぱこれ隠し部屋!?隠し部屋だよね!?」

 本棚の奥から、隠し扉が現れた。

「うっそでしょ……本当にあるなんて……」

「さ、入ってみようか」

 後でリットに何て言い訳をしようかな、と考えつつ、扉を開けるイリアについて行く。


 中は窓もなく暗闇だった。

「うーん、どこかに電気ないかな……」

 光魔法でもあれば今この場を照らすことぐらいなら出来るが、生憎まだ覚えることが出来ていない。

 電灯のスイッチを探すべく暗い部屋をさまよっていると、何か細いものが顔に当たった。

「ん、なんだこれ」

 私は自分の顔に手を当て、その細いものの正体を確かめる。

「!これって……」

 試しに、その細いものを引っ張ってみる。

 カチッという音と共に、部屋の中に灯りがついた。

「これが電気のスイッチだったのか…」

 そう、私が今引いたのは、電気をつけるための紐。これを引っ張ると電灯がつく仕組みになっている。

 今はスイッチで付け消しが主流となっているため、このタイプはあまり使われなくなってしまったのである。

「あーあ、見つかっちゃったか」

「ひぃ!!!」

 ……と、後ろを振り向くと、そこにいたのは。

「なんだリットか……」

 部屋の入口にはリットが立っていた。

「ここから音がしたから何かと思えば、ここへの扉を開けた音だったんだね」

「ごめんなさいリット、勝手に入ってしまって……」

「大丈夫大丈夫。特に隠そうと思って隠してたわけじゃないから」

「ね、大丈夫だったでしょ?」

「イリアはもう少し自重して」

「ハイ」

 声の正体も分かったことなので、改めてこの部屋の中を見てみる。

 ……どうやら、私が見ても何も分からないような研究のための器具などが所狭しと置いてあった。

「ここは、僕の父さんが昔魔法学の研究に使っていた部屋なんだ。今はもう使わないから、僕がたまに使わせてもらっているんだ」

「そうなんだ、今はリットがここで何かの研究を?」

「いや、僕はまだ何にも出来てないよ。興味を持って初めて見たはいいけど、魔法学はすごく難しくて、僕にはまだ理解出来なかったんだ。」

 実際、私たち魔法使いは魔法の原理をよく知らないまま魔法を使ってることが多い。だが、最近は魔法学を教える学校も多くなってきたため、魔法学は一般的な学問になってきた。

 しかし、魔法学は究めれば究めるほど難解で、まだわかっていないことの方が多かったりもする。

「僕は父さんの影響で魔法学に興味を持ってるんだけど、この辺りには魔法学を教えてる学校はないから。独学でやってみてるけど、なかなか上手くいかない」

「そっか……」

「まあ、父さんが帰ってきた時には色々教えて貰えるけどね。本当にたまにだけど、楽しいよ」

「リットのお父さん、教えるの上手だもんねー」

「昔は教師になりたかったらしいよ、途中で諦めたみたいだけど」

 リットは苦笑いすると、続けた。

「…それにしても、ナギサが羨ましいよ。この地方でいちばん有名な魔法学校に通ってるんだもん」

「そうだった」

 そうだった。たまに忘れかけているが、私の通っている学校はかなり有名な学校なのだと。すみません、もっとまともに授業受けます。

「転移ホールが実用化されたら僕もミラル王国に移住しようかな。あそこに通ってみたいし」

「私はどうするのよ」

「イリアもついてくる?」

「もちろん」

 と、そんな会話をしていると、リットが何かを思い出したように言う。

「あっ、そういえば僕まだ夕飯の支度出来てないや。あともう少しで出来るから、適当にくつろいどいて」

 リットはそう言うと、そそくさとその部屋から出た。


 その後は書斎に戻り、リットに呼ばれるまで読書を堪能した。

 イリアは途中で飽きたのか、先程の部屋に入って色々見ていたらしい。

 私も少しではあったが、有意義な時間を過ごす事が出来た。こうして何事もなくミラルに戻れればなあ、と思いつつ。

 決して今自分が置かれている状況から逃げている訳では無い。そう、逃げている訳では無いのだ。ただちょっと逃げているだけなのだ。

 ……あんまり言い訳になってる気がしないけど。


2ヶ月ぶりの更新です。サボってた訳じゃないです。

今回から書き方を変えてしまいました。特に意味は無いです。


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