6頁 ここはどこ?私はナギサ
「…………!!!!!」
久々にあの夢を見ていた。
「……はぁ」
1人の少年が、ベッドで起き上がりため息をつく。
「忘れたと、思ってたんだけどな」
ベッドから出てカレンダーを見る。
「……あ、そうだった」
カレンダーには、今日の日付に赤い丸が書いてあった。
「今日は、僕が朝の見回り担当なんだった」
少年は着替えると、朝食を食べずそのまま家を出た。
「おおリット。おはよう。早いねぇ」
家の周りを掃除していた老人が、少年に話しかける。
「おはようございます。今日は僕が森の見回り担当ですからね。」
「おおそうだった。今は魔獣が出ないとはいえ、気をつけるんじゃぞ」
「大丈夫です。魔力の腕輪、持ってますし」
リットという少年は老人と別れると、村の外れにある森へと向かった。
「ここ、何度来ても慣れないんだよな……」
意を決し、リットは森の中へと入っていく。
昨日雨が降っていたせいで、森の中には霧がかかっていた。
「視界が狭い……注意しないと」
リットは周りを見渡しながらゆっくりと進む。
すると。
「ガサガサ…………」
「ひぃっ!」
突然、背丈ほどの大きさの草から音がした。
「もしかして…………」
そのガサガサという音は、リットに向かって近づいてくる。
「く、来るなぁ!!」
「ばぁ!!!」
「いぎゃあああああああああ!!!…………って、イリア!?」
草むらから勢いよく飛び出てきたのは、イリアと呼ばれた少女だった。
「どーお?ビックリした?」
リットはすっかり腰を抜かして、倒れていた。
「おどかすなよ…………ただでさえ視界不良なんだから……」
「ごめんごめーん。」
イリアは、笑いながら謝っていた。
「今日はリットが見回りだって聞いたからさー。暇だったしついて行こうかなーなんて」
「それでもあの登場の仕方はないと思うぞ」
「えー?あの渾身の登場をないだってー?」
「とりあえず、さっさと見回り終わらせて帰ろう」
イリアは、リットと行動を共にすることにした。
夜に歩けば迷子になりそうな程広い森の中を、2人の影が歩いていた。
うっすらと、日も登ってきていた。
「しっかしいつまでこんな見回り続けるのかなー?もう魔獣はいないって言ってたのに」
イリアがそう言いながら小石を蹴った。
「仕方ないだろ、この地方では1番魔獣の被害が酷かった国なんだから。イリアだってその事はよく知っているだろ?」
「そうだけどさぁ……」
「それに、この森は魔女が住んでいるって言うし」
リットがそう言うと、イリアはものすごい勢いでリットに飛びついて来た。
「お願いしますなんでもしますから許してください」
「冗談だよ。歩けないから離れて」
イリアは顔をふくらませ、渋々離れた。
「もー、リットのそういうとこ嫌い」
「ほっとけ」
そんな会話をしながらも2人は巡回ルートを回り、もうすぐ1周の所まで来ていた。
「あれ?もうすぐ終わり?」
「うん、そうだね。何も無くてよかった」
「まだわからないよ?この先に広場があるから、そこにめちゃくちゃ強い魔獣がいるかも」
「なんでイリアがそういうこと言うのよ」
「えへへ」
と、今日の巡回ももう終わり、というところで。
「……ねえ待ってリット。あの広場の真ん中にいるのって……」
イリアは広場の方を見て、そう言った。
「広場?あそこに何かいるの?」
リットも目を凝らして、広場の方を見た。
「……!!あれは……!!」
2人が見た「何か」。それは───
「人だよ!あんな所で倒れてたら……!!」
「急ごう!!」
2人は広場の方へ走っていった。
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………。
………………。
あれから、どれぐらい時間が経ったんだろう。
私は学校で、魔導書を狙っていた男に会ってしまい、負けた。そして、転移魔法で飛ばされ、今ここに───
あっ!待って、魔導書!
鞄を探すため起き上がろうとする。しかし、アルに蹴飛ばされ壁に背中を強く打ち付けられた衝撃がまだ残っており、立ち上がることが出来ない。
あの時よりは良くなったが、まだ痛みは残っている。もう少し、ここで横になっていた方が良さそうだ。
──ところで、ここはどこなんだろう。
まず、仰向けで青い空と木々が見えるから屋内ではない。
首はかろうじて動かせるので、横になりながら辺りを見渡す。
……うん。多分ここは森だ。
森ということしか分からないため、ここがミラルなのかもわからない。どうしよう。
と、途方に暮れていると。
「…………。」
微かに、人の話す声が聞こえてきた。
耳をよくすまし、声の方に耳を傾ける。
「……れは……!!」
声はだんだん大きくなっていく。恐らく、私の存在に気づいてくれたのだろう。
てか、こんな所まで人が来るとは……。
「大丈夫ですかー!!」
遠くから聞こえてきた声は徐々に近づいてくる。
「リット、あれ女の子だよ!」
どうやら2人組らしい。
「すみません、あの、助けてください」
私は仰向けになりながら、近づいてきた2人に声をかけた。
「良かった……生きてた」
「立てる?」
私の視界には2人の少年少女が入ってきた。
「ちょっと待ってくださいね、今背中がかなり痛くて立ち上がれないので」
「そういうことなら……」
と、少年は小さな鞄の中から腕輪のようなものを取り出し、腕に嵌めた。
「治癒魔法『ライブラ』」
少年は私の方に手を向け、治癒魔法を使った。
すると、私の背中の痛みは無くなっていた。
「これでどう?」
私は勢い良く立ち上がった。
「うおーう!!立てる!ありがとう!」
「良かった。僕の魔法が役に立って」
「いやー本当に助かったよ。このままだと森の動物のエサにされかねなかったからね」
「動物どころか、魔獣が出るかもしれないからね、この森は」
まっ魔獣!?!?
「えっ魔獣ってあの!?」
「そうそう。んまあとにかく、動けるようになったし、僕たちも家に帰らなきゃだからついてくる?えーっと…」
「ああ、私はナギサ。君たちは?」
「僕はリット。この森をぬけたちょっと先の家に住んでる」
「私はイリア。リットとは幼なじみなの。よろしくね、ナギサちゃん」
「うん、よろしく」
お互いに自己紹介をし終わったタイミングで。
「おっとそうだ。ナギサ、僕たちの家に寄っていく?」
「いいの?今途方にくれてたから助かる」
「いいよいいよ。僕の家はどうせ誰もいないし」
「ありがとう。じゃ、ついて行こうかな」
私はリットの家にお邪魔することになった。
森を抜けると、そこには小さな町があった。
ミラルにこんな所、あったっけ?
「ここはこの国でも1番小さな町だね。昔はもっと人がいたらしいんだけど、市街地の方に移住した人が多くて、今はあまり人は多くない」
「リット達は昔から住んでるの?」
「そう。生まれも育ちもここだよ」
歩きながらそんな会話をする。
数十分歩いていると、リットが目の前に見えた一軒家を指さした。
「ここが僕の家。」
「へえー。いい家だね」
リットの家は私の家よりも一回り大きかった。
リットが玄関の鍵を開け、そのまま3人とも入った。
「ただいまー」
「お邪魔します」
「なんにもないけど、ゆっくりして行ってよ」
リットに言われるがまま、リビングにある椅子に座った。
「あれ?イリアもここに住んでるの?」
「まあね」
イリアは自宅にいるかのようにくつろいでいた。
「ところでナギサ、あんな森で何してたの?昼寝?」
リットが私に聞いてきた。
「あー……別にお昼寝って訳じゃないんだけど……ちょっと色々あってね」
私はあの日から今に至るまでを簡潔かつ丁寧に話した。
「なるほど……学校に侵入してきた不審者を止めようとしたところ、思いっきり蹴られて最終的に転移魔法で飛ばされたと」
「それで飛ばされたのがあの森ってわけ」
ひと通り話した後で、私は思い出した。
「ってか鞄!私の鞄!森に置いてきたかもしれない!」
「鞄ってこれ?」
イリアが持ってきたのは、私の鞄だった。
「そうそう!持ってきてくれたの?」
「ナギサちゃん思いっきり忘れてたから。」
「やっべ」
イリアから鞄を受け取ると、私はすぐに中身を確認した。
魔導書は……入ってる。よし。
「イリアありがとう。これがなかったら私死んだも同然だったよ」
「いやいや。一応持ってきておいて良かったよ」
魔導書の無事を確認し、ひとまずは安心………
ではないッ!!!
そうだよ。すっかり平和で忘れてたけどここどこ!?
「そういえばナギサ。さっき魔法学校に通ってるみたいな話をしていたけど、もしかしてミラル王国のクロエ魔法学校だったりする?」
「そう、そこ。この服もそこの制服だよ」
「やっぱりね。ということはナギサはミラル王国に住んでるの?」
「そうそう。ところで、ここってどこなの?」
「ここは『エイト王国』。ミラル地方では珍しい王が治める国だよ」
待って、どこ???
「ちなみになんだけど、ここからミラルってどのくらい……」
「ちょっと待ってて。確か家にミラル地方の地図が……」
そう言いリットは奥の部屋に入っていった。
待つこと数分。
「ナギサー。ちょっと古いけど、ミラル地方の地図見つけたよー」
リットは古びた地図の本を持ってきた。
「本当!?」
「うん。でも……」
「でも?」
「この地図で調べた限りだと、ここからミラルまでは大体150kmぐらいあるみたい。歩きじゃ何日かかるか……」
「ひゃ、150……」
私は倒れそうになった。
「エイトはミラルから1番離れた国だからねー。かなり遠いよ」
「神様私はどうやらここまでのようです」
リットは苦笑いし、続けた。
「……でも、ちょうどいいタイミングで来たね、ナギサ。」
「どういうこと?」
「ちょうど今、僕の父さんが『転移ホール』っていうものを作る研究をしてるんだ。早ければ来週か再来週ぐらいには出来るらしい。」
「マジで???」
「一応それで今テスターを募集してるんだ。行先は、『ミラル王国』。」
こんな都合がいいことってあるのか。
「どうする?やってみる?」
「もちろん。帰るためなら」
私は即答だった。
「それじゃ、僕は父さんに連絡しておくよ。」
「何から何までありがとう、リット。」
「いやいや。困った時はお互いさまだしね」
「私に何か出来ることがあればいつでも言って。協力する」
「ありがたいよ。ナギサ。」
そうしてリットは電話をかけた。
「いやーしかしナギサちゃん、災難だねえ。」
イリアは私の向かいの椅子に腰掛けた。
「ほんと。あのバカ不審者のせいで」
実際、私はあのアルという不審者にだいぶキレている。過去クラスの男子に小説を濡らされた時以来の憤りを感じている。
「まあでも、とりあえず帰る手段は見つかったし、あとは帰った後にあいつをボコボコにしてやるだけかな」
「ナギサちゃん、元気だねぇ」
イリアは頬杖をつき話している。
「そういえば気になってたんだけど、イリアはなんでこの家に住んでるの?」
「……」
イリアは少し黙り込んだ後、こう続けた。
「……私の両親は殺された。家も燃やされたの」
「え……」
イリアはそのまま続けた。
「10年くらい前に、この国で戦争があったの。魔法戦争、とか何とか言ってたっけ。この国と隣の国で、戦争してた。もちろんこの町も被害にあった。」
イリアは少し俯きながら話す。
「その時、私はまだ子供だった。何が起きてるか分からなくて。気づいた時には、私の目の前からお母さんもお父さんもいなくなってた。私の家も……」
「……」
「その時に、リットも被害にあった。リットのお母さんは……」
私は唾を飲み込んだ。
「……お母さんは、家が崩れるのに巻き込まれて、亡くなった。」
「……そんなことが……」
「あの戦争で、何千何万もの人が死んだ。その中に、私の両親とリットのお母さんが……」
「……ごめんイリア。思い出させちゃって」
「ううん。大丈夫。」
イリアは首を横に振り、笑った。
「それで、リットのお父さんは辛うじて生き延びた。私は帰る場所がなくて、困ってた時に、リットが『僕の家においでよ』って。それから、ずっと一緒に住んでる」
「なるほどね……」
思わず辛い過去の話をさせてしまい、私は罪悪感にのまれていた。
「あの時は辛かったけど、今はもう大丈夫。空にいるお父さんとお母さんのためにも、私が生きなくちゃ」
「強いなあ、イリアは」
「そんな事ないよー。」
そんな話をしていると、リットが戻ってきた。
「父さんが、転移ホールが出来たらまた連絡するって。一応許可も取れた。」
「ありがとう、リット。」
リットはすこし伸びをした。
「さーて、そろそろお昼だしご飯でも作りますか」
「お?今日はリットが作るの?」
そんな2人を見ていると、私はなんだか幸せな気持ちになった。
シリアスな話聞いた後でこういう事言うのも本当に申し訳ないんですが、言わせてください。
私はラブコメか何かを今目の前で見てるんですか?
さっきの話を聞いていて思ったけどリットがただひたすらにイケメンすぎる。
「どうしたの、ナギサ?」
「ああいや、なんでもない」
今の、バレてなきゃいいけど。
リットとイリアの関係性については私も大変興味があります。あの2人だけでラブコメかけるんじゃないんですかn……すみませんなんでもないです。