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クロエの魔導書 ナギサと魔導書の出会い篇  作者: 雪見
1章 魔導書との出会いと始まり
5/9

4頁 覚えたての魔法

 魔法の修行を始めてはや2週間が経っていた。


 この2週間は、それはそれは大変だった。


 毎日放課後になったら自転車で爆走して先生の家に行き、レールさんの指導のもと毎日暗くなるまで様々なメニューをこなし……


 そんな日々を送っていると、いつの日にか。


「もしかしたら、今のナギサさんの魔力なら魔導書の魔法を使えるかもしれませんね」


 そう、レールさんが言った。


「本当ですか?」


「極魔法以外なら恐らく。試しに、今そこにカカシを出すのでなにか魔導書の魔法を使ってみてください」


「わ、わかりました」


 言われるがまま、私は魔導書を開いた。


「えーっと…………」


 ええいままよと、魔導書を適当に開いた。


 適当なページを開くと、魔導書が光りながら少し浮き始めた。


「ナギサさん!それで魔法を使う準備は整いました!あとは、それに魔力を込めてみてください!」


「ど、どうすれば……?」


「なんかこう、えいって感じで」


「はい?????」


 何が何だかよく分からなかったが、とりあえずいつも通り。


「や、闇魔法『ブラックホール』!!」


 そう叫ぶと、黒い球体がカカシを包み、呑み込んだ。


 カカシは、跡形もなく消えていた。


「こ、これ、で……」


「おー、さすがクロエの魔導書。えげつないですね」


 レールさんはいたって冷静だった。


 当の私はと言うと。


「こ、これって相当ヤバい魔法なのでは…………」


 焦っていた。自分が放った魔法の恐ろしさに焦り倒していた。


「うーん、これを生身の人間で試したらどうなるか気にはなりますけど、倫理的にアレなのでやめておきましょうか」


「んな呑気な……」


「まあとにかく、これで魔法の幅が広がりましたね。今のも恐らく上位魔法でしょうし」


「今のが上位魔法なんですか?」


「そうですね。その『クロエの魔導書』には、上位魔法が多く載っています。今ナギサさんが使った『ブラックホール』も、並みの人には到底扱えない魔法ですし」


「す、すごい......」


 正直今の魔法はどこで使うものなのかまるでわからないが、レールさんがここまで言うのだからかなりすごいのだろう。


「さて、今日のところはここまでにしておきましょうか。ナギサさんも明日学校ですよね?」


「そうですね。最近はこの疲れで結構居眠りが多くなりましたよ」


「ふふっ。ナギサさん、しっかり休んでくださいね」


 レールさんが微笑む。


「じゃ、また明日の放課後」


 自転車に跨り、帰路に着いた。



 周りはすっかり暗くなっていた。もう9月の中頃なので、6時前なのにもう真っ暗。


 自転車のライトをつけ、道を走る。


 ちょっと寒くなってきたかな。


 そんなことを考えながら自転車を漕ぐ。



 ふと空を見上げると、そこには満天の星空が広がっていた。


 思わず、自転車を停めてしまうほど魅入っていた。


「綺麗……」


 最近都会にいたせいで忘れていたが、この時期の夜空はとても綺麗なのである。昔よく母さんと見に行ったのを覚えている。


 ──。


「……おかあさん!あれ!みてみて!」


「こらこら、あまり大きな声を出しちゃダメだよ」


 小さい頃、私は毎日母さんと一緒だった。


「わぁ……!きれい……!」


 空には1面の星。天の川も少し見える。


「この時期は星が綺麗だからね。ナギサが喜んでくれて良かったよ」


 母さんも、空を見つめながら私に言った。


「…………」


 空を見つめたまま、母さんは黙り込む。


「どうしたの?」


「……いや。なんでもないよ。」


 あの時、私は母さんの身の回りで起きていた事に気付いていなかった。母さんが、どんな苦しみを負っていたのかも。


「寒くなるし、そろそろ帰ろうか。帰ったら、ナギサの好きなスープでも作ろうか」


「やったー!」



 それが、数少ない母さんとの記憶。幼い時の、母さんとの出来事。



「…………。」


 星が綺麗すぎて、思わず過去の回想を挟んでしまった。


 母さん、元気にしてるかな……



 本格的に寒くなってきたのでそろそろ帰らなきゃ。


 自転車に手をかけ、漕ぎ出した──


「あいた!!!」


「わっ!!!すみません!!!すみません!!!」


 前にいた人に気付かず、ぶつかってしまった。


「いてててて……びっくりしたよ」


「あああ!!!本当にすみません!!!治療費なら──」


「ああ、良いんだよ。このくらい別に軽いしね」


 男性の声だった。


「いや、でも──」


「いいからいいから。ほら、顔を上げて」


「……」


 私は下げていた頭を上げる。


 その男性はフードを被っていて、顔を見ることは出来ない。


「周りが暗いから仕方ないよ。僕のことなら大丈夫、怪我もないし」


 明るい声で、その人は話す。


 この声、どこかで聞いたことがあるようなないような……いや、多分ないな。


「いや、本当にすみません……注意不足でした」


「いやいや、僕も前をあまり見ずに歩いていたから。この星空に見とれてしまってね」


「そうなんですか。綺麗ですよね、今日」


 気付けばその人と共に空を見上げていた。


「僕はこの星空が好きなんだよ。昔、まだ小さい子供と一緒に見に行ったのを思い出すなあ。今はもう離婚して独り身で旅をしてるけどね」


 男性は小さな声で呟く。


「さて、いつまでもこうしてのんびりしている訳にもいかなかったね。えーっと……」


「あっ、私、ナギサっていいます。」


「ナギサ、いい名前だね。覚えておくよ。ほんの少しだけだったけど、有意義な時間が過ごせたよ」


「いや、あの、ほんとすみません……突然自転車で衝突なんてしてしまって」


「いいのいいの。じゃ、僕はこれで行くから。」


 右手を軽く振り、その人は歩き出した。


 っていうか、名前覚えられたから後で追いかけられたりしないかな。怖い。


 ……まあもともと、私の注意不足が招いた事故なんですけどね……


 だんだんと寒くなってきたので私も早く帰らなきゃ。


 倒れた自転車を起こし、自転車を漕ぎ始めた。



「…………ナギサ、ね。覚えておくよ。」



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 家に帰る頃には7時少し前だった。


 うーん、やっぱり自転車乗ってるとはいえ寒いな……。


 玄関の横に自転車を置き、鍵を開けて家に入ろうと──


「…………?」


 したその時。異変に気づいた。


「扉が少し開いてる……?」


 暗くてよく見えないが、明らかにおかしい。


 いくら日常的にドジを踏む私でも、こんなミスはしない。


「…………」


 気をつけた方が良さそうだ。



 ゆっくりと扉を開け、足音を立てずに家に入る。あれ、これだと私が泥棒みたいだな。まあいいや。


 奥の方の部屋から、小さく物音が聞こえる。犯行中のようだ。


 息を殺し、ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。


「……でさー。」


 小さい話声も聞こえてきた。空き巣にしてはだいぶ犯行がずさんですね。鍵も開いてたし。


「おい、うるせえよ。誰かが入ってきたらバレるだろうが」


 小声で話してるつもりなのだろうが、私にはしっかり聞こえている。


「あっ、ごめん。でも、全然見つからないね、例の魔導書」


 魔導書…?


「この家にあるのは確かなんだが……」


 恐らく、今私が持っている「クロエの魔導書」を狙って……?


 と、犯人にゆっくり近づいていたその時。


 ミシィ


「ん?」


「あ?」


「(やってしまった!!!!!!!)」


 私が踏んだフローリングの床が、微かにミシミシと音を立ててしまった。


「おい、誰だ」


「…………!!!!!!!」


 足が動かなかった。


「ネズミでも入ったかな……」


 どうしよう、どうしよう……!!


「とりあえず電気つけてみたら?」


「んあ、あーこれか……」


 パチッとスイッチを押すと、すぐ電気が付いた。


 目の前には黒いローブを来た二人の男が立っていて、もう既に見つかった状態だった。


「すみません!ここ私の家なんですけど!!」


 この窮地から抜け出すためとった行動。


 それは、もう正面からぶち当たるということ。


「あー……ジェイ、どーするよこれ」


「どうするも何も……」


 あれ?これ結構ヤバい感じ?


「…………」


 私とそのジェイと呼ばれた男は睨み合う。


「…………す」


「す?」


「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「…………え?」


 大声を上げるなりその男は土下座をした。それはそれは綺麗な土下座だった。


「ちょっとジェイ!?!?」


「いやあの、完全にこっちが悪いから。ほら、お前も謝れ、レイ」


「そうですよ。何勝手に人の家上がって物漁ってるんですか。通報しますよ」


「うぐぐ……ならば!」


「よせ、レイ!」


「正面切ってこいつを殺すまで!」


 そういいレイと呼ばれた男は飛び出し、私の方に飛びかかってきた。


「『ブラックホール』!」


 私は咄嗟に魔導書を開き、覚えたての魔法をその男目掛けて放った。


 ブラックホールは男の右腕に出現し、右腕を飲み込んでしまった。


「あああああああああ!?!?!?!???!?」


 うん、いや、ほんとごめんなさい。まだ制御出来ないんですよね。


「ほーら言わんこっちゃない…………」


 片腕を失ったレイは叫びながらしばらくのたうち回っていた。


 ただ、レイの片腕からは血は出ていなかった。


「すみません、うちのバカがとんだご無礼を。腕のことはご心配なく、後ほどダークディメンションホールから戻しておきますので」


 なんだこの人。私が知らないことをスラスラと。


「ところで先程貴方様が魔法を使ったその『クロエの魔導書』、それはどこで拾ったもので?」


 うーん、こいつも怪しいわ。これ。


「い、いや?これ、こ、これはレプリカで…………」


 明らかに動揺してしまった。


「…………ほほう?」


 ジェイは不敵な笑みを浮かべ、言った。


「我々、『魔眼教会』にはその魔導書がどうしても必要でして、その、譲っていただくことなど可能で…………」


 あるわけなかろう。人の家に不法侵入した挙句よくもそんなことが言えますね。呆れました。


「あー、じゃあもう帰って下さい。それか今ここで警察に突き出しますよ?」


「そんなこと言わず!人助けだと思って!」


「もしもし警察ですか?……ええ、なんか黒ずくめで『魔眼教会』とか名乗ってて……はい、よろしくお願いします」


 よし、これで通報完了。


「んで?あなた達、逃げるなら今のうちですけど?」


「すみませんでした」


 ジェイはレイを引っ張り、そそくさと家から出ていった。


 人の家に勝手に上がり込んだとは思えないほどメンタルが弱かったな……


 なんか疲れたし、夕飯食べて寝るか…。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「それで?警察呼ばれてビビって家を飛び出したと」


 市街地の裏路地。レイの片腕を治しているジェイに向かってアルはそう言った。


「いやぁ……あの魔法使いなかなかやりよりましてですね……」


「なんか言語おかしいぞ」


 レイは片腕を失ったショックで起きない。


「お前らならやってくれると思ったんだがなぁ……だいたいなんだよ、『魔眼教会』とかいうダサい名前の教会は」


「ああ、それは私がつけたんです。本物の『教会』は数日前に辞めまして、私とこいつは2人でそういう名前でやっていこうかと……」


 ふーん、と後ろを向き、アルは言い放った。


「お前らクビだわ。もう俺と関わるな」


「そ、そんな!!どうしてですか!!」


「お前らならやってくれると思ったんだがなぁ……俺の見当違いだったわ」


 そういうわけで、とアルが手を振り払う素振りを見せた。


「まっ待ってください!次こそは!」


「しつけえよ。そいつみたいに片腕とばしてやろうか?」


「い、いや、それは……」


「金輪際俺に関わるな。俺は忙しいんだ」


 そう言い放ちアルは路地裏を出た。


「あの魔法使い……あいつから『魔導書』さえ奪えれば……」


 アルは夜の闇に消えていった。

最近寒いですよね。この時期寒いしか言ってません。それはそうと「魔眼教会」とかダサすぎませんかね。

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