超絶有能メイドは馬鹿力
投稿空いてすみません、新作にかまけてました。
「──う〜ん、数学終わったー!」
カオスな空気が解消されて、各々が真面目に勉強し出して早二時間。
俺がミオにいっぽい的に感じていた気まずさも晴れてきた頃、楓はぐーっと伸びをした──おっと、身体反らないで。おっぱい強調されちゃうか、目が吸い寄せられちゃうから。
「おめでと〜。俺のもやっといて〜」
「いやで〜す」
どさくさに紛れて俺の分も終わらせてもらおうと思ったが……チッ、無理だったか。
丸付けまでしっかり終えた楓はノートを閉じて、別の課題をやろうとしたのだが──
「あっ! 化学の提出ノートに数学の答えを書いちゃいました」
「天罰だよ、俺の課題やってくれないから」
「そうだよ〜? 偉大なる時空神であるピリオドに逆らった罰だよっ♪」
「へ〜。ピリオドセイバー様の神様らしいとこ、初めて見……」
「──ごめんなさいぃぃっ、だからその名を言わないでぇ〜! あと、『バー』じゃなくて『ヴァー』だからっ!」
興じたミオに乗じて反撃と言わんばかりに、『ピリオド』の名を出してきた楓。
黒歴史を掘り起こすのはもうやめてくれとスライディング土下座を見せると、面白そうにくつくつと笑っていた──笑ってる暇あったら、『セイヴァー』だって覚えてよ! ……いややっぱ忘れてっ!?
「やっぱり柊仁君は面白いですねぇ〜」
「……いや、ちっとも面白くないが?」
「いえいえ最高です、サイコー」
「そうそうpsychopath〜♪」
「サイコパスは違うだろぉう!?」
楓に便乗してとんでもない事を言ってきたミオ。それはツッコまずにはいられない。
俺は元厨二病であってサイコパスではない。今の俺は普通に社会で生きてけるし、適合だって出来る──昔は無理だっただろうけど
俺の盛大なツッコミに、ミオは「にしし♪」と可愛らしく笑った。
「まぁ、それはそれとして──このノート、どうすれば良いでしょうか?」
「また書き直すってのも……メンドーだよなぁ。カッターで切って貼れば?」
「う〜ん、あんまり好ましくはないんですけどねぇ」
数学の課題はノートのページ数にして10枚ほどの量、これを本来のノートに写すってのはかなーり面倒くさい。
それに書いてしまったものを消すにしろ消さないにしろ、結局同じノートに化学の課題をやらなければならない。
「仕方ありませんし、そうしますか。柊仁君、カッターはどこに?」
「う〜んと、何処だったっけなぁ──怜音さ〜ん、カッター持ってきてもらえますか〜?」
──いくら丁寧で几帳面な性格をしている楓といえども、それは流石に一からやるのは選ばなかったようだ。
しかし、一つ問題があるとしたら……カッターの場所忘れた。
カッターなんて『悪役、刃物ぺろぺろしたい症候群』の真似をしていた頃以来、久しく使っていないし何処にしまったか覚えていない。
だが、そんな時の怜音さんだ。
この家にある、ありとあらゆる物の位置を把握している怜音さんの事だ、きっとすぐに持ってきてくれるだろう。
そう思って、今は来客がいる関係で隠密行動している怜音さんに『カッター持ってきて』とお願いした。
お願いしたのだが──
「申し訳ございません。現在、この家の中にカッター、ハサミ及び刃物類はございません」
「……なんて?」「おっ、美人さん」
いやいや、カッターは万が一にも無いとしてもハサミはあるだろ〜ぅ。
まったく〜、珍しく置き場所を忘れちゃったからって嘘つかなくていいのに〜──というか照示、怜音さんに興味示さないで。あっち行って、しっしっ。
「先ほど、柊仁様が『今すぐ家中の包丁及び刃物類を粉々に破壊しておいてくださいっ!』と心中で指示なさったではないですか」
「──まさかの心を読んだ上に本当に実行を?!」
さも当然かのように理由を説明すると、それを裏付けるかのように小さな小さな金属片達を敷いた紙の上にザザーっと、掬った砂をこぼすかのように落としてみせた。
怜音さんにとっては刃物を砕く事はそう珍しい事ではないのだろう。だって、動揺の欠けらもないんだもん。
だけど、俺は粉々になった元刃物達を真近で見せられて──
(──わぁ〜、俺の家ってこんなに刃物あったんだ〜)
俺の思考は停止した。だって仕方ないじゃん、俺は人間なんだもの、常人なんだもの。
元は物達の無残な姿を見て思考が止まらない訳ないじゃん。
──というか、まさか包丁も砕いた? あんな硬い物体、この一瞬でどうやって……?
思考停止したまま金属片に手を入れては溢してを繰り返していると、斗弥とやり合っていた照示がいつの間にか立ち上がっていた。
彼はそのまま俺達の方に歩いてきて……──痛てっ。手ぇ切った……。
「──おぉ、麗しの人。今宵、俺に夢を見させてくれませんか?」
「お戯れを、神代様」
「戯れなんかじゃないさ。俺は貴女をこの上なく美しいと思い、一夜を共にしたいと心のそこから思っていますとも! あと、俺の事は照示と呼んでくださいな」
突然、物すっごいキメ顔で気色の悪いことを言い出した照示。
あまりのキショさに、流石の怜音さんも表面上しか取り繕えてない──綺麗な顔が引き攣ってますよ〜。
それだけ引き気味……というか完全に引いている怜音さんを前にしても、何を気にすることなく照示はアタックを続けた。
そんな時、二人の間に割り込んだ影があった。
「──ちょっと、私の怜音に手を出さないで?」
「あ? 俺の邪魔をするんじゃねぇ、ぺったん女」
「あー! あー! 今、言っちゃいけない言葉を言ったなっ!」
「ふっ、事実じゃねぇか、このまな板ぺったん無乳女。もうここまで無乳だと壁だな、ベルリンの壁。早く崩壊しちまえ」
「あのおっぱい女だってそこまでは言わなかったんだけど〜!? も〜っ、何なのこの男?!」
従者であり友達であり家族である怜音さんに危険が迫っているという事で、満を辞してミオが出動した……のだが、可哀想になるくらいの『むにゅーラッシュ』に早くも冷静さを欠いた。
あのミオを出会って三秒で怒らせるとは……照示、何者だ?──あっ、女の敵かぁ。じゃあ、仕方ない。
そんな女の敵さんは『むにゅーラッシュ』で矛を収める訳もなく、数秒もしないで口を開いた。
「そもそも、俺はお前の存在が気にいらねぇんだよ。『かえ×しゅう』の間に入るんじゃねぇ!」
「は〜、何それ? ピリオドと居ようが居まいが、私の勝手でしょ?」
「だ、か、ら、それを許さねえっつうの!」
「ぐぎぎぎぎぎ」「ぐぬぬぬぬぬ」
──ミオって人と喧嘩する才能でもあるのかしら?
楓ともそうだったが、どうしてこれだけ人とドンパチやってしまうのか……いやまあ、今回は完全にもらい事故な訳だが。
何というか……周りの人がミオと相性悪い。
だが──
「これほど素敵な女性の近くに、ぺったん女が近くに寄ってんじゃねえ」
「──お嬢様を悪く言うのは、いくらお客さまとはいえ許しませんよ? その口に金属片つっ込んで、口内傷だらけにして差し上げましょうか?」
「そうだよ、おにーちゃん。抱くも寝るも好きにしたら良いけど、悪口は言っちゃダメ」
「チッ……」
口説こうとしていた女と大好きな妹に諭されて、照示はバツの悪そうな表情を浮かべた。
俺としてもさっきまでの照示は見るに余ったから、二人が怒ってくれてよかった──というか、抱くのと寝るのは許可してしまうのか……妹ちゃんよ。どうせならそれも怒ろうぜ……。
「神代くん……」
「なんだよ?」
そんな照示にとってバツの悪い状況の中で、楓がトコトコと近付いていった。
また何か叱られるのか、そう思って高圧的な返事をした照示。
しかし──
「──『しゅう×かえ』じゃないよ。『かえ×しゅう』だよ?」
「いやそこかよ! というか、ぜってぇ〜に柊仁が攻めだ」
ミオとの言い合いの中で登場した『しゅう×かえ』を訂正するために、わざわざ不機嫌な照示に近付いていったのだった。
それには不機嫌照示も調子を崩されたようで、珍しくツッコミを一本。
「いやいやいや、受けの時の柊仁君は可愛いですよ〜? なんなら、今見せてあげましょうか?」
「楓やめて。今だけは絶対にやめて」
ミオや怜音さんはいいにしても、斗弥とか天乃ちゃんがこの場には居るの!
俺の恥ずかしい姿なんて……って、え? 俺が受けの瞬間なんてあったっけ? 基本俺が攻めてるというか、カウンターパンチ食らわせているような……あれ?
──たった一つの疑問を残しながらも、勉強会はまだまだ続くのだった。




