元厨二病達はスターを求める。私も星がほしーです
──家事を賭けたパーティゲーム大会。それが決着となるまで非常に多くの事があった。
「──食らえっ!」
「ちょっと! 今は柊仁君の前ですよ!」
「へへーん、ゲームの時は別だよ〜ん♪」
「くっ、この!」
ようやくスターを手に入れられるかもしれないターンとなった楓。
しかしその直前、ミオに妨害アイテムを投げつけて、キッと眼光を鋭くしていた。
「──おっ、二対二のミニゲームだ。怜音さん、お願いします」
「こちらこそです」
「くっ、なんで私がこの子とチームに」
「足引っ張らないでね〜」
「こっちのセリフです!」
サイコロを振る時間が終わり、ミニゲームの時となった。
そこで選ばれたミニゲームは二対二の形式のもので、チーム分けは俺と怜音さん、楓とミオとなった。
俺と怜音さんはともかく、楓とミオは犬猿の仲……もとい猫狐の仲。
これは楽勝だな──そう思っていたのだが、協力する時になったら案外良いコンビネーションを見せてきた。
というよりも、どっちが多くチームに貢献出来るかとチーム内で勝負が起こっているように見えたのだが……まあ、危なくも余裕を持って俺達が勝った。
「ようやくスターゲットです」
「──そのスター、頂戴致します!」
「あッ! くぅぅぅぅぅ、油断しました!」
俺やミオの妨害を乗り越えて、楓はようやくスターを手に入れられた。
しかしその直後、怜音さんがお化けキャラに大量のコインを払って、楓がせっかく手に入れたスターを奪い取った。
語気の様子からも分かる通り、怜音さんも大分熱中してゲームをしてくれている様だった。
まあ、怜音さんが熱中しているのは恐らく家事を奪われたくないという意志から来るものだろうが、それでも淡々とこなされるよりも熱中して楽しそうにやってもらえて嬉しい限りだ。
そして──
「──結果はっぴょーう!」
「「「イエーイ!」」」
一時間の長くも短いゲームを終えて、勝者が決まる時となった。
最終時点では俺と怜音さんが女子二人に一つだけスターが多い状態だった。
しかしこのゲームで一番熱中するとも言っていいのが、この結果発表前のボーナススター授与の時だ。
サイコロで一番進んだ人、マイナスのマスを一番踏み抜いた人──と多くの種類があるボーナススターの中から二つが選ばれて、スターが配られる。
ここでひっくり返される可能性は十二分にあり、一番緊張が走る時と言っても過言はない……と思う。
ゲームの進行はサクサクと進められ、最初のボーナスは──ミニゲームの勝利数。
配られたのは──
「おっ!」
「やったあ!」
ボーナスを配られたのは──俺と楓だった。
つまり、ミニゲームの勝利数で、慣れている俺と超初心者の楓が並んだという事だ。
まさかの結果に一瞬驚いたが──よくよく考えたら当然なのだ。
何をやっても一流レベルの怜音さんは意外にもこういうゲームは苦手だったようで、苦戦していた。
共感覚で常時ヒントがあるミオはちょこちょこ俺に肉体的に妨害をしてきていた。
そして残った楓が地の容量が良く、一番集中してやっていたから順当に勝利数を積み上げていく事ができたのだった。
むしろ、ミオの妨害を受けつつもそんな楓に並んだ俺を褒めてほしい。
「──ささ! 次のボーナスは?」
ミオが『早く早く』と急かしてくるから、止めていた進行を再開させた。
これで勝者が決まる訳だが、ボーナスが与えられる人によっては困った事になる。
まず、怜音さんが与えられたら、一位が同率一位で俺と怜音さんになる。
また、それは楓も同様で、楓の場合は一位が俺と楓の同率となる。
それはいい。だが──
俺に与えられた場合、一位が俺で二位が同率で楓と怜音さんとなる。
また、ミオが獲得すると一位が俺なのは変わらないが、二位が他三人となる。
──同率二位が複数出てしまうのだ。
どう転んでも俺が家事を引き受けるという結果は決まった。
追加の要望では、怜音さんを家事業務から解放して休ませてあげたいから、どうにかこうにか楓かミオを二位の座に据えたいが果たして──
「ボーナスは……ハプニング。どうだったかな?」
「私、踏んでなーい! 負けたー!」
選ばれたボーナスはハプニングボーナス──どれだけハプニングマスを踏んだかで決まるが……どうやらミオは違うようだ。
とかいう俺も踏んでいない。
つまり、怜音さんが二位になるか、楓が二位になるか。
言い換えると怜音さんが家事を続行するか、楓が家事当番となるか……。
内心では『楓楓楓!』と唱えているが、結果は──
「──やりました!」
「ナイス!」
「くっ……負けました」
──スターが渡されたのは楓。これで二位が決定した。
「という訳で──一位が俺、二位が楓だ〜〜〜!」
「いえーい!」
ゲーム内進行と共に順位が確定したその瞬間、俺と楓はパチンとハイタッチを交わした。
勝利を喜ぶ俺達の横では、ミオと怜音さんが悔しそうながらも笑みを浮かべ合っていた。
「罰ゲーム──もとい勝者の景品として、俺と楓がこれから二週間の家事はやらせてもらいますよ?」
「はぁ……仕方ありませんね。負けてしまったのですから従いますよ」
勝利が決定したのも束の間、怜音さんはこれからどうにかこうにか家事をやろうとするだろうと踏んで、俺はその可能性を先んじて潰した。
案の定何かをしようとしていたようで一瞬ムッとされたが、すぐにいつもの表情を纏って折れてくれた。
「ミオもそれでいいね?」
「私はそんなに家事してた訳じゃないから別に何でもいいよ〜──それよりも、もう一回やろうよっ!」
「おっ、気に入ってくれた?」
「うん!」
俺の問いに対して大きく頷くとピカーンと輝く笑みを浮かべたミオ──どうやら相当お気に召してくれたらしい。
楓と怜音さんに視線を向けると、二人とも『やりましょう』といった笑みを浮かべて頷いた。
「罰ゲームはどうする!」
「えぇ〜、罰ゲームありでやるんですか?」
「そっちの方が面白いでしょ〜♪」
「まあ……そうですね」
再びゲームを始める──そうと決まってからミオの行動は早かった。
罰ゲームの設定。今度は本当の罰ゲームを決めるそうで、楓と二人であーだこーだ言い合っていた。
そんな様子を見て怜音さんは一言呟いた。
「──随分と打ち解けたようですね」
「ですね〜」
楓とミオの間でいつの間にか結ばれていた『俺の前では仲良く見せる』協定。
最初は取り決めに従って本当に『見せるだけ』だったのだろうが、それが繰り返される事で少しずつだが打ち解けてきている──ように見える。
これも演技だったら流石に二人に演劇の道を勧めるが、恐らく違うと思う。
まだ小競り合いをする事はあれども、最初の頃よりは絶対に良くなっている。
これからもっと時間を掛けていけば、少しずつ少しずつお互いに中を縮めていってくれるのではないかと俺は思っている。
「お嬢様が人に対してあれほど敵意を剥き出しにされた事はなかったので心配しておりましたが……杞憂だったようです」
「まあ、ミオも人間ですから。好き嫌いくらいありますよ」
「確かにそうですね。『好き』という感情ははっきりお持ちなようですし、その逆も当然ありますか」
うーん、何とも『そうですね!』と頷きがたい言葉。
そう思った俺は話題をミオから転換した。
「それこそ、怜音さんの方が人の好き嫌いがなさそうですよね」
「そう言われると……そうですね。あまりそういった事は思わないです」
綺麗な顎に拳を当てながら考え込んだ怜音さんは「強いて言うなら……」と前置いて──
「お嬢様に危害を加えないなら良し、加えるのならば悪し──と言った感じでしょうか?」
「そりゃそりゃ……」
さも当然と言った様子の怜音さんに、俺は怜音さんってミオのこと好すぎだよなぁ──と思った。
勿論、仕事としてミオの身を守らなければならないという事も確かにあるが、それ以上に『好きだから』という枕詞が付いていると思う。
良い人と出会ったな──とミオに温かい視線を向けていると、怜音さんは「こほん」と咳払いをした。
何だろうかと思ってそちらに視線を向け直すと、怜音さんは居住まいを正して恭しく告げてきた。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「それなら良かったです。これから二回戦が始まるようなので、そっちも楽しんでもらえたら嬉しいです」
「はい。全力で勝ちに行かせていただきますよ」
「受けて立ちます!」
楽しんでくれているだろうなとは思っていたが、こうして本人の口から言ってもらえるのは本当に嬉しい。
好戦的な笑みを浮かべて『全力で勝つ』と言ってきた怜音さんに、俺も同様の笑みを浮かべてそう返した。
どうやらミオ達の方も罰ゲームが決まった様で、これでゲーム開始──そう思った瞬間だった。
朗らかな雰囲気が一気に消えて、ヒヤリとした声色で告げてきた。
「家事の件ですが──中途半端な事をしたら速攻奪い取りますので、悪しからず」
「は、はい……頑張ります」
──脳裏に縫い付けるように怖く鋭く告げられた怜音さんの言葉に、何故だか俺の身体は震え上がったのだった……武者震いかな? うん、武者震いだな!