厨二病娘はまさかのまさかのとんでもお嬢様!?
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
終業式を終えて、ようやく終わった一学期に達成感と多少の寂寥感を感じながら学生諸君らは帰路に着いていた。
その表情は非常に晴れやかであり、話の内容もこれから始まる長い長い夏休みをどうやって過ごそうかなとキラキラしている。
そんなあっちゃこっちゃでキラキラとした雰囲気が弾けている中、そのキラキラを闇の底へと引きづり込んでしまいそうなくらい真っ黒なオーラが俺を中心にして衝突しあっていた。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
「むむむむむむむむむむむむむ……」
漆黒のオーラを生み出している元凶たる存在は──張り合う様に俺の片腕にくっついて、もう一方を睨みつけている一楓。
そしてそのオーラを増長させていく要因たる存在が──俺の片腕をしっかりと抱きながら、楓に挑発するかの様な笑みを浮かべている十六女澪。
──二人は周りの目なんて気にするなとでも言わんばかりの様子で、お互いを威嚇しあっているのである。
お陰でその中心に居る俺はさっきから好奇の目を向けられ、一部の男子達からは嫉妬の目を向けられるなんて貴重な経験ができてしまったではありませんか!
それが気持ち良いかというとそんな事はなく、寧ろこんな注目を集める様なことをして楓を推してる激ヤバ集団『天使派』と『怪盗派』の奴らに見つからないかマジでヒヤッヒヤである。
「あのー……楓さん? 少なくとも楓だけ離れてもらうという事は……」
「──ムリです!」
「あっ……、はい……」
こんな様子で楓は聞く耳を持たず、ミオも真似しているのか話を聞かず、俺はガンガン歩行速度を上げてこの場を退散するしかないのだった──
★☆★☆★☆★☆
──そもそもなんであんな事になってしまったのか。話は極々簡単である。
俺の元厨二病バレを伴って派手な初登場をかましてくれたミオは、彼女の為に用意されていただろう俺の隣の席に着いた。
二年ぶりの再会故に色々話したい事とかあったのだろう、それはもうベタベタと俺の元へと寄ってきた──それだけなら良かったのだろう。
だが、元厨二病バレの反動で灰になっていた俺から絶望の感情を感じ取ったのだろう。
ミオの雰囲気の変化を感じ取った瞬間には、俺の身体はミオによって抱きしめられていた。
そしたら、ね……背後の席からブリザードが吹き荒れて、一回世界が崩壊したよね。
それからずっと、楓はミオに対してライバル視というか、威嚇している──という訳だ。
因みに久しぶりに抱きつかれたにも関わらず、その感覚は変わっていなかった。
つまりどういう事かって──未だにぺったんのままという事だ……何処がとは言わないけど。
「──それで、どうして貴女は柊仁君の家まで来ているんですか!」
「どうしてって、私はピリオドと永久の誓いを結んでいるからよ♪」
「それが意味分からないって言っているんです!」
今まではずっと睨み合っていた両者だが、俺の家に着いた途端に爆発した……というか、楓が限界を迎えた。
流石にでかいキャリーバックを持ちながら、俺の家に堂々と入ってきた彼女の存在が許せないのだろう──何処の目線から切れているのかは分からないけれど。
「分からないのなら説明してあげましょう──私とピリオドは永遠を共にするパートナー! 故に今日から私もここで暮らします、以上!」
「い、一緒に暮らす!? どういう事ですか、柊仁君?!」
「いやいやいやいや、知らん知らん! 俺に詰め寄っても仕方ないよ!?」
キッと鋭い眼光を向けてきた楓だったが、流石に一緒に暮らすだなんだという話はした覚えはない……ない、よな?
久しぶりの再会だからか、異常に吹っ飛んだ思考になっているミオに制止をかけるべく、俺は閉じていた口を開いた。
「み、ミオさん?」
「な〜に?」
「一緒に暮らすってどういう事でしょうか……?」
俺がそう問い尋ねるとミオはいい笑顔を浮かべるだけで何も答えてはくれなかった。
だが、俺の言葉に対して全く反応がなかった訳ではなかった。
「──それに関しましては私から説明させていただきます」
「……!? 貴女誰ですか!?」
突然のミオの登場や、突然のミオの乱入に随分とご乱心されている楓さん。居る筈のない四人目の声の主の出現で更に心を乱してしまった様子。
しかし、俺にはその声に聞き覚えがあった。確か……。
「暁月さん……でしたっけ?」
「はい、如何にも私は──お嬢様の使用人筆頭にして護衛係の暁月怜音でございます」
暁月怜音──俺はこの人を知っている。
あれは確か……ミオと厨二病ごっこを始めてまだ一週間も経たないくらいの時だっただろうか?
──『湊柊仁様、貴方の事は調べさせていただきました』
その言葉とともに俺の隠していた家族事情とかを詳らかにして、お嬢様に危害を加える様だったら何するか分かるよな──とめちゃめちゃ脅迫してきた人だ。
その他にも、常にミオの周囲に潜んでいて、彼女に迫る脅威を片っ端から弾き飛ばしている割と凄い人でもある。
「そんな使用人さんが私達に何を説明してくれるんですか?」
「それは勿論──お嬢様が現在置かれている状況について、です。後に御当主様より御話がございますが、概要だけ私からお伝え申し上げます」
「あ、はあ……」
怜音さんのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、さっきまで威勢が良かった楓はポカンとした顔で固まってしまった。
それを確認して、怜音さんはゆっくりと話し出した。
「柊仁様はご存じでしょうが、お嬢様はアメリカに拠点を構える十六女財閥の当主・十六女士郎様の御息女にあられます」
そう、ミオはお嬢様なのだ。
少し前から軌道に乗り始めて、父親の手腕で一気に財閥まで上り詰めたからミオにその風格はないが、お嬢様なのだ。
「財閥の……娘? そんなに凄い子なんですか?」
「ああ……そんな風格ないけど、割とマジでヤバい」
「マジですか……」
本当に凄いのはミオの父親なんだが、まあヤバい父親の子として生まれたミオもやばい運の持ち主ではある。
「そんなお嬢様ですが、現在少々厄介な事態に巻き込まれているのです」
「厄介な事態?」
「はい……。とある黒い組織にその身を狙われているのです」
「黒い組織?」
薬で身体を小さくしてくるあの?──って違いますよね、分かっています。
「詳しい話は御当主様からお聞きいただきますが……それ故にお嬢様は身を隠さなければならないのです」
「それが俺との同居にどんな関係が?」
何やらとんでもなくぶっ飛んだ話になってきたのを感じた俺は、話の軌道修正を図ろうとそう尋ねた。
すると怜音さんは形の良い眉を顰めて言った。
「お嬢様は柊仁様であれば絶対に守ってくださると言って聞かなかったのです……」
「ああ〜……なるほど?」
「──なるほどじゃないですよ! 何、納得させられそうになっているんですか!?」
そういう事もあるか〜と納得しようとしていた瞬間、楓のツッコミが隣から入った。
今日はツッコミ多いわねと思っていると、楓はごく自然的な事を言った。
「財閥の娘って事はお金があるんですよね? なら、そのお金で守れば良いじゃないですか!?」
「……それではつまらないとお嬢様が」
「なるほど……?」
「だから納得しないでください!」
何をそんなに焦っているのか、楓はやけに俺とミオの同居を認めたくないようだ。
いや、俺も許可をした訳ではないのだが、それにしたって楓の拒否の感じは異常だ。
いつもなら、『困っているなら助けるのが筋です』って言って嫌がる俺を説得するような子だけど……どうしてだろうか?
そんなこんなで思考を回していると、何やら突然電話をし出した怜音さんは告げた。
「──御当主様の準備が整われたそうです。ここからは御当主様からお聞きください」
──怜音さんはそう言うと徐にパソコンを取り出し、ミーティングアプリを開いたのだった。