再々来のピリオドセイヴァーと2章1話の女の子
「──ピリオド! あっちに妙な色が見えるよっ!」
「了解した。現場に急行するぞ!」
「うん!」
──我が名は時空神ピリオドセイヴァー。本当に久しぶりだな、人間達よ……十ヶ月くらい会ってない気分であるな。
今回は一つ紹介したい者が居る。
それは現在我の隣を疾走している──色彩の伝導者カラーマスター・ミオーンである。
彼女はただの人間であるにも関わらず、我にも感じられないこの世の真の色を知覚している。
それどころか、自ら『真の色』を解読する事によって、万物流転のこの世において全ての事象の流れを捉える事に成功している。
我は彼女の常人には決して持ちえない異能を見込んで、永久の誓いを交わした。
我が今まで永久の誓いを交わしたのはただの一度もなく、正真正銘、我は彼女に『初めて』を捧げてしまったのだ──因みに永久の誓いというのはだな、その、あのー……とにかくめっちゃ凄いやつなのである!
ごほん……とにかく、その誓いに従って我は正しい時間軸への修正を、彼女は自らの責務を全うしつつ、我の補佐兼相棒をしているのだ。
現在は、彼女が感じ取った世界の不調を追いかけて校内を疾走しているのだった。
「──見える色は赤……いや、紅蓮!? ピリオド、気をつけて! 異変の地から嚇怒の気配を感じるよっ!」
「嚇怒……?──あっ! マズイ、ミオっ! その場所へ行ってはならない!」
「えっ!? けど、世界の不調が……!」
「良いから言う事を聞け! だって、そっちには──!」
やはり、人間と神では頭の出来が違う。聡明な我と違って、何も気付けぬままでいるミオは目と鼻の先まで迫った現場……美術室へと到着してしまって──
「──お前はこっちには来られない理由がある様だな……湊?」
「なっ!?」
我の制止を振り切って、美術室の扉を容赦なく開けてしまったミオは──その中に居た人物に目を丸くした。
「──サトゥー……!?」
「十六女までその呼び方……。前までは佐藤先生と呼んでくれていたのに──全部はお前の所為だ、かなでえええええ!」
「なんで我の所為なんだよおおおおおお!?」
ミオが佐藤ではなく、『サトゥー』と爆音神の 神名を呼ぶ様になったのは我の真似をしているだけで、我には何の非も……何の非もあるかぁ。
せやったらしゃーない。ここは一つ自らの非を認めて撤退を……。
「どこに行こうとしている、湊?」
「はやっ!? まさか爆速神にもなったのか!?」
「まさか! サトゥーも神だったの!?」
「十六女……。お前ちょっと前まで真面目な生徒だったのに……どうしちゃったんだよ?」
目にも止まらぬ素早さで逃げようとした俺の背後に回り込んできたサトゥーに、爆速神の面影を見た我とミオ。
サトゥーの新たな神格の解放を喜ぶべきか羨むべきか……しかし、当の本人はがっくしと肩を落としている。
──まあ、分からなくもない。
つい先日までのミオは色彩の伝導者であることを隠し、一般の学生として生活を送っていた。
いや、一般というのはミオに失礼だ。正確には、超優秀生徒として生活を送っていた──人間にはさしたる興味がない我の耳にも残る程のな。
だが──その淡麗な容姿からイケメン男に告白されて……しかも断った事で一部の女子から妙なやっかみを受けていた。
最後には直接傷つけようとまでされそうになったが、そんな所を我は救ってやった。
以後、ミオは我にだけ己の異能を明かし、こうして色彩の伝導者として使命を果たす為に生きる様になったのだ。
「湊は良い……半分諦めているから」
「おいっ!」
「だけど、十六女までおかしくなったら俺はどうすれば……」
頭を抱えてがっくしと肩を落としたサトゥー。本来ならば何か気の利いた言葉の一つでも掛ける場面であろうが──それよりも我は別の事に意識を向けていた。
俺は弱っているサトゥーを横目に、ミオの顔を見つめていた。
多少の目の動きだけで指示を出して、作戦実行の合図として首を縦に振った瞬間──
「──何をしている?」
「フェ!?」
「……十六女、コイツなんて指示を出した?」
「え〜と──我が逃げるまで時間を稼いでくれって」
「なんでバラした?!」
ちゃんと練習していた通りに意思疎通が出来たのは偉い。だが、どうして密談した内容を易々と教えちゃったの!?
ほらほらほら、サトゥーの髪が逆立っていって──!
「ちょっ……やめ、止めたまえよ!」
「……湊、自分が何をしたか言ってみろ。正直に答え、反省したなら俺はこのグーを下ろしてやろう」
またもや爆速神の権能によって知覚不可能な速度で我に接近したサトゥーは、肩を組む形で我を拘束すると目の前にぎちぎちと握った拳を見せてきた。
「暴力反対! 体罰教師!」
「ピリオド〜、がんばれー!」
「ミオは助けに来いよっ!」
主人であり、相棒たる我が危機的状況に陥っているというのに、ミオは何をしようという訳でもなく応援しながらこちらを見ていた。
助けに来いと言ってみたが、やはり彼女は「にしし」と笑いながらこちらを見ているだけだった。
助けの望みは既にない。ここは一つ、サトゥーの提案に乗ってやるしかない、か。
美術室、嚇怒の色、サトゥー……この男が言わせたいのはまず間違いなくアレしかない。
時空神であり、その責務を全うしている事はあまり他言したくないのだが、捕まってしまった以上仕方あるまい。
我は自分が何をしたのか──素直に言った。
「──首チョンパされた上に石膏を顔面に塗りたくられて、拷問されていそうな奴がいたから助けやったのさ──まあ、中には誰もいなかったがな」
「誰もいなかったがな、じゃねぇよ! なに、石膏像頭から真っ二つにしてくれてんだよ?!」
「これも世界を正しい時間軸に戻すために必要な事で……」
「ぐだぐだ言ってないで、反省しろ!」
「──痛いっ!?」
──正直に話しただけなのに、おでこにグーパンが飛んできた……ぴえん。
★☆★☆★☆★☆
「──どうして助けてくれなかったんだよ?」
養護教諭が居ない保健室で、我はサトゥーに殴られた額を氷で冷やしながら問い詰めた。
しばらくはふんふんふ〜んと容器にも鼻歌を歌いながら俺の周りをぐるぐる歩き回っていたミオだったが、ある瞬間、俺の目の前でピタッと止まると言い放った。
「私は世界に本当の色を取り戻させる色彩の伝道者! 嘘は吐かないんだよ!」
言い放つと同時にいつものポーズを決めたミオ。
そしてその直後──示し合わせたかの様にカーテンの隙間から、陰って見えなかった筈の夕日が差し込んできた。
ぐるぐる回っていたのはこれを待っていたという事なのだろう。
「ああ……。そう言えばそうだったな」
「そうそう♪ でも、怒られちゃったのは私も悪いよね……お詫びに抱きついてあげるから許してよ〜」
「はいはい」
そう言うとミオは我の背後に回るとぎゅーっと力強く抱きしめてきた。
我が落ち込んでいたり疲れていたりしているのを的確に見破って、ミオはよくこうして抱きついてくる。
女の子に抱きつかれるというのはお得なんだろうが、あまり緊張感というかドギマギ感がない。
ミオの胸はつるぺったんを極めているから、あまり女子って感じがしないのだ。
その所為か、男子に抱きつかれているのと同じ感覚になるのだ──まあ、男子に抱きつかれた経験すらないのだが。
少々残念……。
「──ミオは世の真実を伝える伝道者、嘘は吐けない……か」
ミオが背後から抱きしめながらぐりぐりと頭を擦り付けてくる中、我は静かにそう呟いた。
──我はミオのそういう所を見込んで、我が 補佐にしたのだ。
今まで我の存在を『厨二病』だと揶揄い、馬鹿にしようとする人間どもが『仲間になりたい』と寄ってきた事もあった。
騙されかけたギリギリの所で何とか逃げおおしたが、その時からより人間というものを信じられなくなった。
だが──ミオは違った。
彼女は我と対する時、何も隠さず、ただ我の力になりたいと真っ直ぐ向き合ってくれた。
だからこそ、我は信用して『カラーマスター・ミオーン』としてミオを受け入れたのだ。
絶対に嘘を吐かず、真実を愛する彼女を。
「──なあ、ミオ」
「んー? どうしたの、ピリオド?」
ミオは嘘を吐かない。故に、ミオは大抵の質問には正直に答えてくれる。
それでも答えたくない質問もあるわけで、そういう時は──
「ミオの胸って、大きさどれくらい……」
「──ピリオドなんて死んじゃえ!」
「痛い痛い……! ごめん。ごめんって! つねらんといて……!」
──こうして頬をつねって、話を逸らそうとしてくるのだった。