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厨二病が治ったら、可愛くておっぱい大きくて可愛い君に出会えたってマジ?  作者: ゆみねこ
悩みを聞いたら、学年一のイケメンとクズ男の因縁が見えたってマジ?
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幸せな空間、凍る空間

──さて、来る今日こそマイエンジェル楓がこの世にご降臨なされた事を祝う日……つまり、誕生日だ。


 身嗜みはしっかり整えたし、プレゼントもちゃんと持っている。御両親への粗品もだって用意したし、完全完璧である……と思う。

 俺はインターホンを押す前にもう一度だけ身嗜みを確認と咳払いをして、気持ちを整えた。


「ふぅ……」


 やっぱり、人の家に上がった経験が皆無に等しい所為で変に緊張してしまう。

 しかも、中に居るのは楓だけではなく、楓ママ──早苗さんに、楓パパ──武雄さんも居る。会うのは二回目だが、やっぱり緊張が……え、御託はいいからさっさと行けって? 煩いなぁ、分かっているよ。


 俺は意を決して、インターホンを押した。ピーンポーンという小気味よい音が鳴り、程なくしてパタパタとスリッパ音が聞こえてきた。

 さて、出てくるのは楓か、早苗さんか……どっちなんだい。どちらかと言えば、楓でお願いしたいんですが……──


「……君か。今日はよく来てくれたな、カエちゃんに寄り付く悪い虫め」


──そんな前後の言葉の温度差が真逆なまでに違う事を言うのは、武雄さんだった。


 まさかの一発目が武雄さんとは……ふえぇ、荷が重いよぉ〜。


「早苗とカエちゃんはまだ料理をしていて、手が離せない……という訳で代わりに迎えに来てやった。感謝しろよ」

「あ、あっはい……」


 恐らくだが、偽物のナイフを持って飛び掛かってきた時よりかは心象は良いのだろうけれど、それでも可愛い可愛い娘を狙っている害虫との意識が抜けていなくて悪い。

 だからこそ、声色は凄く冷たくて超上からな物言いだし、仁王像の如し威圧の表情が生まれているのだろう。


 俺は別に気にしないけど、並の男ならこの声と顔にビビって逃げ出してしまうだろう。

 やはり、楓にお似合いなのは俺しかいないという訳か……調子乗んな? すんませんした。


「早く上がりたまえ。いつまでドアの前で突っ立っているつもりだ? 熱中症になってしまうぞ」

「はい、ありがとうございます」


 武雄さんは俺の体調をを引っ張って家に入れると、スリッパを出してくれた。

 あれ、意外に武雄さんって良い人……?


──と、思った矢先だったのだが。


「はあ。何で俺がこんな羽虫の体調を心配せねばならないのか……カエちゃん、早く目を覚ましてえぇぇぇ」


 ですよねぇ……。俺の心配じゃなくて、正確には自分が楓に怒られてしまうのを心配しての行動だよなぁ。

 分かっていた。この人が簡単には優しくならないとは分かっていた……。


「いくぞ、羽虫。大変不本意だが、カエちゃんが待っている」

「はーい」


 俺は羽虫という呼び名については無視して、楓の待つ部屋に向かった。

 武雄さんの強面より楓の可愛い顔と言葉の方が精神衛生的にも良いからネ。


「お邪魔しま〜す」

「いらっしゃい、柊仁く〜ん」

「ぐへっ……」


 部屋に入った瞬間に満面の笑みを湛えた天使が俺の胸に飛び込んで来た。恐らく抱きついてくれようとしていたんだろう。

 ただ、少し威力が強すぎて、俺の身体は易々と押し倒された。おかしいなぁ、結構鍛えている方なんだけどなぁ。


「──今日は来てくれてありがとうございます♪ 沢山楽しんでいってくださいね♪」

「うおお、近い、可愛い、良い匂い、天使……!」


 今日は天使の羽衣の如し純白で生地の薄いワンピースに身を包み、満面の笑みを浮かべている楓。

 これこそ、今日の主役である天使様。いつもの何倍、何十倍も調子が上がっている。だからこそ、彼女は気付いていない。


──彼女の大きく柔らかい双丘が俺の胸に押しつけられて、形を変えていることに。


 楓宅に来て早々、理性のピンチ。いや、楓パピィの前だから絶対に暴走はしないが、刺激が強いいいい……。


「あらあら、積極的ね〜。パーティは止めにして、私達は上に引っ込んでいましょうか? ちょっと早めのクリスマスね〜」

「いいや、早苗。コイツは俺が絶対にぶち殺す……」

「お父さんは言葉が悪い、黙ってて。お母さんは変な気遣いしなくて良いし、最後のはサイテーだから!」


 筋肉をバキッと露わにした武雄さんにはキッと目を細めて威圧して、早苗さんには今まで見た事がないくらい死んだ表情を浮かべて、諌めていた。

 しかも、俺の上で魚のようにピチピチ跳ねながら怒るから、これはねぇ──まあ、そういう事だよ……。


──本日の主役は両親に怒る所から始まった。



★☆★☆★☆★☆



「──それじゃあ、気を取り直して……誕生日おめでとう!」

「「おめでとう!」」


 早苗さんが言った通り、俺達は気を取り直して席に着いて楓を祝った。

 苺が大量に散りばめられたケーキに刺された十六本の蝋燭を楓が何度か息継ぎをしながら吹き消すと、俺達はクラッカーを鳴らした。


 パン、パンと破裂音が鳴った後に火薬の匂いが辺りに広がると、楓は「へへっ」と笑って頬を赤らめた。

 最高のタイミングは今しかないと思って、俺は持っていた袋を楓に渡した。


「はい、誕生日プレゼント。一応、片方は選ぶのを手伝ってもらったから」

「二つ箱が……開けて良いですか?」

「良いよ。まあ、使うにしても何にしても、好きにしてくれたら良いから……」


 最後の最後で日和った。だって仕方がないじゃないか、人へのプレゼントなんて初めてだし……。


「わあ、エプロン! 素敵ですね!」


 純白ワンピースの上からエプロンを装着すると、楓はクルクルと回り出した。

 白と紺の対比がなんとも良く、ニコニコと微笑んでいる楓を見ていると、これにして良かったと安堵の気持ちで一杯になった。


 贈り先が楓だったからこそ、こんな気持ちになれたんだなと思うと、受け取った時の対応が出来る楓は凄いなと感じていると──


「う、うう……」


 クルクルと回りすぎたようで気持ち悪そうにその場にしゃがみ込んだ。


──こういう所は考えが足りないんだよなぁ……可愛いから良いけど。


「そ、それでもう一つは……」


 ゆらゆらと椅子に戻った楓は袋の中を覗き込んでそう言った。

 そして、俺は緊張で気持ちが張り詰めて、口の中が乾き出した。


「あぁ……それは」


 照示の監修が一切入っていない、真の意味で俺が選んだプレゼントなんだが……どうであろうか?

 楓は細長い箱を開けると、目を見開いた。


「ネックレス……」

「…………」


 そう一言言うと楓は固まってしまい、次の言葉が出てこない。

 良いのか悪いのかが分からずアセアセした気持ちになってしまい、ついつい「どう、かな?」と聞いた。


 すると──


「──とっても素敵です……本当に、本当にありがとうございます」


 ネックレスを一度胸に抱いて目を閉じると、彼女の目尻から一筋の涙が溢れた。

 その涙を拭くと、楓はネックレスを付けて聞いてきた。


「どうですか?」

「ああ……とても似合っているよ」


 可愛いも素敵も綺麗も、そんなありふれた言葉では言い表しようの無いほど素晴らしかった。

 この世の美をかき集めても事足りない、それほどネックレスは彼女に合っていた──自分で言うのも難なんだが。


 とにかく俺は息をする事すら忘れて見入ってしまった、ビームを出すくらい眼力を強めて。


「……そ、そんなに見られると照れちゃいますよ……?」

「──好きだ、楓」


──そして、俺の脳は溶かされていた。


 いつもは制限している言葉がフィルターをすり抜けて、ほろりと出てしまった。

 その結果は言わずもがな。俺の言葉が部屋の隅に消えていった後に──


「へあっ……」

「あらあら……」

「むっ……」


 頬を赤らめた楓と早苗さん。目を細めて俺を睨んだ武雄さん。

 反応はそれぞれであったが、共通している事は一つ。


──誰一人として言葉を発する事がなく、今まで明るい空間であった誕生日会場は静寂に包まれた。

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