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厨二病が治ったら、可愛くておっぱい大きくて可愛い君に出会えたってマジ?  作者: ゆみねこ
悩みを聞いたら、学年一のイケメンとクズ男の因縁が見えたってマジ?
29/92

小動物? いいえ、肉食動物です

「照示は溝口さんの事、どう思う?」


 数学の授業が終わり、教科書とノートを机にしまった俺は、同じくノートをしまっていた照示にそう切り出した。

 何故、照示にそんな事を聞いたのか──それは昨日、楓に「柚茉ちゃんと打ち解けてほしい」と言われてから『溝口柚茉』という少女について考えていたからだ。


 恥ずかしいがりのギャル子ちゃん。彼女のリア充グループでの立ち回りやグループ外の人との関わり方。口癖、よくする仕草など色々観察していたのだが、いまいち掴めなかった。恐らく、人との関わりが極薄だった俺には、その人を知るというのは難しいのだろう。

 あと、注視していた所為で本人に気付かれて、物凄く睨まれたから自分で観察出来なくなったのもある。むしろ、こっちが本当の理由。


「一言で言ったら、人見知り。もう少し加えるとスタイルも素材も良いが、自信がなくて化粧を濃くしているタイプ。因みに俺の好みではない」

「最後の情報は要らなかったけど……やっぱりそう思うか」


 人見知り──それが彼女を表す最も最適な言葉なのだと思う。楓や南雲君に対してはかなり良い笑顔を見せるが、それ以外の近寄っていった者には威圧的に睨んでいる姿が多く見られた。

 多分、本人としては嫌だと思ってしている行動ではなく、緊張すると思わず出てきてしまっているのだろう。

 

 つまり、溝口さんと打ち解けようにも、俺から近付いていくと逃げられるか、キッツいお言葉を頂戴する羽目になる可能性が高い。

 急に天才的な会話能力を手に入れられない限り、何らかの機会がないと難しい、という結論に落ち着き、俺は思考を停止した。楓のお願いだから叶えたいが、対人能力弱者の俺には無理な事なんだ。


「なんだ? 狙いは天使様だと思っていたが、変えたのか?」

「俺はそもそも楓の事が好きなのかどうかも、自分自身分かっていないし、溝口さんを狙っているわけでもない」


 楓は可愛いとは思うがそれが好きかどうかなんて分からない、という考えは依然として変わっていない。

 だって俺は初恋がまだだから、人を好きになると言う感覚がよく分からない。俺が知っているラブコメ主人公を参考にして良いのなら、俺は楓の事が好きなんだろうが、小説は現実とは違うからなぁ。その辺、難しいんだよなぁ。


「本当に勿体ない人生送ってるよな、湊は。恋愛感情があるからこそ、人生は起伏があって楽しいんだぞ」

「新たな人に乗り換えては、人の恋愛感情を踏み躙って回る照示の言われたくはないんだけど」

「はは、それな」

「いや、それなじゃなくてさ……」


 照示は依然として多重股状態。俺の言葉は右耳から左耳に抜けて行ってしまうらしい。

 いや、俺が言って直るならとっくに直っているか……。


 大切な友達を失う可能性がある事以外、俺にデメリットはない。

 だが、照示に股を掛けられている女の子の存在が脳裏にチラつくと無性に謝罪したい気持ちが溢れるという被害に遭っているから、早急にやめてほしいんだけどなぁ。


「ああいうタイプに近付きたいのなら、餌を用意すると良い」

「餌? 人参?」

「それ本人に言ったらブチギレられるぞ」

「俺も失言だと思った」


 何となくだが、溝口さんと兎が当てはまってしまったが故の発言だ。見逃してほしい。

 脳内の俺は見逃してもらえず、イマジナリー溝口さんに顔面をガシガシと蹴られている訳だが。そう言えば、溝口さんと言えば熊……いやこれ以上は避そう。


「それで──ああいうタイプはちょっとした『気に掛け』が重要になる」

「と言うと?」

「交友関係が狭い者はそれだけ周りから気にかけて守られることが単純に少ない」


 まあ、道理だ。知り合いならちょっとした事で助けたり、助けられたりする。そして、親しくなると支えてあげる為に、相手を気にかけるという事が多かれ少なかれ起きる。

 しかし、リア充グループのメンバーぐらいしか親しくない溝口さんは、楓や南雲君はサポートしたりしているが、それでも気付かないところで困っているということが起きるはずだ。


 暗黒の厨二病時代、俺もそうだったからよく分かる。というか、俺に関しては誰も気にかけてくれなかったし……。


「ちょっとした、って?」

「良い着眼点だな。ここが多くの人が間違えるポイントで、ガッツリ行きすぎるとああ言うタイプは萎縮して、逆に距離を取られる。まあ、俺たちもずっと監視されている感覚が張り付いているのは嫌だろ?」

「確かに」


 全く知らない人からの視線は怖い。初登校した日とか特にそうだった。

 って、そう言えば俺も溝口さんと同じタイプじゃん。常に俺だったら、って考えるのが得策なんじゃね?


「ありがとう照示。お陰でヒントが見えたよ」

「別にそのくらい良いが、まあ頑張れよ。結果、楽しみにしている」

「分かった。良い結果を持ち帰ってこれる様に頑張るよ」


 俺は照示によってもたらされたヒントを基に勝利の方程式を組み立て、溝口柚茉に勝負を挑んだ。



★☆★☆★☆★☆



 俺のクラスの日直は放課後に日誌を書くのと机の並べ直し、机の消毒と三つの仕事がある。

 今日は幸いにも溝口さんが日直の日で、尚且つ相方が休み。こんな絶好の機会、活かすしかない。


──という訳で放課後、俺は校舎裏で適当に暇を潰してから、偶然を装って教室に向かった。


「あれ? 溝口さん!」


 声を作って普通の挙動で、あくまで偶然を演出する。

 偶然、放課後の教室で会った男子Aの役だ。なりきれ、なりきれ!


「……! ああ、アンタか。驚かせないでよ」


 溝口さんはどうやら日誌を書いていたようで、俺が声を掛けるまで存在に気付いていなかったらしい。

 それ故にかなり大きめの反応を頂けた。その動きが小動物に重なって、無性に愛らしく感じた。


──いや、やっぱ訂正。ギロリとこちらを睨むような鋭い目つきは獲物を狙う肉食動物そのもので、小動物のような可愛らしさなんて吹き飛んだ。


「なんか用?」

「いや、用って用はないんだけどさ。最近学校どうかな〜って、楽しめてるかな〜ってね……」


 いやこれ、年頃の娘を持った父ちゃんのセリフやないか〜い、ってね。

 ふざけていないんです。咄嗟に出てきたのがこれだったんです……。だからそんなに睨まないで……。


「別に、アンタには関係ないけど」

「そうですよね……はい、全くもってそうですね……」


 俺は会話デッキのないことに気付き、早くも作戦の失敗を予感した。

 俺は折角立てた計画が自らの会話能力がない所為で崩壊するというショックから、とぼとぼとした足どりで端の机の元に向かって、それの位置のズレを直した。


「はっ? アンタ何やってんの?」

「ん? 机揃えてるんだけど、もっと別の何かをしている様に見えたかな?」

「いや、それは分かるけど……アンタ、日直じゃないじゃん」


 本気で困惑している様子の溝口さん。何をそんなに困惑しているのだろうかと考えたらすぐに思い至った。

 

──そうか、これが『小さな気に掛け』なのか。


「溝口さんのと 日直、今日は休みでしょ。一人じゃ大変だろうなって思ってね」

「まあ、そうだけどさ……」


 相手から目を逸らしてキョロキョロと視線を動かす──これは溝口さんが胸の内を当てられた時に見せる癖だ。めちゃめちゃ観察していたから分かる。

 どうにかこうにか、俺は会話をすることに成功した雰囲気に胸を撫で下ろした。


 俺が机を整理し終えるのと同時くらいに溝口さんは日誌を書き終えた。

 俺はそのまま机の消毒までしようと思っていたが、溝口さんに「後は大丈夫。アリガト」と教室を追い出されてしまったから、俺は仕方がなく教室を出た。


 意識すべきは『小さな気に掛け』。本人の必要としていない所までやるのはルール違反だ。


「ふん、ふふ、ふんふんふ〜ん♪」


 最後こそあんな感じであったが、机を整理している最中は意外と話をすることが出来て楽しかった。

 失敗を予感していたが、何とか成功まで持ち直すことが出来た事による喜びで、俺は鼻歌を吹いて廊下を歩いていた。


「──でさ」

「だよねぇ」


 すると奥の廊下から話し声が聞こえて、俺は即座に鼻歌をやめた。

 話しているのは女子生徒二人で、どうやら同じクラスの子達だ。


「そう言えばさ、溝口さん。あの人、本当にカンジ悪いよねぇ」

「それな〜。私たちに対してはキツい目つきで睨んでくるのに、南雲君だけに甘い顔を見せて。それに、大したコミュ力もないから、身体で接近して気を引いてるし、マジあり得ない」


 俺はとっさに身を隠した。何だか聞いている事が気付かれてはいけない会話の様な気がした。

 身を屈めて隠れていると、彼女たちは俺の前を通って──


「久しぶりにアレ……やる?」

「おっ、良いねぇ。いつもの仕返しってことで、色んな子に協力してもらって派手にやろう」

「りょうか〜い」


 俺に気付く事なく通り過ぎていった二人の女子は、そんな事を話していた……。

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