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厨二病が治ったら、可愛くておっぱい大きくて可愛い君に出会えたってマジ?  作者: ゆみねこ
トラックに撥ねられたら、学年一の美少女に告られたってマジ?
23/92

離れた親子は再会する

「がたんごとーん、がたんごとーん」

「楓、テンション高いね」

「はい♪電車に乗るのは久しぶりですから、少しウキウキしているんです」


 梅雨が明けて一気に暑くなってきた今日この日、俺と楓は乗客の少ない電車に揺られて三つ隣の街に向かって進んでいた。

 昔、お婆ちゃんに一応と渡されたメモによると、三つ隣の街には俺の両親がいるらしい。俺達はそこを目指している。


「それに二週連続で湊君とデートが出来ているわけですし、嬉しく無いはずがないではありませんか」

「確かにこれもデートになるのか?」

「なりますよ。穏便に済んだら、お買い物でも行きませんか?」

「うん。ついて来てもらっているんだ、楓のお願いは聞かないとね」

「え〜、そんな理由なんですか?柊仁君が行きたいと思ってくれないのなら無理強いはしませんよ。ふん」


 俺は開幕早々かけるべい言葉を間違ったようだ。女心は難しい。

 そしてプンスカしている楓は凶行に走り出した。


「そんな柊仁君にはこのお弁当はあげません」

「そ、そんなぁ。──ええっと、楓とすっごく買い物したい気分なんだよなぁ。俺と買い物に行ってくれる優しい楓さんがどこかに居ないかな〜?」

「棒読みすぎですよ。けど、仕方ないので許してあげましょう。どうぞ駅弁風のお弁当です」

「おお、神様仏様楓様。ありがとうございます、ありがとうございます」


 何故こんなにも俺が楓のお弁当に拘っているのか、それは俺が朝に寝坊したからだ。

 うっかり寝坊をした所為でご飯が食べれず、空腹で死にかけていたのだ。


 そんな所に昼用に楓がちょうど持って来てくれていた。貰うしかないだろう。


「柊仁君って意外と抜けていますよね。料理の時とか、この前の風邪の時もそうでしたし」

「否定したいけど、否定出来ないのが辛い現実」

「ふふ。抜けてる柊仁君も可愛いですよ」

「男の子はカッコいいって言われた方が喜ぶよ。可愛いは割とバカにされている感が否めない」

「馬鹿にはしていませんが、揶揄っているんですよ」

「それは馬鹿にしているのとほとんど変わらないんじゃ無いのかな……」


 楓は「そうですか?」と言って面白そうに笑っている。周りに乗客がいなくてよかった。人様にこんな醜態を晒すわけにはいかない。

 それに今日寝坊したのだって、中間考査に向けて照示に追い込みをかけてもらっていたら、いつの間にか朝になってしまっていた所為で寝坊したのだから、一応ちゃんとした理由がある。


「そう言えば楓は中間考査の準備はどうなの?」


 ライトなノベルの物語に出てくるカーストトップ女子は皆一様に成績優秀なイメージがあるけど。


「それは当然バッチリですよ。二次関数が分からない柊仁君とは違います」

「今はしっかり理解しているから。舐めてもらっちゃぁ、困りますよ」

「ふふふ、では一つ勝負といきましょう。総合点数が高かった方は低かった方に何でも命令できると言うのはどうでしょうか?」

「何でも……!?」


 何でもと言うのは何でもと言うわけであって、普段は見れない楓にこんにちは出来る絶好の機会。

 これは逃すわけには……っとキモイぞ俺、落ち着け。仮に楓が学年トップだった場合、俺が勝利する事なんて不可能なんだからな。うーん、中学でもっとしっかり授業受けてればなぁ。


「分かった。勝負しよう」

「ふふ、言いましたからね。後からやっぱなしなんてダメですからね」

「勿論さ。俺を誰だと思っているんだ」

「私の大好きな湊柊仁君です」

「だからそういう事を易々と言わないの」

「えー。どうしましょうかな〜」


 本当にこの子は……って何回同じ下りを繰り返すんだ。

 いい加減慣れた方がいいんだろうけどなぁ。こんな可愛い子に好きすき言われて、耐えられる人なんて殆どいないんじゃ無いのかな?



★☆★☆★☆★☆



「ここですか……」

「ああ、ここだね。この番号で間違いない」


 俺達は電車を降りてから十五分ほど歩い他所にああるアパートの一室、そこに俺の両親が住んでいるらしい。


「ここからは俺一人で行くから、楓はここで俺の帰りを待っていてくれるかな?」

「はい。頑張ってください、応援しています」


 胸の前で両拳を握りしめて、ガッツポーズをする楓を真似るようにして俺も拳を握った。

 その行為で勇気をもらった俺は深呼吸をしてから、インターホンを鳴らした。


 インターホンを鳴らして直ぐに中からパタパタという音が聞こえてきて、扉が開いた。


「どちら様でしょうか……」


 聞き慣れた声が聞こえたと思ったら扉が開き、見覚えのある女性が出てきた。

 俺が息子だとは気づいていないようだ。当時からだいぶ成長したから気づかないのも無理はないか。


「やあ、母さん。久しぶり」

「柊仁なの……?」

「ああ。俺は正真正銘、湊柊仁。母さんと父さんの息子さ」

「…………」


 驚きで表情を変える事や声を発する事すらも出来なくなってしまったようだ。まあ当然だろう、アポなしなんだから。

 お婆ちゃんに仲介してもらって伝える事も出来たけど、面倒だったから止めた。それに単純に突然凸られて、どう言う反応をするのか見たかったのもある。


「……取り敢えず、中に入って」

「分かった。お邪魔するよ」


 俺は母さんからは死角の位置にいた楓に手を振って、中に入った。

 両親の住んでいるアパートは割と古く狭い。金には余裕があるはずだが、何故こんなにも家賃が安そうな所に住んでいるのだろうか?


「誰だったんだい?──っと、そちらの彼は?」


 母さんの容姿は昔とあまり変わっていなかったが、父さんは分かりやすく老けた。髪こそ禿げ上がっていないが、昔ほど元気がなくなっているし、肌は潤いが抜けて、シワが増えている。


「杉久さん、柊仁よ」

「……本当か?本当に柊仁なのか?」

「やあ父さん、久しぶり」


 父さんは目を見開いたまま、立ち上がりこちらに歩み寄ってきた。

 そして、父さんは俺の前に来て立ち止まると、急に正座をして、手のひらをと額を地面に付けて伏した。


──見紛う事なき土下座である。


「本当に済まなかった。あんなやつに騙されて、あろう事かお前を一人にしてしまって」

「そう思っているなら当時の俺にするべきだったと俺は思うけどね」

「全くもってその通りだ……俺は理由を取り繕って、お前と対面する事を避けた。お前に父親として見られないと思ったら、怖くなって会えなかった……」

「それは杉久さんだけじゃないわ。私も怖かった……ッ」


 申し訳ない気持ちがあるのは分かるし、俺も両親にはそれ持っていてほしいと思っている。

 ただ、二人してガチ土下座されると正直、困るのだが……。


「別に土下座がして欲しくてここに来たわけじゃない。顔を上げてくれ」

「けど……俺たちはお前に親として、いや人としてあるまじき事をしたんだぞ。顔を上げられるものか!」

「そうか、なら無理矢理にでも上げてもらおうか」


 そう言った後に俺はまず父さんを背後から抱きしめて、持ち上げた。そのまま椅子までキャリーした。

 父さんを持ち上げられるのは厨二病のおかげだ。筋肉こそ正義と思って、鍛えていたから持ち上げられているが……重っ。


「はい、このまま座っていてね」


 父さんを椅子に座らせたら、今度は母さんだ。母さんは痩せているからひょいっと持ち上げて、ぺっと座らせられた。

 二人を座らせたら、俺は近くにあった椅子を引き寄せて自分も座った。


「柊仁……成長したんだな」

「当たり前だろ、何年経ったと思っているんだ」

「そうだよな……俺たちはお前の成長する所を側で見てやれなかった……」

「直ぐに暗い雰囲気になるんじゃないよ。昔の様子はどこに行ったんだよ」


 暗い、本当に暗すぎる。俺が完全に乗り越えられたからそう感じるのだろうか?

 乗り越える前に会いに来ていたら、俺もこんな感じになっていたのだろうか?


「昔は父さんたちの事を恨んでいた、なんで帰って来てくれないのかって。けど、今はそうじゃない。もう謝罪は必要ない」

「けど、俺たちは──」

「けども、だってもない。昔がダメだったら、これから良くしていけばいいだろう。俺達がこれから元の家族に戻るには、後ろばっかり見るんじゃなくて、前を向くべきだ」

「柊仁……こんな俺たちを許してくれるのか?」

「だから、許すも何も怒っていないっての」

「そうか……ありがとう、柊仁」


 父さんがまた立ち上がって俺の方に寄って来たから、また土下座かと思って構えたらガバッと抱きしめられた。

 突然の事に驚いていたら母さんも背後から抱きしめてきた。今の俺はサンドイッチ状態だ。


 力強く、されど優しく愛情こもったこの抱擁は、随分と長い間俺が欲していたもの。あの時から俺はこうして欲しかったのだ。

 あぁ……この匂い、この温もりは昔と全く変わっていない。両親が俺を包んでくれていると直で感じる。


「柊仁……っ……」

「柊仁、柊仁……うう……ううぅ……ッ!」


 両親が涙を流し始めた。わんわんと子供のように泣いている二人を見て、どっちが子供でどっちが親なんだかと思った。

 俺は楓のせいで涙は枯れ切っているのだから、出るもんはない。そう思っていたのだけれどなぁ……。


 両目から涙が溢れてくるのを止められなかった。

 最近の俺は泣いてばっかりだなと思ったが、今まで溜め込んだ涙はまだまだ突きてはくれないらしい。


 俺たち家族は泣いて、泣いて、ひたすら泣いた。

 明日、仕事や学校がある事は今の俺たちには関係なかった。

 

 涙が流れ、嗚咽と鼻を啜る音だけが響く狭い部屋。

 一見、地獄の様なそんな状況が俺にとっては、何故だか凄く心地が良いものだった。

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