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みやび!まいります! 【鬼班事件帳】  作者: 一狼
第1章『かくれんぼ』見つけられたら食べられる。
5/8

◆◆⑤◆◆

「全てのっ!あらゆる金剛に礼拝奉る!怒り破壊する憤怒尊よ、その御業をもって砕破したまえ。フーンッ!トラット!ハーン!マーン!」


小角が印を結び真言を唱える。


一般人には見えないであろう法力のオーラが立ち上ぼり印を結んだ掌から打ち出される。


それは、澱んだ空間を焼き払うように、いや、その重なった見えない世界を焼いた。


不思議なことに、見えない世界を焼いたはずなのに、目の前の空間が明るくなった。


「なかなか尻尾出さないねぇ▪▪▪」


法衣の袂からタバコを取り出した。


「さて喫煙所は▪▪▪」


小角は、主に野良猫や溝鼠から情報を得て街中に散らばった『澱み』を消していった。


『澱み』は、それこそ無数に有る。


人の数だけ有ると言ってもいい。


その中から、『鬼界』に通ずる物だけを消してまわる。


「何故そんなことをしてまわるんですかぁ?」


原口から、小角に同行するよう命を受けたみやびは、黙って小角の仕事を見ていたが、ついに耐えきれず聞いてみた。


「まあ、もぐら叩きと同じだな。

人界と鬼界の垣根を越えるのはかなりの労力だ。

まあ俺は平気だがね。

だからな、アッチから来るには開いているドアを潜る方が楽なんだよ。」


「だからそれを消してまわっていると?」


「ああ▪▪▪」


「地道な作業ですね▪▪▪」


「そうだな。だがな、その地道な作業が一番の近道でも有るんだよ。」


「どう言うことですか?」


小角は、駅近くに見つけた喫煙所の看板を指差した。


「取り敢えず一服だ。」


◇◇◇


小角は、袂から小銭を出して自販機に入れた。


ガコンッと音がして出てきたのはサイダーだった。


小角はサイダーを取り出し、また小銭を入れた。


「好きなの飲め。」


「ありがとうございます▪▪▪でも、お金が足りてません▪▪▪」


「そうか、じゃあ足してくれ。」


安くなっているコーヒーでも110円。


しかし、自販機のインジケータは50円と表示されていた。


みやびは溜め息をついて100円玉を追加して微糖コーヒーのボタンを押した。


「朝から消してまわった場所を思い浮かべてみろ。何か気付かないか?」


タバコを吹かしながら小角が聞いた。


「いいんですか?周りの人に聞かれます▪▪▪」


「周りって?」


みやびが周囲を見ると、ぎゅうぎゅう詰めだった喫煙所には人が居らず、物音も消えていた。


「結界▪▪▪ですか?」


「まあ、そんなところだ。あんなにぎゅうぎゅう詰めじゃあタバコの煙と加齢臭と安い香水が混ざってただの悪臭だからな。タバコは一人で楽しむに限る。」


なるほど。とみやびは思った。


人界において、古より鬼界との繋がりを唯一維持する役乃家。


『役行者小角』の末裔だと聞いた。


役行者には、『前鬼と後鬼』という番いの鬼が従っていたという。


そして、現在、役乃家の当主がこの『小角』であり、『前鬼』が県警本部長の『辻谷修』。

そして『後鬼』が自分、『出雲みやび』だという。

ちなみに小角の本名は『一将』というらしい。



言われてみれば腑に落ちる事が多くあった。


幼い頃から人ならざるものを良く見た。


大人に言うと、嘘つきと言われ、精神病を疑われた末、通院を余儀なくされた。


友達は出来ず、虐めにもあった。


だが、不思議と虐めた子が何らかの理由で転校したり怪我をして入院したりした。


いつの間にかみやびは『鬼っ子』と呼ばれ、虐められることも無くなった。

だが、代わりに誰も寄り付かなくなった。


部活動で剣道を選んだのも、チーム競技では無かったからだ。


それでも大会にはエントリーされず、その才能を発揮する機会さえ貰えなかった。


柔道に転向しても、古武道に転向しても同じだった。


何時しかみやびはそれを楽しむようになった。


人恋しいが、身近にあるコミュニティーには自分の居場所が無いことに気付いていたから、そのちょっと外側から楽しげな人々を見ることに楽しみを見いだしていた。


まるでテレビでドラマを見るように。


そんなみやびに声をかけた人物がいる。


それが辻谷だった。


大学生だったみやびは、不思議なことに何の違和感も持たず、辻谷の薦めで警察官の採用試験を受けた。


そして今、自分が運命の導きとでも言うような状況に置かれ、『主人』だと言う『役乃小角』に従っている事を、不思議だと思っても『嫌』だとは思わない。


むしろ、『家に帰ってきた』とさえ思えるのだった。


「そうかい。家にね。」


「えっ?」


「ん?」


「私何か言ってましたか?」


「ああ、すまんな。その程度の思考だとな、聞くつもりが無くても聞こえるんだ。いや、見えるんだな。」


みやびは、カァッと顔が赤くなるのを感じた。


考えが読まれるなんて、裸を晒しているのと変わらないじゃないのっ!


「ああ、以後注意する▪▪▪が、気にするな。そのうち慣れる。」


と言われても、恥ずかしくて仕方がない。


いや、恥じることなど一つもない。


多分、同年代の女の子と比較しても、自分程表裏のない、恥じることの無い子はいないと思う。

それは、特殊な環境で育った末の達観だと思っていた。


が、それでも小角に筒抜けなのは身悶えするほど恥ずかしかった。


「も、もう良いですっ!お、お仕事の話を▪▪▪」


何故か左手を突きだし、右手は股間を押さえていた。

自分でも意味が分からなかった。


◇◇◇


「秘蔵っ子?とでも言うのでしょうか?」


原口は、本部長室の応接セットに腰かけていた。

もちろん辻谷と対面した形だ。


「いえ、そこまで深く関わったわけではありませんが、警察官への道を敷いたのは事実ですね。」


原口はどうも尻が落ち着かない。


そもそも『獄卒』程度の身分である自分が、『前鬼』、ましてや前鬼と後鬼を従える『役行者』と口をきいていい筈が無いのだ。


役行者は、彼方では『閻魔』や、『酒呑』と渡り合う程の人物なのだ。


自分など指で弾かれれば消えてなくなる程の力を持っているのだ。


そう思っただけで額に汗が伝う。


「どうですかみやびさんは?」


「はい、本部長のお見立ては間違いありませんでした。

行者様の『目』を見ても平然としていましたから。」


早くここを出たい。

タバコが吸いたい。


「原口さん。」


「▪▪▪はい▪▪▪ご主人様▪▪▪」


辻谷が『原口課長』と呼ばずに『原口さん』と呼ぶ時は、その後の話に一切の質問、拒絶は認められない。


『前鬼』として使役する『獄卒』に命を発する時だからだ。


「今後みやびさんは特別捜査班として単独で行動することになります。

ただし、所属長はあくまでも原口さんです。

そして行者様との連絡もみやびさんに任せることになります。」


原口は「はっ。」と頭を下げて命を受けた。


そして普段なら絶対にしないことをした。


『前鬼』に対して質問をしたのだ。


「ご主人様、私は用済みでしょうか?」


辻谷は、テーブルのコーヒーカップを持ち一口啜った。


「そんなわけ無いでしょう。ただ、原口さんには『牛頭』を請けて貰います。」


雷に打たれたような衝撃だった。


「驚くことでも無いでしょう?原口さんならばそろそろ牛頭か馬頭として働いてもらう立場ですよ。

おめでとう。」


原口はふるふると身体が震えるのを押さえられなかった。


「わ、私がご、牛頭に▪▪▪」


『牛頭』と『馬頭』。


地獄の獄卒の中でも、固有名詞を持つ一体として人界において知られている。


もっとも、人界においては『悪鬼羅刹』の類いであり、恐怖の対象でしかない。


もちろん。彼方、『鬼界』もしくは『冥界』に行けば名前の通り『牛頭の鬼』となるのだが、これは『役職』である。


昇格ではあるが、彼方においては変体を伴う。『進化』いや、『羽化』と例えた方がイメージしやすいかもしれない。


「し、しかし、前任の牛頭様は?」


ああ、質問をしてはいけない▪▪▪例え牛頭となろうとも前鬼様に口をきくなど▪▪▪


「彼は散華しました。

実は今回の連続猟奇殺人事件の犯人を彼方で追っていたのです。しかし、返り討ちにあいました。」


「あ、あの牛頭様が▪▪▪」


「犯人は『牛鬼』です。」


「!」


「そう、彼の一族は、冥界の一角に領地を持つ代わりに、他のエリアには出てこない約束でした。名目上は追放ですが。」


「それが何故▪▪▪」


「わかりません。兄が探っています。」


「でも此方の事件は牛鬼の仕業とは▪▪▪」


「はい、何か別の鬼がいる筈です。おそらく▪▪▪」


辻谷は言葉を飲み込んだ。


「原口さん、いずれにしても一度彼方に帰って辞令を受け取ってください。

変化を成して改めて此方で働いてください。」


バッと立ち上がり敬礼すると、原口は本部長室を出ていった。


「もっと自信を持って下さい。貴方は自分が思っている以上に有能なのですよ。」


誰に言うとでもなく辻谷は言葉を発し、冷めたコーヒーを啜った。


◇◇◇


「みやびの推測はほぼ的を得ている。」


小角は、ピースを吹かしながら器用に煙をみやびから反らして言った。


「ではこの範囲を越えることは無いのですね?」


みやびは、小角の言葉に確信を深めた。


「そうと断言出きる程証拠は集まっていない。あくまでも予測の範囲内だ。」


「主犯は牛鬼でしょうか?」


「ん、裏で糸を引いているのはそうだろうな。」


「じゃあ別の?」


「ああ、まあ、現場の様相から推測するに、おおかた『土蜘蛛』か『女郎蜘蛛』あたりだろう。

『土蜘蛛』なら単独で動くだろうが、『女郎蜘蛛』だと力不足だな。だから▪▪▪」


「だから『牛鬼』が噛んでいるとすれば『女郎蜘蛛』?」


「ピンポン。まあそう考えるのが妥当だろうな。

現場が蜘蛛の巣に絡まった虫のように点在しているしな。

『土蜘蛛』は狩猟型、『女郎蜘蛛』は待ち伏せ型だ。」


「そうするとスマホの通信は蜘蛛の糸?だから糸に掛かったかを確認するために『もういいかい?』ですか?」


小角はサングラス越しにじっとみやびを見た。


なかなか鋭い。


煙たがれていたというのも切れすぎるからなのだろうな。


勘が良いレベルを越えている。


ほとんど『予知』レベルだ。


「とすると、次のターゲットは▪▪▪」


「ああ、このエリア。

そして直近被害者と繋がりを持つヤツだな。」


小角は、空中に地図でもあるかのように指し示した。


みやびは黙って頷いた。

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