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みやび!まいります! 【鬼班事件帳】  作者: 一狼
第1章『かくれんぼ』見つけられたら食べられる。
4/8

◆◆④◆◆

「そっちで始末出来んのかね?」


周りは濃い灰色の霧の中のように視界が遮られている。


だが、小角の見詰める先には、その霧に浮かび上がるように鮮明に一人の男が見えていた。


その男は、墨色の僧衣に赤黒い袈裟を掛けていた。

赤黒い袈裟は、所々に金糸銀糸で鮮やかな刺繍が施されている。


その出で立ちは、さぞ名の有る高僧だろうと思わせるに十分だったが、その男の顔は、男の纏う袈裟のように赤黒く、異常に大きな目は怒りを押さえ付けるように吊り上がり、大きな鼻孔の大鼻は高く広い。

そして、濃い口髭と顎髭を纏った口からは上下に二対の牙が突きだし、唇は捲れ上がっていた。


『それは既に鬼界を追放されている▪▪▪』


「そりゃあちっとばかり無責任じゃねぇか?」


『預かり知らぬ▪▪▪』


「じゃあよぉ、俺が送っても文句は無ぇな?」


『▪▪▪』


「おいおい、閻魔さんよ、こっちは迷惑してんだ?なんなら代金請求に行っても良いんだぜ?」


『▪▪▪既に前鬼、後鬼を受け取っておろう▪▪▪』


「それこそ何百年前の話だよ?

まあ良いさ、あんた達と事を構えるつもりは無ぇ。

だが、これで筋は通したぜ?

仮にだ、『今回の鬼』以外に害が及んでも俺は預かり知らねえからな?」


『仕方無かろう▪▪▪』


「交渉成立だな。

じゃあな。

ノウマク サンマンダ バザラダン カン▪▪▪」


小角の周囲を覆っていた濃い霧が薄れた。


「まったく、何時もながらの事無かれだ。

人間の方がまだマシだと思っちまう▪▪▪」


ボヤキながら着替えた。


膝下までの短パンにアロハ。


どう見ても『チンピラ』だった。


◇◇◇


「まだSIMの解析が終わった訳じゃねぇがな、少なくとも女子高生については同じ学校の友達だったのは間違い無いようだな。」


「まあそれはそうでしょうね。学年もクラスも同じなら知らない仲じゃないですよね?」


「まあまあ突っかかるなよ?」


みやびは、小野がはぐらかそうとしているように感じ、少し不機嫌な『フリ』をした。


「おもしれぇのはな?女子高生よりも先に殺られた五人組の男達と最初の女子高生が繋がったって事だ。」


「えっ?」


小野はニヤリと口角を上げた。


カサカサと胸ポケットをまさぐり、ヨレヨレのハイライトの包みを出して一本抜き出した。


「いわゆる『援交』の仲介をしてたのが、その五人組の一人でな、その女子高生とSNSでの繋がりが確認出来た。」


ウンウンと頷いて、みやびは小野のライターを奪って、小野が咥えたハイライトに火を着けた。


小野はそれを、さもあたりまえだとでも言うように『パスッパスッ』と気持ち良さそうに煙を吸い込んで、器用に唇を曲げて下に煙を吐いた。


「今回のな、まあ、ぐっさんの裏仕事的に言えばだ、連続性の要因は『スマホのSNS繋がり』を追われているっつう感じだな。」


みやびの手がプルッと震えた。


「原口課長は殺された竜童の電話番号を知っていました▪▪▪」


「お嬢ちゃん▪▪▪そりゃヤベェな▪▪▪」


みやびは小野が話し終わる前に走り出した。


◇◇◇


「ママァ、あのおじちゃん何してるの?」


「駄目よ、見るんじゃありません▪▪▪」


子供が指差して興味を示した先には、野良猫に話し掛ける小角の姿があった。


「▪▪▪そうかい。じゃあそいつは▪▪▪」


小角が話し掛ける猫は、まるで小角の質問に答えるかのようにウニャウニャと鳴くでもなく、唸るわけでもなく、会話するかのように声を出していた。


「ああ、そうだな、ちょっとやりすぎだよな。

お前さんの見解は正しい。」


小角はそう言って猫を撫で回した。


「ありがとよ。また何かあったら頼むわ。

そうだ、ネズミの親分がもう少し加減してくれって言ってたぞ?

伝えたからな?」


そう言った小角に、野良のわりには色艶の良い毛並みをした猫は『知らない』とでも言うかのようにプイッと顔をそらして立ち去った。


「だよな。お互い言い分は有るよな。

さてと▪▪▪

ノウマク サンマンダ バザラダン カン▪▪▪」


小角は、印を結び、その場所に封印を施した。


そこは、五人の男が喰われた現場だった。


◇◇◇


「どうした?血相変えて?」


署に戻っていた原口は、慌てた様子で駆け込んできたみやびに、電子タバコの緩い煙を吐きながら聞いた。


「よ、良かったぁ▪▪▪生きてたぁ▪▪▪」


「おいおい?『生きてた』ってぇのは穏やかじゃねぇなぁ?」


「課長!解ったんです!」


「何が?」


「だから!この事件が連続するその理由ですよ!」


周りの課員の視線が集まる。


「はいはい、わかったわかった。取り敢えず何か飲め?汗だくだぞ?」


原口は、配属されてまだ日が浅いみやびだが、その能力を認め始めていた。


それだけに、公式には存在しない四課の領分を、一課の課員に聞かれる訳にはいかなかった。


原口はみやびを促して飲み物の自動販売機の前まで歩いた。


「みやび、一課の課員には聞かれたくない▪▪▪」


原口は小声で煙を吐きながらみやびに言った。


「あっ▪▪▪」


今気付いたとばかりに、後ろを振り返った。


部屋を出て廊下を歩いているが、人の往来は少なくない。


原口は黙って小銭を自動販売機に入れお茶のボタンを押した。


それを黙ってみやびに渡し、再度小銭を入れた。


「サイダーですかぁ?」


「悪いか▪▪▪」


「いいえ、ただ、コーヒーかなと思ったので、ブラックの。」


「ふん、考えるには糖分が必要なんだよ。」


そう言って原口は歩きだした。


「課長?まだ報告が▪▪▪」


「ああ、聞くよ、ここでな。」


原口が指し示したのは『本部長室』だった。


◇◇◇


「あれ?何だ?看板消えてるぞ?」


「休みなんじゃねぇの?予約してなかったのか?」


「イヤイヤ、ほらRINGOで連絡入れてるし、返事も来てるし▪▪▪」


二人のサラリーマンが訪れたクラブは、S市でも有数の繁華街のメインストリートに面していた。


そのドアの前で二人は途方にくれた。


「もう先方の部長来ちゃうぞ?

どうすんだよ?」


「ちょっと電話してみる▪▪▪」


そう言って一人がクラブのチーママのRINGOに電話を掛けた。


短い呼び出し音の後、電話が繋がった。


「あ!サクラさん?」


「▪▪▪」


「え?聞こえない?」


「▪▪▪いいかい?」


「え?何?お店閉まってるの?」


「もう▪▪かぁぁぁ▪▪▪ぃっ?」


「ナニナニ?」


「もういいかぁぁぁぁいぃぃっ?」


「良いよ良いよ!もうお店の前だよ!」


と、プツッと通話が切れた。


「え?」


「どうした?」


「切れた▪▪▪」


すると、店のドアがスッと小さく開いた。


「何だ?居たんじゃん!」


「?」


次の瞬間、バンッ!と扉が勢い良く開かれた。


そして▪▪▪


「見ぃぃぃつぅぅぅけぇたぁぁぁあぁあ!」


「ひっ!」


大振りの扉を屈むようにして『それ』は出てきた。


二人は踵を返し通りの通行人に助けを求めようとした。


が、賑わっていたはずの通りに人影はなく、煩いくらいの喧騒も消えていた。


「?」


「見ぃぃぃつぅぅぅけぇたぁぁぁあぁあ▪▪▪」


生臭い息が首もとに漂った。


次の瞬間、一人の頭が『喰われた』。


頭を無くした胴体は、首から血を噴き出しながら倒れた。


「あ、あ、あ、あ▪▪▪く、蜘蛛?」


もう一人の男はへたへたとしゃがみこんだ。


『それ』は噛みきった頭を咀嚼しながらチラリともう一人を見た。


『キャッキャッ』と子供の声がした。


誰かいる!助けて!


そう叫ぼうとしたが声にならない。


下半身が言うことを聞かない。


這うように声のした方向へ進もうと身を捻った。


居た!


「鬼?」


子供程の背丈だったが、紛れもなく人ではなかった。


次の瞬間、右足首に何かが巻きついた。。


「うわっ!」


そしてそのまま建物の中へ引きずられていった。


「助けて!助けて!助けてぇぇぇっ▪▪▪」


『バタンッ』


クラブの扉は何事もなかったかのように閉ざされた。


通りには大勢の人が歩いていた。


だが、それを目撃した者は居なかった。


◇◇◇


「すると、何かい?

俺が竜童の電話番号を知っていた▪▪▪

いや、登録していたから俺が喰われると思った?」


「厳密には次の被害者になる可能性が有ったということですぅ。」


「▪▪▪ちょっと解らねえ▪▪▪」


原口は、みやびの推測が当たっていないとは思わなかった。


だが、今一つ腑に落ちなかった。


実はそれには明確な理由が有った。


「課長、ガラケーだからです。SNS、RINGOとか出来ないですよね?」


「じゃあ、鬼達はそのRINGOを辿って獲物を漁っているって言うのか?」


それこそ荒唐無稽の与太話にしか思えなかった。


「厳密にSNSを利用しているのでは無いと思います。

料金払っている訳じゃないでしょうし、でも、スマホに蓄積されているデータ▪情報に気付いたら、そしてシステムとは別にそれを利用できたとしたら▪▪▪」


まあそうかもしれん。

それでも一つ引っ掛かる。


「なあ?そもそも何でSNSなんてのを辿るんだ?直接襲った方が面倒じゃないと思うが?」


原口は、やはり飲み込めない部分があった。


それまで黙って聞いていた辻谷が口を開いた。


「原口課長、お忘れですか?我々の住む人界と鬼界は表裏一体。だからこそ異界に現れるには莫大な法力を要します。

ましてや異界を歩き回るなど自殺行為です。生命力が反転する世界に吸いとられます。」


辻谷の話を聞いて原口は思い至った。


「つまり蜘蛛の巣のように網を張って待っていれば、法力を減らさずに済む、しかし、いくら網を張ったところで、獲物が来なければ飢える。

だからスマホのデータを利用しておびき寄せている?と?」


「そしてアプリの流れにに『道』を作って画面を物理的に破って現れる、確実に獲物を仕留める為にカメラ機能で覗いたり、『もういいかい』って確認を取る。

って事なのですね?」


原口に答えるように、自分を納得させるようにみやびは辻谷を見ながら言葉にしてみた。


「概ねそういったところでしょうか?

原口課長、兄さんはすでにあちらの了解は得ています。」


「あ!あれがそうだったんですね?」


辻谷の言葉で、ようやく納得したとでも言うようにみやびは一つ手をポンと叩いた。


「はい。」


そうか、後鬼としての役目を感じつつあるのか。


「でも本部長ぉ?」


「何ですか出雲さん?」


「あ、みやびが良いです、みやびでお願いします。」


「▪▪▪わかりましたみやびさん。」


「呼び捨てで良いです。

むしろ呼び捨てが良いです。」


「努力します。」


「お願いします。それでですね、何かの意識が突然『ポーン』と頭の中に飛び込んで来るんですよ?あの日から?

つまりこれがお役目の連絡?とか指示?とかなのですか?」


もうみやびは、本部長執務デスクに肘を付いて辻谷の顔を覗き込むようにして話し始めていた。


これが『前鬼』と『後鬼』の会話でなければ、原口はみやびをひっぺがして放り出しただろう。


原口は連絡用の式神を利用するしかないところを、みやびは既にダイレクトな繋がりを持ち始めている。


仕方ないことだと思っていても、原口は小さな嫉妬が頭をもたげるのを感じずにはいられなかった。


「あ、失礼しましたっ!」


原口の気持ちを察したかのように、みやびは三歩下がって敬礼し、舌を出して笑っていた。


ははは、敵わねぇな。


「しかし、そうなると何処までこの事件が拡がるか▪▪▪」


気を持ち直して原口は心配点を告げた。


「いえ、課長が心配するほと拡がらないと思いますよ?」


「何でだ?」


「それはですねぇ▪▪▪」


みやびは重要な隠し事を漏らすかのように、原口と辻谷を手招きした。

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