それぞれの望み
影の中心部にいるヴレマヴロ目掛けて、ルベラルバスは双剣を思い切り振り下ろした。
「な! 馬鹿な! 私の愛が……負ける事などない……はずなのにぃぃぃぃ!?」
そう叫びながら、ヴレマヴロは血を流し、吐血しながらあっさりと倒れる。ルベラルバスは傷だらけになりながら、双剣の血をマントで拭うと、
「……こんなものか? いや、違うな……お前、何をした?」
訝しむルベラルバスに、ヴレマヴロは不敵な笑い声をあげながら言う。
「私は……私は……これでユリスティーナと会える! 会えるんだ! ユリスティーナぁぁぁ!!」
狂った声でそう叫ぶと、ヴレマヴロは息絶え……黒い影だけがどこかへ向かって行く。嫌な予感がルベラルバスを襲う。
「まさか……ライハナサンの言ってた装置か!?」
急いで黒い影の後を追うと、大きくて丸い球体に羽根が生えた装置が見えた。
「……なんだこりゃ。というか、随分と周りがボロいな? ……むしろなんか熱くねぇか?」
よくよく見れば、周囲からは炎が上がり瓦礫が所々に落ちている。
(どうなっている? 俺達以外に侵入者が?)
その時だった。装置の下付近から、か細い声が聞こえてきた。警戒しながら近付くと、そこには鎖で拘束された、紫色の長い髪をツインテールにした紫色の瞳に、白いシンプルなドレスを着た中性的な容姿の少女が、涙を流していた。
ルベラルバスに少女は気付くと、彼の双剣を見て呟く。
「貴方様は……? その武器は……聖剣ですか?」
「聖剣だと? 冗談にもほどがある!」
思わずそう言うと、ルベラルバスは少女に声をかける。
「んなことはどうでもいいさね。それより、お前はここで……いや、捕まっているのはわかるが、どうした?」
「ワタシは……ノオン・アスラフィルです。父上……ヴレマヴロ・アスラフィルに、母上を生き返らせるための……贄として……ここに……。ですが、理論上でも理屈的にもそれは……不可能で……それで……うっ!」
ひとしきり話した瞬間、ノオンが苦しみだした。
「おい、大丈夫……じゃねぇな。とりあえず、状況は理解した。これ、壊すぜ?」
そう言うと、ルベラルバスはあっさりと鎖を斬り裂いた。ボロボロと落ち、ノオンは解放されるが。
「うっ……うぅ……」
苦しみが増しているのか、彼女は倒れ、立ち上がれない。
「おいおい。しっかり……ん?」
その時、ノオンの異常に気付く。彼女の身体がどんどん冷たくなってきているのだ。
「お前……」
「ワタシは……恐らくもう……貴方様にお願い……です。ワタシがこの装置の核となります。なので……どうか制御室へ……うぅ!」
「わかったから、もう喋るな。……俺はルベラルバス・グレンベックズ。お前の親父さんの好きにはさせねぇから安心しな。んで、制御室ってのはどこにある?」
ノオンは頷くと、
「この装置の上部です」
それだけ振り絞って言うと、今度は自分の意志だろう、装置へ向かってゆっくりと進む。それを見て、ルベラルバスは素早く制御室へ向かう。
(ヴレマヴロの望み……あの娘の望み……そして、俺の望み……か)
そうして、制御室に着くと乱暴に中に入った。