敵について
「はい? あの……え?」
思わず聞き返すラミュニに、ライハナサンはいつも通りの笑顔で言う。
「今言った通りですよ。ユスティティア王国から皇帝ヴレマヴロ・アスラフィル抹殺の依頼が来ました。お二人なら、出来るでしょう?」
「出来るでしょうって……お前なぁ。まぁ、出来るけどよぉ……少しは敵の詳細はねぇのかよ? なんにもわからねぇのは、俺はともかくラミュニの『科学』がどう通じるかは知りてぇぞ?」
「あら。アンタにしては珍しく、慎重じゃないか?」
ラミュニに言われ、ルベラルバスは彼女に向けて笑顔で言う。
「そりゃあ、嫁が死んじまったら困るからな!!」
「理由が物騒!」
ルベラルバスの肩をバシバシと叩く。そんないつもの二人のやり取りを微笑ましく見ながら、ライハナサンが口を開く。
「……それでは、敵についてわかっていることをお話しますね?」
「おう」
「お願いします!」
「では、まず、フェイラス帝国と敢えて言いましょう。内情についてですが、お二人もご存知の通り、未だ、王国時代の領地や隣国、そしてユスティティア王国との争いが絶えません。そんな中で、最近とある噂があるのです」
「噂ぁ?」
怪訝そうなルベラルバスに、ライハナサンは頷きながら話を続ける。
「ええ。と言っても、限りなく信ぴょう性の高い噂です。ヴレマヴロ・アスラフィルが妙な装置を造ったと。詳しい機能はわかっていませんが……かなり危険な代物なのではないかと、ユスティティア王国は考えているようですね」
「危険な装置……一体どれほど危険なのでしょう?」
ライハナサンは首を横に振る。
「僕にもそこまでは。ただ、王国の斥候達からの情報だと、ヴレマヴロ・アスラフィルは相当その装置に執着しているようです」
その話に、ルベラルバスが馬鹿にしたように言う。
「はっ! 権力者ってのは、自分の都合のいい物を造りたがるもんさね!」
「ふふふ、そうかもしれませんね。まぁ、装置に関しては詳しいことはわからず。で、ヴレマヴロ・アスラフィルについてはある程度わかっているようですね。
彼はフェイラス王国時代の直属の魔術師だったとか。そして、第一王女、ユリスティーナ・ラルバ・デ・フォルトゥシャー・フェイラスとの間に子を成したそうです。
そこからなにが起こったのかはわからないのですが、魔術師だった彼はフェイラス王国の国王及び側近達を虐殺し、皇帝の座に就いたと。なお、王女はこの時に亡くなっているようですね」
「なんつーか、ツッコミ所の多い話だが……要は『科学』が通じるかどうかまではわからねぇってことだな?」
「そうですね。僕も話していて思いました」
睨みつけるルベラルバスに怖じけることなく、いつも通りの笑みで返す。
「ちっ、まぁいい。──殺してくる」