グーガスラヒ領にて
グーガスラヒ領内に着いた二人が目にしたのは、帝国と争っているはずの領内の、平和的な光景だった。
「……アタシがおかしいのか? フェイラス王国が滅亡して帝国になってから、ずっと争っている……はずだろう?」
ラミュニが言っているのは、つい二年程前の出来事である。
ユスティティア王国と拮抗していた国、フェイラス王国が一日にして滅び、ヴレマヴロ・アスラフィルと言う男が皇帝となりフェイラス帝国の成立を宣言。各国に、承認と領地の占有を改めて主張した。
当然、それまでの領地は反発し、各国も突如として国を滅ぼした男を信用出来るはずもなく、各地で争いが勃発しているのだった。
そんな領地の一つ、グーガスラヒの状況に珍しくルベラルバスも、少し困惑した様子を見せる。
「確かに……平和すぎる……何者だ!」
ルベラルバスが双剣を抜くと近くの木の影から、白い肌にスキンヘッドで少し耳が尖り、モノクルをかけ黒い執事服を着た男が現れた。
男は物腰柔らかく、警戒する二人に声をかける。
「私はセルア・ガントと申します。貴方方は、ルベラルバス・グレンベックズ様とラミュニ・シュテーラ様ですね? 依頼主である我が主にしてここの領主、ライハナサン・グーガスラヒ様の遣いにございます。以後お見知り置きを」
そう挨拶をすると、セルアは優雅にお辞儀をした。
敵意のない彼の姿を見て、ルベラルバスは双剣を構えるのをやめる。
「……それで? 俺達を呼んだヤツはどこにいる?」
「おい! 失礼だろ! すみません、セルアさん。この男、馬鹿なんです!」
ラミュニの馬鹿呼ばわりにも、ルベラルバスは無邪気な笑顔を向け、
「この俺を馬鹿とはな! さすがは俺の女だぜ!」
「だ、誰がアンタの女だ!」
そんなやり取りをする二人に、紳士的な笑みを浮かべるとセルアは、
「お二人の間に割って入るのは大変心苦しいのですが……そろそろ案内させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい! 重ね重ね失礼致しました!」
「あぁ? しょうがねぇな。行ってやるよ」
こうして、二人はセルアが呼んだ馬車に乗り、グーガスラヒ領内の奥へ向かった。