別れ
「……なに?」
思わず聞き返すシャインと、何か言いたげな視線を向けるフレナとラファに対し、笑顔で言う。
「ワタシは一度、ルベラルバス様が来られた時に死んでいます。ラファさんのおっしゃる通り、死んだ生命は生き返ってはいけません。なので……今度こそ天に帰ります」
ノオンの固い決意を感じた三人は、それ以上何も言えず、ただ彼女の意志を尊重することしか出来なかった。
****
「それじゃ、シャインさん、ラファさん、フレナさん。お世話になりました! 短い間でしたが……一緒に過ごせて、楽しかったです!」
そう言って、満面の笑顔で別れを告げると、ノオンはあっさりと『翼』の中へ行こうとする。
「……待って!」
それを思わずフレナが引き止める。不思議そうな顔をするノオンを、フレナが抱きしめた。
「……ノオン。ボクこそ、会えて、良かった! ……ノオン!!」
思わず叫ぶフレナにノオンも涙を流す。そんな二人を見つめながら、シャインがラファに聞く。
「『翼』の起動は止めた。ノオンの行動で破壊出来ると……お前は思うか?」
「思うとも! この装置は、どうやら人の感情に感応するように出来ているようだからね! ノオンが望めば破壊出来るさ!」
「……そう言うものか……まぁいいだろう。任務さえ果たせればな」
そんな話をしている間に、ノオンとフレナは……ゆっくりと惜しむように離れた。
「フレナさん……最期に貴方に会えて良かったです」
「……ボク。も、だよ」
そういうと、今度こそノオンは『翼』の中へ入っていった。と同時に、『翼』がゆっくりとその機能を喪失して行く。
それを見守る三人は複雑な表情で、完全に壊れるまで待つのだった──。
****
ユスティティア連合国、ユスティティア王国、城内にて。
荘厳な赤いドレスに身を包んだ壮年の女性、当世の女王、べーレト・ブラゴヴォリン・セルア・ヨタ・ユスティティアが、謁見しているシャイン、フレナ、ラファの三人に声をかける。
シャインはいつもの服装ではなくマーテル共和国の軍服に身を包み、フレナは謁見前に渡された礼服を着用し、ラファだけがいつもの服装でいた。
「よくやってくれました。シャイン・グレンベック・レッド、ラファ・シファー・ステンディダンバルネル、フレナ・アルストレイ・ブラッディングス。ユスティティア連合国を代表して感謝を。あなた方を勇者と認めましょう。さて、あなた方の望みはなんでしょう?」
そう言われ、三人は各々応える。
「……自分は、軍人として任務を果たしただけです。それに、功績は身に余るものです。謹んで辞退させて頂きます」
「……ボク……自分も。望むことは、ありません」
「女王陛下、勇者と言う身に余る名誉、感謝致します。ですが、私も二人と同じで、禁書回収と言う務めを果たしたのみです。お言葉ですが、礼には及びません」
そして、三人は同時に言う。
「「「名誉はノオン・アスラフィルに!!」」」
****
勇者としての名誉を手放した三人は、静かに女王の間を出て、ユスティティア城の出口まで来た。
「で、これから二人はどうするんだね? 私はショヨクに戻るけれども!」
「アタシもマーテルに戻る。五年も空けていたからな。そろそろ他の任務にも手をつけねばならんしな」
「……ボクは。冒険者を続ける、よ。割と、楽しかったし……」
三人は顔を見合わせると、
「いよいよ、お別れと言うことだね!」
「ああ」
「……なんか。ちょっと、寂しいけど……」
そう言って笑いあった後、三人はそれぞれの場所へと旅立って行った。
シャインはマーテル共和国へ。
ラファはショヨク国へ。
フレナは冒険者としての新たな旅へ。
彼らは進む。各々の道を──。