ゼレンという男
衝突の衝撃で、爆風が周囲を包む。その勢いでフレナはとうとう耐えきれず後方へ吹き飛んだ。ラファが慌てて駆け寄る。
「フレナ! 大丈夫かい!?」
「……うん。なんとか」
ラファの支えで立ち上がるフレナを確認して、シャインが『翼』の方を向き、
「さすがに、この威力なら『翼』も一溜りもないだろ……な!?」
破壊出来たと思った全員の目には、傷一つない『翼』の姿があった。
「おいおい、冗談にも程がある! あの高出力魔術で、これは……!」
「一体何で出来ているんだ?」
「……どう、しよう?」
驚きを隠せないラファ、シャイン、フレナの三人の元へ、隠れていたノオンが合流する。
「あ、あの……ワタシ、記憶をある程度取り戻したのですが、ルベラルバス様は破壊出来ていました。どうやったのかはまでは思いだせませんが……」
ノオンの説明に三人は沈黙し、嫌な緊張が走る。
「おや? ラフルは失敗したのかな?」
気が付けば、『翼』の頭頂部にゼレンがいた。
「父上!」
ノオンの言葉に、三人が反応する。
「父上……と言うことは、お前がゼレン・ジ・フェイラスか」
「異様なマナを感じるね……みんな、警戒するんだよ!?」
「……ノオン。の、お父さん、目的は、なに?」
三人に興味がないのか、ゼレンは死んだ目をノオンに向け、
「いけないね。それじゃあ、ユリスティーナを生き返らせられないだろう? こっちにおいで?」
不気味な程優しい声で言うゼレンに、ノオンはビクリとし身体を震わせる。それを見て、彼女を守るように三人が囲む。
「おや? ノオンのお友達かな? 世話になったね、ありがとう。それじゃ、ノオン。こっちにおいで?」
状況が見えているように見えて、その実、全く見えていない異様さに、三人は息を飲み、ノオンは目に涙を浮かべていた。
「ユリスティーナを生き返らせる? 何を言っているんだ……?」
思わずそう言うシャインに、ノオンが震えた声で言う。
「ユリスティーナと言うのは、ワタシの母上です。ワタシが十五歳の時に亡くなったのですが……父上は、母上を生き返らせようとしているのです……が……」
一息ついて吐き出すように、
「でも! そんなことは不可能なのです! 『翼』を使って生命の理を破壊したとしても、母上は戻ってこないのです! 父上!」
一気に言い切るノオンに対し、ゼレンは小首を傾げると、
「何を言っているんだい? 生き返るよ。理さえ壊せば、生も死も関係なくなるのだから」
ゼレンの言葉に、ラファが今までにないくらいの声色で言う。
「悪いが、そっちの言っていることの方が理解出来ないね! 理を壊す? 生き返らせる? 生も死も関係ない? 言っていることが滅茶苦茶だね!」
シャインとフレナもラファに続く。
「ああ。何一つ理解できんし、理解する気もない。ただ……撃ち抜くのみだ」
「……ボク。奥さんに、会いたいのは、わかる気もするけど、世界を犠牲に、するのは、わからないし、ノオンは、どうなるの?」
三人の言葉に、何も感じないのだろう。ゼレンは、
「? 理解されないなら、仕方ないね。じゃ、死んでもらおうかな? 大丈夫。『翼』の力さえあれば、それすら関係なくなるから」
そう言って、左手の指を鳴らす。その瞬間、空が曇り出し、雨が降り始めた。
「さぁ、『翼』の力の一端を見せてあげよう。零の杖、発動。レベラ・エ・セ・ンタティウス・ハスタ」