野営でのひととき
「さてと! 準備は整ったね! 食事としようか!」
楽しそうなラファに、ユグルスが思った事を言う。
「ラファさん、楽しそうですね!」
「そりゃあそうとも! 久しぶりの外だからね……内側にいると退屈で仕方ないのさ!」
そう言うと、ラファは共有のバッグから野営食を取り出しユグルスに渡す。
「ありがとうございます! 頂きます!」
受け取ると早速食べ出すユグルスに、ラファは嬉しそうに笑う。
「いやぁ、やはり他人と話しながらの食事は楽しいものだね!」
「そうなんですか?」
「そうとも! 私達は三人だが一人でもある。何かと不便なのさ。それに、シャインとフレナはあまり会話を楽しむタイプでもないしね……」
寂しげなラファの表情に、納得したのかそれとも踏み込んではならない事と感じとったのか、ユグルスはそれ以上聞く事はなく、止めていた手を動かし食事を摂る。
「話は変わるけれど、君は旅をしていたのだろう? ゼルガから出たことはあるのかい?」
そう問われたユグルスは少し考える素振りを見せた後、
「……恐らく……ですが、ゼルガに入って? 来た気がします。無我夢中だったし、混乱もしていたので詳しくはわかりませんが……」
その話に、ラファは考えた後、
【とのことだけれど、二人はどう思う?】
【ゼルガに入ったと言うなら、隣国から来た可能性が高いな。隣接しているのは、ハルストレムとスザリか……、あるいは……】
【あまり、考え、たくないけど。新生フェイラス帝国、かな?】
新生フェイラス帝国と言うのは、かつて世界の大半を占領し、その後衰退したフェイラス帝国を基盤にして、約百年前に成立した独立国であり、ユスティティア連合国と一国で小競り合いをしている国だ。噂では、皇帝の独裁国家であり、魔獣を飼い慣らしているとも、魔族と言われている。
「……君が目覚めた遺跡は、どんなところだったんだい?」
ラファ達が内側で話し合っている間に食事を終えたらしい、ユグルスが記憶を辿りながら言う。
「ええと……確か、広くて、天井が高くて、それから……なんかの装置? みたいなのがあったような……うーんすみません、これくらいしか思い出せないです……」
わずかな記憶すらあやふやな事に軽いショックを受けたらしいユグルスに、ラファは優しく語りかける。
「なに、焦る事はないさ。手がかりもわずかながらあることだしね! 前向きに行こう!」
ラファの言葉にユグルスも笑顔で返す。
「はい! ありがとうございます!」
そう言った後、ユグルスは困り顔でいう。
「そう言えば……訊きそびれたのですが、今、どこに向かっているのですか?」
長らく三人で交代しながら旅をして来たため、同行人に目的地を教えたり、話し合ったりする事を失念していたことに今更ながら気づく。
「そうだったね! ついつい内側で結論を出してしまっていて、君には何一つ伝わっていなかったね! 私達が次に目指すのは、連合加盟国の一つ、グーガスラヒさ!」
【本当は、あの石版の謎を追いたい所なんだがな……】
【しょうがない、よ。シャイン。受けちゃった、わけだし】
内側で話す二人の会話を聞き流すと、ラファは、
「グーガスラヒの南西にある町が目的地さ! と言うわけで、そろそろ食べ終わった事だし、休むとしよう!」
ラファの言葉に、ユグルスが訊く。
「あの、フレナさんと一緒にいた時は交代で見張りを立てていましたが……今回はいいのですか?」
彼女の疑問に、ラファは胸を張ると、
「私の魔術は、察知もできるからね! 何か起これば自動で障壁を張るように設定してあるのさ!」
「す、凄いですね! でも、それならなんでフレナさんの時はしなかったんですか?」
もっともな質問に、ラファは得意げに言う。
「魔術というのは、全ての自然に宿る生命力マナを消費する事で扱えるものだ。マナは生まれ持った量が決まっていてね? シャインやフレナのマナでは、私の魔術と許容量が釣り合わないのさ! それに加えて、私のマナで発動しているから、交代してしまうと魔術も解けてしまうのだよ!」
説明に納得したユグルスは一言、
「そうなんですね、本当に不便なんですね……それを五年間も……」
「なに、憂える事はないさ! 慣れているしね! それよりそろそろ本当に休もうか? グーガスラヒまで徒歩だと、約一ヶ月はかかるからね!」
その言葉に、ユグルスが目を丸くして言う。
「そんなにですか⁉︎」
焦る彼女に、ラファは余裕の表情で言う。
「あくまでも歩きでだよ。大丈夫、途中にある町で馬車を手配するさ!」
「な、なるほど……。って、それならボルレを出る時に手配すればよかったのでは!?」
ユグルスの言葉にラファは苦笑いをしながら、
「ボルレからではグーガスラヒまで行く、いや、その通過点の町まで行く馬車がなかったのさ。まぁ、なんせ、その町はあまり治安が良くないからね……行きたがる人も少ないのさ。さぁ、話しは終わりだよ? 本当に休むとしよう!」
そう言って横になってしまったラファをみて、ユグルスも横に寝転がる。
疲れていたのか、すぐに、ユグルスの方から寝息が聞こえて来た。
【全く……危機感のない娘だな】
【ボク達を、信頼して、くれてるんだよ。きっと】
【それに、私の魔術は完璧だからね! 安心したようでなによりさ!】
内側で三人は一通り話すと、眠りについた。