起動
「くぅっ! ……ダメ、拘束外せないや……」
ノオンは拘束を解こうと足掻いてみたが、拘束具はビクともしない。それどころか、むしろ、拘束が強くなった気がする。
(この身体なら……って思ったんだけどな……)
少しの息苦しさを感じながら、そんなことを考えていると、『翼』から妙な音がし始めた。
「……えっ?」
(まさか、もう起動するの!?)
焦るノオンの気持ちとは裏腹に、音はどんどん大きくなってくる。
「ど、どうしよう……ワタシが死ぬのはいいけど、このままじゃ世界が!!」
なんとか出来ないかと、周囲を見渡すが何も出来そうになかった。
「……ワタシ……シャインさん達と過ごしたのに、無力なのは変わらないんだ……」
自然と涙が溢れてくる。自分の無力さとユグルスとして過ごした日々が否定されたような気がして。
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その頃、『翼』上部の操作室ではゼレンとラフルが起動を確認しながら、操作盤と向き合っていた。
「ラフル、ノオンのバイタルはどうだい?」
「ええ、多少の揺らぎはありますが問題ありませんわ」
「そう。なら、このまま進めよう」
光の無い目でそう言うと、ゼレンはテキパキと操作を進めていく。その後ろ姿を見ながらうっとりとした表情で、ラフルは思いを馳せる。
(ああ……ゼレン様、お美しや……奥方を愛するが故の狂気! たまりませんわ!!)
「ラフル? 何をぼやけているんだい?」
ゼレンに声をかけられ、ラフルは誤魔化すように言う。
「いえ、これからのことを考えていただけですわ」
「そう。じゃあ、禁書の制御は引き続き任せるよ? 僕はユリスティーナのための器を用意しに行くから」
「承知致しましたわ」
その返事を聞くか聞かないかのうちに、ゼレンは制御室から出て行った。それを見送ると、ラフルは禁書を開く。
「うふふ。さぁ、世界の理を壊しましょう?」