『翼』
「……ここは……!!」
ノオンがラフルに連れて来られたのは、忌まわしき記憶がよみがえる場所だった。
あの日、父がノオンを生贄にした場所。彼女が一度死んだ場所。
『翼』と名付けられた、大きくて丸い球体に羽根が生えたその装置は、ノオンを待っていたかのように、静かに鎮座していた。
「そんな! これは、ルベラルバス様によって破壊されたはずなのに!!」
狼狽えるノオンに、ラフルが愉快そうな笑みを浮かべながら、言う。
「ええ。かつての英雄、"灼熱のルーベ"に確かに破壊されましたわ。ですが、ゼレン様の想いと、私が持つ禁書の力により、見事に姿を取り戻したのでしてよ? ふふふ! 貴女にとっては絶望かしら? ですが、安心なさい。もう……"灼熱のルーベ"はいないのですから!!」
高笑いをしながら、ノオンの手首を繋いでいた鎖を引っ張る。その勢いでよろける彼女を気にすることもなく、装置の核となる箇所まで連れて行く。
「あ、あなたは! 自分が何をしようとしているのか、わかっているのですか!?」
ノオンの叫びにも近い遠いに、ラフルはなんの感情も見せることもなく、
「ええ、わかっていますとも? この装置を使えば、この世界の生命の理を破壊します。そうすれば……この世界は完全に終わるでしょう」
「! この装置で、母上が生き返ることがないとわかっていながら! あなたは父上に協力しているのですか!?」
装置に繋がれながらも、抵抗しながらそういうノオンの頬を叩き、またしても不敵な笑みを浮かべ、
「ええ? そうでしてよ? 私はゼレン様の下僕。そしてあの方を愛する女。それだけですわ。……もう二度と会うことはないでしょうが、ごきげんよう」
そう言いきると、ノオンを装置に固定して、ラフルは去っていってしまった。一人取り残され、静寂の中、それでもノオンは何か出来ないかと思案する。
(このままじゃ……世界が! シャインさん、フレナさん、ラファさん! ワタシになにができるのでしょう……?)