記憶
彼女は思い出す。いや、思い出した。自分が何者なのかを。
彼女は、王国の王女と王家直属の魔術師との間に生まれたが、当時の王国ではそれは禁忌とされていた。と同時に胎児、赤子及び成人である十五歳を過ぎるまでは、子供を殺してはならないとも定められていた。
故に、彼女は生を受けることを許された。だが、それは決して祝福されるものではなかったのだ。
自分を抱いて囁く母の声。
『貴女は可愛い子ね……愛しい……私とあの人の娘だわ』
怒号を浴びせる祖父の声。
『認められん! あの男との子供など!』
母から引き継がれた従者の罵声。
『王国の恥にございます!』
そして、十五を迎える頃に父である魔術師とともに処刑されることになったあの日の、王家直属の処刑人の言葉を思い出す。
『殺せ! たかが魔術師の分際で! 穢れた子供共々! 殺すのだ!』
そして、処刑の瞬間、母が軟禁場所から抜け出し、祖父である国王、そして民衆の前で自身に刃を向けたことを。
『な、何をしているのだ! やめろ! やめるのだ!!』
焦る国王の声を無視し、母は自らの心臓に刃を突き刺し死亡したのだ。その光景を見た瞬間、父は壊れた。
ある意味、覚醒したともとれるだろう。大量のマナを消費して、周囲の人間達を黒き魔術で殺して行った。彼女は、その光景をただ見ていることしか出来なかった。
そして、彼女を解放した父は母の亡骸を抱え、涙を流しながらこう言った。
『ああ、大丈夫だ。君は必ず私が生き返らせてみせるから……!!』
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「う……うぅん?」
ユグルスが目を覚ますと、そこは質素ながらも広くて綺麗な一室であり、自身は大きなベッドに寝かされていた。
「……あれ? ワタシは確か……!?」
自分の両手を見ると、枷で繋げられていた。その枷は頑丈で、今の肉体でも破壊することは難しそうだった。
「ど、どうしよう!!」
なんとか出来ないかと、周囲を見渡してみても何も無く。途方に暮れていた時だった。奥に見えた大きくて重厚そうな扉が開いた。
「だ、誰!?」
そこに現れたのは、右側だけが長い灰色の髪と瞳をし、荘厳な衣装を来た三十代くらいの男性だった。
「起きたかい、ノオン。僕の愛しい娘」
その一言で、ユグルスは、いや、ノオンはやっと気づいた。
「……ちち……うえ?」
変わり果てた実の父の姿に。