ザン・ケルベロス
「ゲヌビ!」
ラファがそう言うと、ゲヌビは不思議そうな顔をしながら鉄格子に近づいてきた。
「お前ら持ち帰ったの俺っちなのに、なんでここにいるっちゃ? 俺っちの下僕になるっちゃ?」
【またその話か。くだらん】
内側で一蹴するシャインを知らずか、ゲヌビは続ける。
「俺っち聞いたっちゃ。お前ら、ザン・ケルベロスだったっちゃ。そのままじゃ、本気出せないっちゃ。面白くないっちゃ!」
「ま、待て待て、待ちなさい! ザン・ケルベロスとはなんだね?」
「簡単に言えば、そのままの状態で身体を取り戻したいなら、二人の魂、いえ、命そのものを犠牲にしなければならないと言うことですわ。お心当たりはおありでしょう?」
「バッティ!!」
「ラフル様っちゃ……」
いつの間に戻って来たのか、ラフルが再び牢までやってきた。そして、近くに居たゲヌビを叩いた。
「!!」
「たかが実験動物の分際で、この部屋に軽々しく入らないで下さる? 所詮は兵器。兵器は大人しくやるべき事をなさい!」
そう言って杖を構えたラフルは、ゲヌビに向かって魔術を放ち、壁に打ち付け拘束した。
「ぐっ!?」
「な……無呪文魔術だと!?」
驚くラファに不敵な笑みを浮かべると、強い電流をゲヌビに流す。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」
苦しむゲヌビを無視し、ラファに向き直るとラフルは、
「さてさて、ラファ様にお連れの御二方。そろそろ、その身体を調べさせて頂きますわね? ふふふ、安心してくださいな。その苦痛も屈辱も、全てはゼレン様に捧げるのでさから!」
「……君は、私達のこの呪いを知っていたのかね? それだけは聞かせてもらおうか?」
「シファー様。いえ、御三方。冥土の土産に教えて差し上げますわ。私、その呪いに関して言うなら研究段階と言った方が正しいですわね。本来は、三つの命を融合させて、一つの新たな生命体を創り出すのが目的です。が、貴方様方は、素体となる擬似肉体がなかったことで、その状態、三つの魂に一つの器しかなく、かつ、一人が本来の力を出せば、他の二人の命が食われ……死を迎える状態。と、推測出来ましてよ? その状態を私は、『ザン・ケルベロス』と名付けましたの。ケルベロスは三つ首の犬、一つの身体になるには……他二つの頭を食べなければなりませんものね? 詳しくはこれから究明させて頂きますので! うふふふふふ!!」
そう言って一通り大声で笑うと、電流に苦しむゲヌビの声で真顔になり、魔術を解く。
「うるさくてよ? 兵器はさっさと去りなさい!」
「……了解っちゃ」
痛む身体を引きずりながら、ゲヌビは部屋から出ていった。それを見送ることもなく、ラフルは杖を牢へ向ける、
「さぁて! 楽しい楽しい実験の始まりでしてよ!!」