フェイラスの内情と
「……どこまで? ですか?」
困惑した様子でユグルスが言う。
「……ああ」
ラシエドの言葉に、シャインが面倒くさそうな表情をしながら先を促す。
「……くだらんクイズに付き合うつもりはない。さっさと話せ」
「つれねぇな……。まぁいいか。んじゃ続けると……今の、と言ってもここ百年か? どっちでもいいが……フェイラスの内情は最悪だ」
そう言って、ラシエドは懐からタバコを取り出し吸い始める。ふぅーと彼の口から煙が吐き出される。それに思わず咳き込むユグルスと、表情を変えないシャインを見ながら彼は話を続ける。
「お前ら、百年前までフェイラスはユスティティア領だったのは知っているだろう? で、だ。領地時代はまぁ平和なもんさ。そりゃ、徴税やらはあったがな? だが、アイツが……ゼレンが現れてから、全てが変わっちまった」
「……変わった……とは?」
小首を傾げながら言うユグルスに、ラシエドは深く頷く。
「簡単に言えば、恐怖による支配……だな。あのゼレンの野郎は、国民のことなんてこれっぽちも思っちゃいねぇ! てめぇの欲望のためだけに……徴兵に徴税に圧政! 最低最悪の独裁者だ!!」
ラシエドが近くの壁を勢いよく殴る。その音にビビるユグルスを後目に、シャインが続きを促す。
「それで? その事とユグルスにケンカを売ったのと、どう関係がある?」
彼女の鋭い視線に少し冷静になったのか、ラシエドが再び話し出す。
「それは……フェイラスで『ユグルス』っつうと、忌み語でな? 昔から不吉だって言われてんだよ。んで、そんな名前のヤツがいて……しかも記憶喪失だのと抜かしやがるし……どこかゼレンの野郎に似ててな。……つい……。悪かったよ……」
ラシエドはバツが悪そうな表情でそう言うと、タバコの火を消した。煙い室内の換気のため、シャインが小屋の小さな窓を開けると彼女はラシエドの方を向く。
「……ユグルスについては、アタシ達の方でも調べている最中だ。……お前の話は興味深かった」
そう言って睨みつけるシャインに、ラシエドは何も言わずただシャインとユグルスの二人を交互にみるだけだった。
一瞬の静寂の後、ユグルスがラシエドに向かって声を張り上げて聞く。
「あ、あの! 差し支えなければ……何故フェイラス人の貴方が、このユスティティアにいるのか……話して頂けませんか!?」