イチャモンからの
「……あの馬鹿は何をやっている?」
【うん! 見るからに不穏そうだね!】
【……ユグルス。大丈夫、かな?】
二人の声を無視し、シャインはユグルスと男を遠巻きに囲む、野次馬の一人に声をかける。
「何事だ?」
「ああ? なんでも、あのデカい兄ちゃんがあの坊ちゃんにイチャモンつけたらしくてな? で、坊ちゃんの方も引かなくて……睨み合いになってるみたいだよ?」
「……イチャモン……?」
とりあえず様子をうかがうことにすると、ユグルスは涙を浮かべながらも、気丈に男と対峙していた。
「ですから! オレは記憶喪失でして! 古代はおろか、新生フェイラス帝国とどう関わっているのかさえわからないんです! その……貴方の境遇には同情しますが……!」
「同情? 同情つったか? 俺を哀れみやがって! ほんっとうになめてんなぁ!!」
そう大声をあげると、男はユグルスの胸ぐらを掴む。
「だいたいなんだ! 『ユグルス』? 『翼』なんて言う、古代フェイラス語の名前なんて! 偶然にしたって出来すぎだろうが!!」
そう言うと、苛立ちが頂点に達したらしい男がユグルスの顔面目掛けて、拳を振りあげる。周囲から悲鳴が上がった瞬間だった。
「……おい。それ以上はやめておけ」
いつの間にやら男のこめかみにシャインが拳銃を突きつけていた。
「あ……あ?」
「……シャインさん!」
見慣れない武器を鋭い殺気とともに向けられた男は、先程までの威勢から一転、冷や汗をかく。
一瞬の出来事に、静まる周囲と安堵の表情を浮かべるユグルスを気にすることなく、シャインは冷静に男に言う。
「……お前の話に興味がある。詳しく話してもらおうか?」
「……な、誰だ?」
困惑する男に、シャインは舌打ちをすると、
「不本意だがコイツの連れだ。それより、先程の話だ。馬鹿じゃないなら……わかるだろう?」
そう言って、もう片方の手で握っていた拳銃を、近くのテーブルにあった空瓶目掛けて放つ。
連続して放たれる銃弾の音に、野次馬達は悲鳴を上げ、男は硬直し、ユグルスだけが慣れた様子で見守っていた。
【相変わらず、シャインは過激だねぇ。お兄さんは言葉が出ないよ?】
【……逆効果。に、ならないと、いいけど……】
心配そうな二人をよそに、シャインは男のこめかみから拳銃を離す。
「……場所を変える。ついてこい。……ユグルス、お前も来い」
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騒ぎを聞きつけた村長が、村外れの風車小屋を使って良いと言ってくれたため、三人はそこへやってきた。
質素な室内に入ると、扉を閉め、適当に床に座る。
【いや~! それにしても、話のわかる村長殿で良かったねぇ!】
ラファのホッとしたような声に、思わず舌打ちをするシャインに、男は少し体をビクつかせる。
「……それで? 何が聞きてぇんだ?」
「……ラシエドだったな。古代でもなんでもかまわん。フェイラスについて知っていることを話せ」
異様な程の威圧感を放つシャインに、ラシエドは深くため息を吐くと、
「どうやら俺は、とんでもねぇ連中にケンカを売っちまったらしいな……。まぁいい、話してやるよ。……そうさな、まずは……俺がフェイラス人ってとこからかねぇ?」
ラシエドの言葉に、シャインの眉がピクリと動き、ユグルスは緊張した面持ちになる。
「……まぁ、そういう反応だわな。ユスティティア内に敵国の人間が……それも……冒険者なんてやってんだからよ……。ま、そこはいいか。問題は……お前ら、フェイラスについてどこまで知っている?」