その頃の三人とあの頃の三人
一方その頃、宿屋にて。
銃のメンテナンスをしながら、シャインは内側にいるラファとフレナと話をしていた。もっとも、ラファが一方的に話すのを二人が聞いているだけなのだが。
【しかし、ユグルスの記憶の不可解さは増すばかりだねぇ。古代フェイラス帝国どころか、フェイラス王国と関わっている可能性まで出てくるなんてね!】
どこか楽しげなラファに、シャインは黙々と作業を進める。
【……ユグルス。の、記憶は、そもそも、正確、なのか、な?】
フレナの指摘に、シャインが口を開く。
【……わからんが、少なくとも本人にとっては正確なのだろう。記憶と言うものは、視点が変われば印象も変わる。そんなあやふやなものだからな】
【おお! 珍しく意見が一致したね! 私もそこには同感さ! ただ、記憶の齟齬は置いといて……彼女の正体はなんなのか? そして、どう私達の呪いに関わっているか……考察が捗るね!】
ラファの言葉に、シャインの眉がピクリと動く。
【おい。お前とフレナが、呪いと関係があるかもしれない等と言い出したんだろうが。何を他人事のように言っている?】
棘を隠す気もないシャインの言葉に、フレナは黙り、ラファは苦笑いを漏らす。それがまた、シャインの癪にさわるのだが。
しばしの沈黙の後、ラファが再び話し出す。
【まぁ、とにかく! 我々の呪いもフェイラス帝国関連だったのだよ? もう少し、様子を見てみようじゃないか!】
「……」
その言葉に、シャインの手が止まる。
そして、思いだす。初めて自分達が出会った日のことを。
****
五年前、新生フェイラス帝国領内 某所遺跡にて。
三人は各々の目的のため、その遺跡にいた。
ただの偶然だった。だから、その時はその時だけの関係で終わると思っていた。
だから、軽々しくその場かぎりのパーティを組んだ。そして、遺跡を探索し……あの場所へ出た。
『なんだい? この奇妙なものは?』
『……何かの装置。かな?』
『調べればわかることだ』
巨大で、至る所が壊れているその装置に近寄った瞬間だった。
突如として、アラートが鳴り響く。
『『『!!』』』
警戒する三人の耳に、その装置からアナウンスが流れてきた。
『ジジジ……〇〇〇の再起動開始。……エラー。……外部接続開始。……エラー。……〇〇〇周囲の生体反応……確認。〇〇〇再起動、集積……条件一致。融合開始』
そのアナウンスを合図に、三人の身体がその装置に引き寄せられる。
『! なんて高純度なマナなんだ! そして、この拘束力! この私ですら解けないとは!』
『……くっ。どう、しよう! 動けない!』
『っ! どんどん身体が……溶けていく!?』
そして、三人の身体は溶け合い……混ざり……。
****
そこまで思い出して、シャインは苛立ちげに舌打ちをする。
【? どうしたんだい、シャイン。突然過ぎてお兄さんはびっくりしたよ?】
【……うるさい】
二人の不穏なやり取りに、フレナが珍しく話題を変える。
【……それより。ユグルス、遅い、ね?】
フレナの指摘で、シャインが時計を見れば、ユグルスが出ていってから一時間は経っていた。
「……ちっ。何をしている? そんなに広い村ではないが……迷子か?」
そう言って立ち上がった時だった。部屋の扉がノックされる。
「……誰だ」
シャインが威嚇を込めた声で反応すると、この宿屋の店主だった。
「あ、あの! お連れのお客様が!」
顔面蒼白といった店主の様子に、シャインはメンテナンスしたばかりの拳銃を手に、部屋を出た。
そして、騒ぎの元へたどり着くと、ユグルスが一人、ガタイの良い男と向かい合っていた。