フェイラス帝国と
翌、早朝。
まずは一件目、グーガスラヒ領内にある古代フェイラス帝国の遺跡を目指し、出発した。
西へ向かう馬車の中で、ユグルスがシャインに聞く。
「……あの、フェイラス帝国? いえ、古代フェイラス帝国? とは……一体、その、どんな国だったのでしょうか?」
ユグルスのもっともな疑問に、シャインは表情を変えることなく口をひらいた。
「……フェイラス帝国は、元はフェイラス王国と言う王権制の国だったと伝わっている。そして、いつからか帝国になり、このユスティティアを支配しようとした……と言う話だ」
「は、はぁ」
イマイチピンときていない様子のユグルスに、シャインは一息おくと、
「まぁ、いつから帝国に変わったのかはさておいて……フェイラス帝国はユスティティアのあらゆる国々を襲い、支配しようとしたらしい。そして……皇帝マウーロがルベラルバスに討たれたことで帝国は滅亡した。……が、百年程前に、突如として新生フェイラス帝国として復活した。……誰が復活させたのかまではわからんがな。とにかく、そう言うことだ」
簡単にそう説明すると、話は終わりだと言わんばかりに、シャインはさっさと顔を伏せてしまう。
その様子を見て、静かになるユグルスだったが、
(王国が帝国に……。あれ? でも、それは……)
その刹那、ユグルスの脳裏に断片的な記憶がフラッシュバックする。
自分を抱いて囁く高貴そうな女性の言葉。
『貴女は可愛い子ね……愛しい……私とあの人の娘だわ』
王冠を被った身分の高そうな老人の怒号。
『認められん! あの男との子供など!』
メイドとおもしき女性の罵声。
『王国の恥にございます!』
騎士らしき男性の厳しい言葉。
『殺せ! たかが魔術師の分際で! 穢れた子供共々! 殺すのだ!』
そして、先程の身分の高そうな老人の叫び。
『な、何をしているのだ! やめろ! やめるのだ!!』
一気に流れ込んでくる記憶の断片に、ユグルスは思わず頭をおさえ、うめく。
「……うぅ! くぅ!」
その様子を見たシャインが、珍しく、いつもよりは優しい声でユグルスに声をかける。
「……どうした? いや、馬車から降りたら話せ」
シャインがそう言うと、ユグルスは苦しそうな顔をしながら、
「……はい」
力なくそれだけ言うと、目を伏せた。
(今のは……? オレの……ワタシの記憶? でも、これじゃまるで……ワタシが王国の者みたいじゃない……。でも、だって、おかしいよね? 古代って言うくらい古い昔の帝国……の更に昔の話だよ? そんな昔の人間が……生きてるわけないじゃない。……それとも……この身体だから……生きてるの?)
困惑するユグルスを横目に見ながら、シャインはいつも通り警戒しながら馬車が着くのを待つのだった。