専門外と専門内
「新生フェイラス帝国……ですか?」
予想外だったのだろう、受付嬢が困惑しながら聞き返す。
「……ああ」
それだけ言うシャインに、受付嬢は更に困惑の色を濃くする。
「あの……貴女方は、遺跡調査専門で登録されていますよね? その、言いにくいのですが、専門外では?」
「……なら、こう言おう。古代フェイラス帝国の遺跡についての依頼はないか?」
古代と言う言い方に、受付嬢の顔色が変わる。一方、ユグルスはピンと来ていないのか不思議そうな表情を浮かべる。
「? シャインさん?」
「……お前には後で話す。それより、古代遺跡ならアタシ達の専門だ。文句はないはずだが?」
そう言い切るシャインに、受付嬢は深いため息を吐いた後、
「……わかりました。古代フェイラス帝国についての依頼なら三件程あります。……どれを選びますか?」
「……全部だ」
シャインの言葉に、受付嬢はもう一度ため息を吐くと、
「……わかりました。依頼受領の手続きを行います。……あまり無理はなさらないでくださいね?」
そうして、受付嬢は渋々手続きを行ってくれた。しばらくして、手続きが完了すると、二人は今日までギチャの町のギルドに泊まることにした。
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今回の部屋は、例の『三対の爪』の余波か、ギルドに泊まる人数が多かったらしく、狭い一部屋をあてがわられた。簡素なベッドが小さなサイドテーブルを挟んで置かれているだけの質素な部屋だ。ユグルスは部屋を見渡すと、
「……オレとシャインさんなら寝れるけど、ラファさんとフレナさんだと狭そうですね!」
呑気な感想を言うユグルスに、シャインはめんどくさそうな顔をする。
【シャイン。早く彼女に色々説明してあげたらどうだい? 流石に、何も知らせずに連れ回すわけにはいかないだろう?】
ラファの小言に舌打ちをすると、シャインはユグルスにベッドに座れと指示し、向かい合って腰掛ける。
「……ユグルス。古代フェイラス帝国とあえて言ったが……その理由を説明する。一度しか言わんぞ?」
「は、はい!」
緊張した面持ちのユグルスに、シャインは一呼吸置いてから口を開いた。
「……あの受付嬢の言う通り、アタシ達は遺跡調査専門。新生フェイラス帝国……現在ユスティティア連合国と戦争している国を調べるなんて、専門外もいいとこだ。だが、古代フェイラス帝国なら話は変わる。……古代遺跡なら専門になる。以上だ」
「……え?」
思わずポカンとするユグルスと、沈黙するシャインの間に沈黙が流れる。
【……シャイン。流石に、言葉、が、足りてない、と、思う】
【ええい! 私と替わりたまえ! 全く、キミはもう少しコミュニケーションをとる事を覚えた方がいいね! と言うわけで、交代!】
そう言うと、シャインと入れ替わったラファが、羽を狭そうに折り畳みながらユグルスに声をかける。
「コホン。いやいや、シャインの説明が足りなくて悪かったね! だから、これからお兄さんが説明してあげよう!」
優しく笑うラファに、ユグルスの緊張が少しほぐれる。それを確認してから、ラファが説明を始めた。
「シャインがさっき説明した通り、私達は遺跡調査専門なのは理解しているね? では何故、新生フェイラス帝国ではなく古代フェイラス帝国なのか? その疑問の答えは、ズバリ、私達の『呪い』さ!」
「『呪い』……ですか?」
聞き返すユグルスに、ラファは頷く。
「そうとも! 私達の『呪い』は……新生フェイラス帝国内の遺跡でかけられたのさ!」
「!!」
驚く顔をするユグルスに、ラファは微笑むと、
「そう。だから私達にとって、新生フェイラス帝国は色々と縁があるのさ。で、話を古代フェイラス帝国に戻すと……。あえてその依頼を受けたのは、『三対の爪』が遺跡に仕掛けを施して行った点さ! 彼らは何故、わざわざ遺跡に仕掛けを? その答えを紐解くためにも、まずは、古代フェイラス帝国について知る必要があると判断したのさ!」
「な、なるほど。でも、その、どうしてそもそも新生フェイラス帝国内に? それに、新生フェイラス帝国と古代フェイラス帝国になんの関係が?」
もっともな疑問を浮かべるユグルスに、ラファは苦笑すると、
「何故新生フェイラス帝国にいたのかは、ここでは話せないかな……。ただ、誤解は解こう! 私達だって、新生フェイラス帝国関連の遺跡を調査はしてきたさ! でも、思うような成果は出なくてね……。それに、金銭的な問題もあって、手広く遺跡調査を行って来たのさ……。で、何故古代なのかと言うとね? まぁ早い話がカンさ!」
カンと言う言葉に、ユグルスの目が丸くなる。
「三人で話し合った結果なんだけれどね? 新生フェイラス帝国の狙いがわからない。でも遺跡と関連すると思われる。……まぁ『三対の爪』が本当に、新生フェイラス帝国の者ならだけれども……。で、新生と言う通り、一度滅んでいる国なわけで……。国を知るにも、謎を解くにも、古代フェイラス帝国を調べる価値があると判断したのさ。わかったかな?」
イマイチ釈然としないが、ユグルスは追求を辞め、頷く。
「うんうん! さて、私はシャインと交代するから、おやすみユグルス!」
そう言い残し、ラファは再びシャインと入れ替わった。
「……明日は早い。寝るぞ」
「……は、はい!」
そう言うと、二人は各々ベッドに入り、眠りについた。