痕跡と涙
【……自称ゼレンの手下が仕掛けたものだからな。何かしら関係はありそうだが……】
シャインの言葉を受けて、フレナは更に慎重に装置に触れる。
だが、何も起こらない。
「……ボク。じゃ、わからない、や」
【本当は今すぐにでも私と変わってもらいたいのだがね……あのエクザとか言う愉快な男がいる前ではリスキーだろう】
ラファが愚痴る。フレナがどうしたら良いかと頭を悩ませていると、ユグルスがおずおずと声をかける。
「あの! オレが触れてみるのはどうでしょうか!?」
そう言うと、緊張気味に装置の前に立つ。
【おい! ただでさえ訳のわからん状態なんだぞ? リスクが高すぎる!】
声を荒らげるシャインに、ラファが言う。
【まぁまぁ。彼女に任せてみてはどうだろうか? たしかにリスクは高いけれど、ここで何もしないよりはマシだとお兄さんは思うな!】
二人の意見を聞き、フレナが出した結論はユグルスに任せることだった。
「ユグルス。気をつけ、て?」
「はい!」
そう言うとユグルスが装置に触れる。すると、装置から光が放たれる。
「な、なんだっぺ!?」
すっかり存在を忘れていたエクザが、オーバーに驚きながら、物陰に隠れる。
【……アレは放っておいていい。とにかく、警戒しろよ?】
冷静なシャインの一言を受けて、フレナは警戒を強める。
一方、光に包まれはじめたユグルスは、妙な感覚に困惑していた。
(なんだろう……懐かしい……でも悲しい感じがする……オレは……ワタシは……)
その困惑に慣れないまま、ユグルスの全身が完全に光に包まれる。そして、彼女にある記憶が流れ込んできた。
『……これでいいのだ』
黒いローブで顔を隠した男がある装置の前でそう言う。相変わらず動けないが、これから起こることをなんとか阻止しようと、必死で声を上げる。だが、
『無駄だ。もう誰にも止められない。それに、お前も嬉しいだろう? 私の役に立てるのだから』
一人で完結する男には、その声も、言葉も、何も伝わらない。悔しさと悲しさと恐怖で涙が溢れる。
『そう泣くな。これも全ては……』
そう男が言った時だった。突如、爆発音がし、扉を壊して誰かが入ってくる。
『おうおう! お前が??? か! 悪いが……死んでもらうぜ?』
そう言って乱入してきた男がローブの男に、二振りの剣を向けた。
そこで、記憶の流れが止まった。
「……ユグルス?」
フレナが優しく声をかける。いつの間にか、ユグルスを包んでいた光は消え、涙を流す彼女だけがいた。
「……フレナさん。ワタ……オレは……後でお話させて頂いても?」
混乱しながらもそう言うユグルスにフレナも頷く。
【あのうるさい男がいる前で話されるほうが困るしな】
【シャイン。キミ、もしかしなくてもエクザ君が嫌いだね?】
【……ああ】
はっきり認めるシャインに、ラファが苦笑したのが伝わってくる。そのやりとりを無視すると、フレナは、
「……他。にも、何かあるかもしれない、から、探索を、進め、よ?」
理由のわからない涙を拭いながら、ユグルスは頷く。
「……よし。あの、キミ、は? どうする、の?」
恐る恐るエクザにフレナが声をかけると、思い切り飛び上がり、
「オラはえくすくわりばーがねぇなら、用はねぇだ! ぞんじゃ、失礼ずるっぺ!」
そう言い放つと、エクザは両腕を思い切り振りながら、足早に去っていった。
「……」
「……あ、あの! フレナさん、あまり気にしないで……その……ください!」
ユグルスの気遣いに、フレナは少し笑みを見せると、
「ありがとう。じゃ、探索を、進めよう、か」
そうして二人は、前回進めなかったエリアに向かって進んで行った。