『三対の爪』
ハクラビが、フレナに向かって素早い動作で鋭利な鉤爪を向けてくる。フレナはそれをなんとかかわし、距離をとると弓矢を放つ。
「ぐえぇ?」
ハクラビの右のこめかみに命中するが、彼は動じることはなく、矢をゆっくりと抜く。
【コイツ、人間じゃないのか!?】
内側で珍しく動揺するシャインに、フレナも内心で同意すると、再び弓矢を向けながら距離をとる。小回りのきく相手に大剣は不利だからだ。
「フレナさん!」
モーニングスターを構えながら、フレナをマネて距離をとっているユグルスに、
「相手。は、一人だけど、他、にもいるかも? だから、ユグルスは隠れて、て? 多分、勝てない!」
そう指示を出すと、フレナはハクラビに向けて二度目の弓矢を放つ。
今度は心臓に命中するも、やはりハクラビには効いていないらしく、動きが止まらない。
「んぅ? 俺様はぁ、こんなんじゃぁ死なないぜぇ!」
そう言うと同時に一気に距離を詰めてくる。
「!!」
フレナは慌てて距離を保とうとするが、間に合わず弓を破壊されてしまう。そしてかわしきれず左腕に攻撃を食らってしまった。
「……!」
「フレナさん!」
思わず近寄ろうとするユグルスに、フレナは右手で制止する。
「ほぇ? 俺様のぉ攻撃食らったのにぃ腕千切れてねぇなぁ? いい防具着けてんなぁ!」
そう言って再びフレナに向かって来ようとした時だった。
「ハクラビ! 何を遊んでいるなの!?」
像の裏から二人の人物が現れた。一人は女、一人は男の彼らは、ハクラビと同じような長髪の白髪で、女は胸に布を巻き、男はハクラビと同じく上半身裸で、二人ともダボダボのズボンを履いていた。
「ゲヌビにカマリかぁ。仕事は済んだのかぁ?」
攻撃の手を止め、二人の方へ振り向く。
「カマリが俺っちとお前の分までやってくれたっちゃ!」
ゲヌビと呼ばれた男がそう言うと、
「全く! ゲヌビもハクラビも、ちゃんと仕事をやらないとゼレン様に言いつけるからねなの!」
完全に三人の会話をする彼らの様子を見て、フレナは静かにユグルスに近寄り、
「今のうち。に、逃げる、よ? 準備は、いい!?」
「は、はい!」
二人は全速力で入口目掛けて走り出した。すると、
「ありゃりゃ、俺っち達、『三対の爪』から逃げちゃったっちゃ!」
「ハクラビ? 邪魔者は来ないようにしといてって言ったわよねなの?」
どこか語感のおかしい彼らは、同じスピードで追いかけてきた。その勢いは凄まじく、すぐに追いつかれてしまう。
【フレナ! 私と替わるんだ! 今すぐに!】
走ったまま、ラファと入れ替わると、そばを走っていたユグルスの腰に手をまわし、
「スピニル! スライ! トル・スーム!」
魔術を三段重ねして、ユグルスを抱えたままラファはものすごい勢いで宙を舞い、穴が空いているところから脱出した。
そのまま一気に、遺跡から距離をとっていく。
「た、高い! ラファさん、もの凄く高いです!」
「ユグルス、今は話さない方がいい! 舌を噛むからね!」
そうしてなんとか遺跡から離れていった。
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「ふぅ。ここまで来れば大丈夫だろう!」
二人が降り立ったのは、迂回した森から数メートル程の川のほとりだった。
「はぁ。彼らは一体なんだったのでしょうか?」
一息ついて、ようやく話せると判断したユグルスがラファに問いかける。
「んーそうだね。『三対の爪』ねぇ……少なくとも冒険者の類いではないだろう。なにせゼレン様ときたからね!」
「ゼレン? と言うのはどなたですか?」
首を傾げるユグルスに、ラファが話しはじめる。
「ゼレン。おそらく、ゼレン・ジ・フェイラスのことだろう。彼は、新生フェイラス帝国の現皇帝さ!」