不気味な男
しばらくすると、大きな美しい女性の像が中央に配置された、聖堂のような場所に出た。
「中も広いですね……。声が反響します!」
【思った以上に状態がいいね。入口は崩れているのにだ。】
【……嫌な感じがする。あの武器倉庫の状態といい……気をつけろ】
ラファとシャインの反応を受けて、フレナは警戒心を強め、
「……ユグルス。シャインとラファが、とても警戒、してる、から。武器、構えて?」
「わかりました!」
ユグルスにそう言うと、自身は先程入手した弓矢を手に取る。
「……何が、来る?」
慎重に像の近くまで寄っていく。その時だった。
「おいおいおい! どうしてこの遺跡に侵入者がいるんだぁ!?」
「だ、誰!?」
視線をあちこちに向けながら、ユグルスが言う。だが、反響して声の主の居場所がわからない。武器を構えていた二人は、周囲を警戒する。
【フレナ! 上だ!】
シャインの言葉で、フレナが頭上を見上げる。すると、柱の影に隠れていたらしき人物と視線がかち合った。
「ちぃっ! カンがいいじゃねぇかよぉ!」
そう言って、その人物は影から出てきて二人の目の前に飛び降りてきた。その勢いで、周囲の埃や砂が舞う。
「ゴホゴホッ!」
「……。何者?」
咳き込むユグルスと冷静に相手から目を離さないフレナ。その様子に不敵な笑みを浮かべたその人物は、長い白髪に上半身裸で、ダボダボとしたズボンだけを履いた男だった。若そうにも老けてそうにも見えるその男は、気味の悪い笑いを浮かべると、
「俺様かぁ? 今の俺様は機嫌が悪いから教えてやるよぉ! 俺様は『三対の爪』が一人! ハクラビ・エヌ・ズベンだぁ! 殺すから覚えなくていいぞぉ!」
【機嫌が悪いのに教えてくれるとはね……】
【存在自体が不気味な奴だな】
ラファとシャインが困惑と警戒を強める。
「……『三対の爪』? 知らない、けど。ボク達、は、調査と状態を、確認、しに来た。盗賊、なら、倒させて、もらう、よ?」
フレナの言葉に、ハクラビはニヤニヤと笑うと、
「盗賊ぅ? 俺様達はぁ、ゼレン様のぉ作品だぁ!!」
そう言って両手に鉤爪を装着すると、フレナとユグルスに向かってくる。
「速い、な!」
いくら広い場所とは言え、遺跡内。回避する場所は限られてくる。二人は二手に別れて、ハクラビの攻撃をかわす。
「ほぉう? いい動きぃするなぁ?」
【この男、危険だな】
【俺様達に作品とはねぇ? おまけにゼレンときた! コレは厄介なことになりそうだよ?】
内側にいる二人の言葉を聞きながら、フレナはゆっくりとした動きでこちらへ向かってくるハクラビ目掛けて、弓矢を向ける。
「来たら、撃つ、よ?」
「へぇ? 面白いなぁ、やってみろよぉ!」