夜襲
二人が横になって数時間後。ラファの人避け魔術が、対魔術の反応を感知した。それを受けてラファがゆっくり起き上がる。
「ん。いい夢の途中だったんだけれどねぇ……ユグルス! 起きたまえ!」
「ん、んん〜」
向かい合わせで寝ているユグルスを起こすが、寝ぼけているのか反応が薄い。
【ちっ。さっさとしろ! 人避けの魔術を使っているとは言え、夜襲は夜襲だ。警戒しろ!】
苛立つシャインに、ラファは何度目かもわからない苦笑いをすると、
「さ! ユグルス! 武器を構えたまえ!」
「ふぁ、ふぁい!」
覚醒し始めたユグルスにそう言うと、ラファは杖を構える。
「私の魔術に対抗しようとはいい度胸だね……格の違いを教えてあげるとしよう!」
ユグルスが戦闘態勢に入ったことを確認すると、ラファが人避けの魔術を解く。
すると、思ったより近くに襲撃者達がいた。
「ほら! わたしが言った通りでしょ!?」
どうやら、自分が魔術を解いたと誤認したらしい、魔術師とおもしき女が自慢げに言う。それにつられるように、剣を構えた二人の男が不敵な笑みを浮かべる。
【襲撃者は三人か。見たところ、魔術に関しては癪だがラファより劣るな】
【ユグルス。の、今の、戦闘力、で、大丈夫かな?】
冷静に分析するシャインと心配そうなフレナに、
【二人とも酷くないかい?】
少し落ち込むラファだったが、気を取り直す。すると、二人を見た襲撃者三人が、
「おい! 一人はガキだがもう一人は有翼人だ! 売りゃあいい金になるぜ!」
「へへへっ! 食料もだいぶ持ってるじゃねぇか!」
「ふふふ。わたしの魔術でイチコロよ!」
【……コイツら、マナの感知もできんのか?】
【というか。魔術に長けた、有翼人の前、で。おそらく人間、が勝てると、思えるのが凄い】
三人の反応に、冷ややかな感想を述べる二人の声を聞きながらラファは、
「ユグルス。キミは私の後ろに下がりたまえ! ここは、私に任されよう!」
そう言うや否や、ラファが短縮詠唱で魔術を発動させる。
「ストーズ!」
その瞬間、三人の動きが一斉に止まる。
「!?」
「な!?」
「ちょっ、ちょっとどういうことよ!?」
固まったまま動揺する三人に、
「私にケンカを売ったことを後悔するんだね! 目前から消えたまえ! トル・スーム!」
更なる魔術により、三人の身体が宙に浮き、そのままどこかへ吹き飛ばされてしまった。
「す、凄いです! あんなに簡単に……。あ、でも、あの人達はどうなるんです?」
感心と、襲って来た三人の行方を気にするユグルスにラファは、
「多分我々が迂回した森の奥まで飛んだだろうね。まぁ気にすることはないさ! 夜襲なんてしてきた連中だからね! ……こういうのはシャインが言うことだろうけれど、敵に同情や情けは不要さ! それが生き残るコツだよ?」
そう言われたユグルスは、
「……はい」
静かに頷いた。
「さ! それじゃ今度こそゆっくり寝るとしよう!」
そう声をかけ、二人は再び寝に入った。