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空手に先手なし

 タイトル『空手に先手なし』

 『空手部の主将は、後輩部員を練習中でもないのに殴り、それを他の生徒や教師たちが大勢見ていた。だが、それが問題になることは全くなかった。一体、どういうことか?』


「後輩が先に手を出してきたとか?」

「いいえ」

「ま、そうよね。後輩が先に手を出したんだとしても、問題にはなるだろうし……。じゃあ、殴ったっていうのは、軽く?」

「まあ、軽いとは思うけど、第三者にはそう見えてないかもしれない」

「そう……」

 みのりは腕を組み、しばらく考えると、

「空手の試合って、寸止めみたいな感じで、相手に突きが当たった瞬間に拳を引くっていうじゃない?」

「伝統派空手はそうだな」

「なら、もしかしたらもう正解しちゃったかも。問題文に〝練習中〟って言葉はあるけど、〝試合中〟って言葉はないでしょ? 試合のトーナメントで勝ち上がって、同じ学校の部員同士で戦うことになった?」

 阿藤は長いタメを作ると、

「いいえ。試合中ではない」

「ええっ? 正解かと思ったのに……。なら〝部活動中でもないのに〟って問題文で言いなさいよ」

「いや……それが、部活動中じゃないかどうかは非常に微妙なところでな」

 阿藤は指でぽりぽりと頭をかく。

「じゃあ、空手部の普段の活動とは違う何かしらの活動をしていて、その最中に主将は後輩を殴ったってこと?」

「そういうことだな」

「その活動は空手部員みんなで行なっていた?」

「はい」

「〝他の生徒や教師たちが大勢見ていた〟ってあるけど、その活動は学内で行なわれていた?」

「はい」

「空手部員以外の生徒もその活動に関係してる?」

「はい」

「学校の行事関係ある?」

「はい」

「文化祭?」

「いいえ」

「その行事が行なわれたのは春?」

「はい」

「三月?」

「いいえ」

「四月?」

「はい」

「入学関係ある?」

「はい」

「新入生歓迎会?」

「はい」

「なるほどね。わかったわ」

 みのりは阿藤に向かい、自信を込めて力強く言った。

「空手部の主将と後輩は、新入生歓迎会の部活動紹介で、練習中の様子を再現した組み手を披露ひろうしていた」

 阿藤は長いタメの後、

「不正解!」

「ええっ⁉」

 みのりは信じられないといったような表情をする。

「どういうことよ? 新入生歓迎会で、空手部が新入生に向かって何かをやったんでしょ?」

「はい」

「それが、練習中の様子の再現じゃなかったってこと?」

「それもしたのかもしれんが、問題の答えとは関係ない」

「関係ない……」

 みのりは右手を頬に当てる。

「とりあえず、新入生歓迎会の部活動紹介で、空手部の主将は後輩を殴るところを新入生に見せたわけよね?」

「はい」

「板割り中に間違って、板を持ってた後輩に突きが当たっちゃったとか?」

「いいえ」

「板割りとか瓦割りとか、そういう類の演武ではない?」

「ない」

「うーん……」

 空手部の主将は演武以外のものを新入生に見せた……。その最中に後輩を殴った……。

 みのりは目を閉じてしばらく考え込んでいたが、やがて「あっ」という声とともに勢いよく目を開け、

「もしかして、殴るっていうのは、グーじゃなくて平手?」

「はい」

「……漫才?」

 阿藤はこれまでで一番長いタメを作ると、

「正解!」

 答えの解説を読み始めた。


『空手部は新入生歓迎会で行われる部活動紹介で、ツカミのために漫才をしていた。そこで後輩はボケて、主将はツッコんだ』


「第三者には軽く殴ったように見えてないかもしれないって、そういうことね」

 阿藤はうなずく。

「空手部の主将には高いツッコミの技術があったってことだ」

「しかもタイトルが〝空手に先手なし〟って……。これって本当は、自分から他者に攻撃を仕掛けないっていう、武道の精神を表した言葉でしょ?」

「ああ。でもツッコミも先にボケがないとしないだろ」

「まあ、そうだけどさ」

 みのりはあきれたように笑う。

「――さて、これで九問目が終わった。次でついに二桁目に突入だ。ここからは二問続けて難問が待ち受けている。覚悟はいいな?」

 みのりはごくりと生唾を飲むと、ゆっくりうなずく。

「よし。それじゃあ第十問目、いくぞ」

 阿藤は問題文を読み上げ始めた。

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