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上京

 タイトル『上京』

 『上京して一年後、年末に里帰りしてきた兄が家族や旧友に対しても方言を使わなくなったのを見て、弟は怒った。だが、しばらくして弟も上京することになり、その後家族や旧友に方言を使わなくなった。一体、どういうことか?』


「弟は家族や旧友に標準語を使うようになった?」

「はい」

「家族や旧友以外に対しても標準語を使っている?」

「うーん……その聞き方だと答えづらいな」

「じゃあ聞き方を変えましょう。弟は普段から標準語でしゃべるようになった?」

「それなら明確にいいえだな」

「なるほどね……。この問題を解くのに兄は重要?」

「いいえ」

「弟が上京してから、家族や旧友に方言を使わなくなるまで、一年以上かかってる?」

「いいえ」

「一か月以上かかってる?」

「いいえ」

「一週間以上かかってる?」

「いいえ」

「一日以上かかってる?」

「いいえ」

「上京した瞬間、家族や旧友に方言を使わなくなった?」

「はい」

「弟がもし里帰りしたら、両親や旧友と方言で会話する?」

「はい」

「なるほどね。大体答えの見当はついたけど、問題文の〝家族や旧友に方言を使()()()()()()()〟っていう部分が引っかかるのよね……」

 みのりは右のほおに手を当て、首を少しかしげる。

「〝使わなくなった〟っていう言い方をしてるんだから、その状態がある程度は継続してるってことよね?」

「はい」

「少なくとも上京してる間は、両親や旧友に対して方言を使わない状態が継続してるって考えていいの?」

「はい」

「そう……じゃあまず確認しておくけど、家族や旧友に方言を使わなくなったのは、それがメールだから?」

「いいえ」

「じゃあ、手紙だから?」

「はい」

「手紙か……でも、手紙だったってだけじゃ、この問題の答えじゃないんでしょ?」

「そうだな。もう一押し欲しい」

「もう一押しねぇ……」

 みのりは腕を組む。

「当たり前だけど、電話するときには弟も方言を使うわよね?」

「はい」

「弟はスマートフォンも携帯電話も持ってないの?」

「はい」

「住んでる場所には固定電話もない?」

「ないな」

「うーん……それでも、家族や旧友に電話しようと思えばできるでしょ?」

「いいえ」

「できない……?」

 どういうこと……? 電話しようとしてもできない……?

「まさか……弟は耳が不自由ってこと?」

「いいえ」

 みのりは黙り込む。

 よく考えれば当たり前ね。〝電話するときに弟は方言を使うかどうか〟っていう質問に、〝はい〟って答えが返ってきたんだもの。

「弟が誰かに電話をする機会はあるってことよね?」

「はい」

「でも、家族や旧友に電話をすることはない?」

「はい」

「緊急事態が起こっても?」

「はい」

「じゃあ緊急事態のときも手紙?」

「うーん……いいえかな。手紙よりはよく使う手段が他にある」

「電話でも手紙でもない手段……メールじゃないんでしょ?」

「メールではない」

 ……どうやら、発想を根本から変える必要があるわね。

「弟がいる場所って日本?」

「はい」

「東京?」

「はい」

「時代は平成?」

「いいえ」

「つかんだわね、糸口を」

 みのりはにやりと笑った。

「昭和?」

「はい」

「弟が家族や旧友に電話しない理由は、昭和であることに関係してる?」

「はい」

 みのりの脳内にはこのとき、ある映画のワンシーンが浮かんでいた。

「緊急事態のとき、電話でも手紙でもメールでもない手段を使うって言ったわよね。それって、電報?」

「はい」

「なるほどね……固定電話自体はあるけど、まだそんなに普及してないんだ」

 みのりは満足げにうなずく。

「じゃあまとめるわね。弟は上京してから家族や旧友と手紙でやり取りするようになり、方言を使わなくなった。昭和で携帯電話はまだ存在せず、実家にも旧友の家にも固定電話がなかったので、電話をかけることはできなかった」

「正解!」

 阿藤は答えの解説を読み上げる。


『時は昭和。まだ携帯電話やパソコンが存在せず、各家庭に固定電話も普及しきっていない時代。弟は旧友や家族への連絡を手紙で行なうようになり、手紙では書き言葉なので方言を使わなくなった』


「となりのトトロで『レンラクコウシチコクヤマ』っていう電報が病院から届いて、近所の人の家にサツキが電話を借りに行くシーンがあったけど、あんな感じの時代ってことね」

「ま、そういうことだな」

「この問題は二段構えになってて結構手応えがあったわね」

「楽しんでいただけて何よりだな。……だが、もっと手応えのある問題が後ろに控えてるぜ」

 阿藤は不敵な笑みを浮かべる。

「のぞむところよ」

「よし、それじゃあ早速、第八問目いってみようか」

 阿藤は次の問題文を読み上げ始めた。

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