皮むき
タイトル『皮むき』
『女は皮をむいたが、男はそれを皮ごと食べた。一体、どういうことか?』
「ほんとにシンプルね」
「だろ」
「早速聞くけど、女がむいた皮と男が食べた皮は同じもの?」
「いいえ。質問に容赦がないな」
苦笑いする阿藤。
「女が皮をむいたのは果物?」
「いいえ」
「野菜?」
「はい」
「その野菜は普通皮をむいて食べるもの?」
「はい」
「根菜?」
「……いいえ」
「緑黄色野菜?」
「いいえ」
「果菜類?」
「いいえ」
「ええっ? 他にどんな野菜があるのよ。豆類とか芋類じゃないわよね?」
「豆でも芋でもない」
「うーん……仕方ないわね、方向性を変えましょうか。男が食べた皮は野菜か果物の皮?」
「いいえ」
「動物の皮?」
「いいえ」
「シナモンとか、そういう食べられる樹皮?」
「いいえ」
「和菓子とかに使う求肥(牛皮)?」
「いいえ」
「生地?」
「はい」
「なるほど。和食?」
「いいえ」
「洋食?」
「いいえ」
「中華?」
「はい」
「肉まんとかあんまんとか、そういう中華まん?」
「いいえ」
「焼売?」
「いいえ」
「餃子?」
「はい」
「…………」
みのりは少し黙り込む。
「まあいいわ。ひっかかるところはあるけど、とりあえず答えましょう。女がむいた皮はにんにくの皮で、男が食べた皮は餃子の皮だった」
「正解!」
阿藤は解説を読み上げる。
『母は息子のためににんにくの皮をむいて餃子を作り、息子はにんにくを餃子の皮に包まれた状態で食べた』
「それで、ひっかかるところってのは?」
「女が皮をむいた野菜が根菜かどうか聞いたとき、〝いいえ〟って答えたわよね。にんにくは玉ねぎと同じ球根でしょ? だったら根菜じゃないの?」
「違う。玉ねぎもにんにくも葉菜類だ」
「は? あれのどこが葉っぱなのよ」
少し熱くなるみのりに、阿藤が冷静に返答する。
「まず、タマネギは鱗茎って呼ばれる、茎の周囲に葉鞘が何重にも重なったものだ。葉鞘ってのは、葉の基部が鞘状になって茎を包んだ部分のことで、俺たちが普段食べてるのは、この葉鞘が肥大化したものだ。だからあれは根菜じゃない。
にんにくもタマネギと同じ鱗茎で、葉鞘についた腋芽――葉の付け根部分にできた芽が成長したものを普段食べている。根っこじゃないからこれも根菜とはいえない」
「うっ」
たじろぐみのり。
「まさか、この問題にこんな落とし穴があるとは……俺も想定外だった」
しみじみという阿藤。
「皮をむくっていってるのに葉物の野菜だと普通思わないでしょ」
「いや〜、こういうことがあるから、問題作りはやめられないんだよな」
ほがらかに笑う阿藤に、みのりは次の問題を出すように急かし、
「そうだな。よし、じゃあ第六問目いってみるか」
次の問題が読み上げられ始めた。