かなづち
タイトル『かなづち』
『男は家族と一緒にシーズン中の海水浴場に遊びに行ったが、誰も泳ぐことなく帰った。一体、どういうことか?』
「季節は夏?」
「はい」
「海でサメとかクラゲとか、何かそういう危険な生物が出た?」
「いいえ」
「泳ぐのが目的で海に行った?」
「いいえ」
「家族は海に行って、何もせずに帰った?」
「いいえ」
「その海には他にもいっぱい人がいた?」
「はい」
「景色を見るのが目的だった?」
「いいえ」
「うーん……海に行って、何かをして帰ったわけよね」
みのりはこめかみに人差し指を当てる。
「実は男も家族も地元の人で、海の清掃のボランティアをしてたとか」
「いいえ。問題文には〝遊びに行った〟ってあるからな」
「そっか、そうだったわね……。じゃあ、家族は船に乗った?」
「いいえ」
「釣りをした?」
「いいえ」
「サーフィン?」
「いいえ」
「砂浜で遊んだ?」
「はい」
「なるほど、砂浜ね。……ビーチバレーとか?」
「いいえ」
「スポーツ?」
「いいえ」
「砂遊び?」
「いいえ」
「砂浜で遊んだけど、砂遊びじゃない……」
みのりは腕を組み、あごに手をやる。
「砂浜で何か生き物を捕まえた?」
「はい」
「それは飼うため?」
「いいえ」
「なるほど、ね」
みのりは組んでいた腕をほどき、言った。
「男は家族と一緒に潮干狩りに行った」
「正解!」
阿藤は解説を読み上げる。
『男はゴールデンウィークの潮干狩りシーズン中に、家族で海水浴場に潮干狩りに行った』
「ちょっとまってよ。夏かどうか聞いたときに〝はい〟って答えてたけど、ゴールデンウィークって夏なの?」
「立夏は五月五日前後だからな。年によってはゴールデンウィーク中に夏になる。問題文の家族が潮干狩りに行った年はそういう年だったってことだな」
「汚いわよ。しかも潮干狩りって春のイメージだし」
「でも実際、ゴールデンウィークに潮干狩りに行く家族はかなり多いからな。そんなに不自然な状況でもないと思うが」
「むむむ……」
にらむみのりを尻目に、
「さ、次、第四問目いっていみようか」
阿藤は次の問題を読み上げる。