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OVERLAP

「問題。『鎌倉幕府の初代将軍

《ポーン》

 瀬戸のランプが点灯する。

「足利尊氏」

《ピポピポピポーン》

 正解を告げる電子音が鳴り響く。


「『鎌倉幕府の初代将軍といえば源頼朝ですが、室町幕府の初代将軍といえば誰?』

 A.足利尊氏

 瀬戸の正解、4ポイント目獲得です」


 今回も例によって、原尾が説明を求める眼差しを阿藤やみのりに送る。

 阿藤はそれを受け、口を開いた。

「この問題は競技クイズでは〝パラレル〟と呼ばれる形式のものだ。

 『漢字を上下の部分にわけたとき、上の部分を「かんむり」といいますが、下の部分を何という?』

 A.あし

 『「果物の王様」といえばドリアンですが、「果物の女王」といえば何?』

 A.マンゴスチン

 『「広島市」があるのは広島県ですが、「北広島市」があるのはどこの都道府県?』

 A.北海道

 こんな風に、『ですが』や『ますが』の後で、関連性のあるもの、対応関係になっているものが問われる。

 普通、早押しクイズの問題文は〝前フリ〟といって、難しい情報が前半に来る。例えば、

 『ヌビア、マサイ、アミメなどの種類がいる、首の長い動物は何?』

 A.キリン

 といった具合だ。

 だが、パラレル問題は逆に、簡単な情報が前半に来ることが多い。それに、問題文が長くなるから、パラレルではない問題(ストレート)に比べると、少し早く読み上げられる。これらを総合して、瀬戸はパラレル問題であることを見抜いたわけだ」

「でも、パラレル問題なのがわかったとしても、さっきの鎌倉幕府の問題じゃ、答えは1つに絞り切れないじゃないか」

 疑問を呈す原尾に、

「読み上げる人間のアクセント(プロミネンス)が手掛かりになるのよ。〝金竜読み〟って呼ばれる、クイズ界では1つの定番になっている読み方なんだけどね」

 みのりが述べる。

「阿藤はさっき、『()()幕府の初代将軍といえば源頼朝ですが』

っていう風に、〝鎌倉〟の部分にアクセントをつけて読んでたのよ。そうなると、『ですが』の後には〝鎌倉〟の部分を変えたもの――『〇〇幕府の初代将軍は誰?』が来るの」

「なるほど……って、それでも室町幕府の初代将軍が聞かれるか、江戸幕府の初代将軍が聞かれるかわかんないじゃん」

 ここで瀬戸が口を開いた。

「たしかに、室町幕府の初代将軍である足利尊氏、江戸幕府の初代将軍である徳川家康、その2つがこの問題の答えの候補になる。

 だが、幕府の成立は、鎌倉時代の鎌倉幕府、室町時代の室町幕府、江戸時代の江戸幕府の順だ。徳川家康が答えでは、室町時代を飛ばす形になってしまう。ここは室町幕府の初代将軍である、足利尊氏を答えにしたほうが問題として美しい」

「そ、そうなのか……」

「ちなみに、『鎌倉幕府の()()将軍といえば源頼朝ですが』

と、問読みが〝初代〟にアクセントをつけていれば、鎌倉幕府〝二代目〟の将軍である源頼家と、鎌倉幕府〝最後〟の将軍である守邦もりくに親王しんのうが、双方等しく答えの候補になる。この場合、初代と最後で対応関係が成立しているから、間は飛ばしてもいい。

『鎌倉幕府の初代()()といえば源頼朝ですが』

と、問読みが〝将軍〟にアクセントをつけていた場合は、鎌倉幕府の初代〝執権〟の北条時政が答えになる」

「なるほど」

「あと、パラレル問題には〝3パラ〟なんてのもあるな」

 阿藤が便乗するように付け加える。

「『ゴルフのスコアで、パーより1打少ないものはバーディ、2打少ないものはイーグルですが、3打少ないものを何という?』

 A.アルバトロス

 こんな具合の問題だ。

 この問題は『ゴルフのスコアで、パーより1打少ないものはバーディ、』が確定ポイントだ」

「『バーディですが』だったら、パーより2打少ないイーグルか、パーより1打多いボギーが答えだけど、そうじゃないからアルバトロスが答えになるってことよね」

 とみのり。

「ああ。一応、パーより4打少ないものに〝コンドル〟があるが、パラレル問題で4つ以上列挙がされることは少ない。されるとしたら、全部で4つなのが初めから明らかなものだ。例えば、

 『仏教における四天王で、東を守護しているのは持国天、西を守護しているのは広目天、南を守護しているのは増長天ですが、北を守護しているのは誰?』

 A.多聞天

 なんて具合にな。

 ちなみにこの問題は、『東を守護しているのは持』の時点で、西を守護している広目天か、北を守護している多聞天に答えが確定する」

「もし『東を守護しているのは持国天ですが、西を守護しているのは誰?』っていう問題だったら、広目天が正解になるってことだよね?」

 原尾の問いかけに阿藤はうなずき、

「『東を守護しているのは持国天ですが、南を守護しているのは誰?』なんていう問題は競技クイズの世界では出題されない。後には必ず東の反対の西が来る。

 『仏教における四天王で、東を守護しているのは持国天、』の部分まで読まれると、広目天が正解の可能性も消えて、答えは北を守護している多聞天に確定する」

「東西南北の順番で並べられるから、最後に来る北が答えになるってことか」

「原尾も段々クイズのことがわかってきたみたいだな」

 阿藤はにやりと笑う。

「方位を列挙する際に東西北南と並べるのは不自然だし、東西南まで言って途中で止めるのも不自然だから、北の多聞天以外が正解になることはない。

 ちなみに、この3つ以上列挙があるパラレル問題については、読み上げのアクセントのつけ方に統一的なものは存在しない。アクセントを手掛かりにするには、出題者がどういう読み方をする人間なのか、前もって知っておく必要がある。クイズプレイヤーは、もし大会の序盤で3パラの問題が出てきたら、そのときの出題者の読み方を覚えておいて、次に3パラが出てきたときの判断材料にしている」

「へえ、なんかちょっと面白いな」

「だろ。パラレル問題には他に、

 『大和やまと市があるのは神奈川県、郡山こおりやま市があるのは福島県ですが、大和郡山やまとこおりやま市があるのはどこの都道府県?』

 A.奈良県

 こんな問題もある。

 大和市と郡山市には特に関係性がないが、2つを組み合わせたものが、『ですが』の後で問われているわけだ」

「ほぉー」

「――パラレルと名数型で列挙の順番が変わるものもある」

 阿藤に触発されたのか、再び瀬戸が口を開いた。

「『夏の大三角で、デネブははくちょう座、アルタイルはわし座の星ですが、ベガは何座の星?』

 A.こと座

 この問題は『デネブははくちょう座』と読み上げられるのが察知できた時点で、『アルタイル』まで聞かずとも、ベガについて問われるとわかる」

「あー、白鳥もわしも鳥だから、鳥じゃないことが聞かれるんでしょ?」

 瀬戸はうなずき、

「一方、

 『夏の大三角を構成する3つの星は、ベガ、アルタイルと、もう1つは何?』

 A.デネブ

 このように、夏の大3角を構成する星自体を問う問題であれば、ベガとアルタイルがセットで、余ったデネブが問われることが多い。なぜなら、ベガとアルタイルは、七夕の伝説で有名なおりひめ(織姫)とひこぼし(彦星)だからだ」

「なるほど」

 原尾は深くうなずいた。

 瀬戸の説明がいち段落すると、

「――さて、それではそろそろ、次の問題に参りましょうか」

 阿藤が司会者の口調で、休戦の終わりを告げた。

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