熱き決闘者たち
「7○3×早押しクイズ変則タッグマッチー!」
阿藤睦実がTV番組の司会のように叫ぶと、クラスの面々は拍手したり、そこここで喚声をあげる。
教室の中央には3つの机が並べられ、それぞれに1つずつ早押しボタンが置かれている。そして、そのボタンの前に1人ずつ、計3人の解答者が立っていた。
問題の出題者である阿藤は、声高らかにルール説明を始める。
「7○3×は先に7問正解すると勝ち抜け、3問誤答で即失格となるクイズのルールのことで、このルールは王道とされています。3回誤答すると失格なので、誰か1人がボタンを無闇に押して誤答と正答を延々と繰り返す、などという事態は発生しません。ですが、2回までは誤答できるとも言えるため、適切な攻め所の見極め合い――早押しの駆け引きが発生します」
解答者の1人である石須みのりは、阿藤の口車に乗ってこのような場に引きずり込まれたことを、ひどく後悔していた。
クイズ研究部の部長である阿藤は、幼馴染みのみのりに、昼休みによくクイズを出題していた。みのりはある日、「お前の実力も相当なものになって来たな。1回、うちの部員と早押しクイズで対戦してみないか?」と阿藤に誘われ、あれよあれよという間にこのような場をセッティングされてしまったのだ。
「ここにいる石須、原尾、瀬戸の3人の解答者のうち、クイズ研究部の部員は瀬戸だけです。よって、今回はハンデとして、石須・原尾ペアVS瀬戸の2対1で戦ってもらいます。石須・原尾ペアは2人合わせて7問正解すれば勝利となります」
「誤答は?」
瀬戸が問う。
「誤答数はチームで共有されず、個人にそれぞれカウントされます。原尾が2回、石須が1回誤答したとしても、石須・原尾ペアの失格にはなりません。ただし、原尾か石須のどちらかが1人で3回誤答したら、その人間は解答権を失います。
7◯3×ルールだと、誤答が発生した問題は大抵、出題者が問題の全文と答えを読み上げて、次の問題へ移ります。他の解答者の解答権はありません。こうしないと、誤答したときのダメージが大きくなりすぎますからね。ですが今回は、瀬戸が誤答した場合に限り、私がその問題をまた最初から読み直して、他の2人はそれに解答することができます」
「石須と原尾が間違えた問題に俺は解答できないが、俺が間違えた問題に石須と原尾は解答できるってことだな」
「そういうことです」
「なるほど」
瀬戸将臣は、眼鏡のブリッジを中指で押し上げる。
「へぇ〜結構こっちに有利なルールだな。だったら楽勝なんじゃない?」
解答者の原尾欽治が能天気に言う。
「あんた、ベタ問とか確定ポイントとか知ってんの?」
みのりが耳打ちすると、
「へ? 何それ」
原尾はキョトンとした表情を返す。
「あいつ(阿藤)……本気で素人とクイズプレイヤーを戦わせる気ね」
みのりはガックリと肩を落とした。
「――それでは、ボタンチェックに参りましょう」
阿藤が言い、教卓の前に立つ。教卓の上には箱型の機械が置かれ、早押しボタンから伸びるコードが接続されている。
「クイズの前に、解答者全員がボタンを一人ずつ押していき、ボタンがしっかり点灯するか、正誤判定ができるかを確認します。それがボタンチェックです。では、教卓に向かって右端の瀬戸から順番にボタンを押していってください」
《ポーン》
瀬戸のボタンが押され、ランプが点灯する。
《ピポピポピポーン》
阿藤が機械を操作すると、正解を告げる電子音が鳴り響いた。
「これ、もう押していいの?」
原尾が問う。
「はい」
《ポーン》
原尾のボタンも押され、
《ピポピポピポーン》
正解を告げる電子音が鳴り響く。
《ポーン》
みのりもボタンを押し、
《ピポピポピポーン》
電子音が鳴り響く。
「ボタンチェックも終了しました。それでは、いよいよクイズの出題開始です」
阿藤は3人の解答者を見回す。教室はいつの間にか、静かになっていた。
少しの間の後、阿藤が口を開いた。
「問題。『正式名称を「特に
《ポーン》
瀬戸のボタンが押され、ランプが点灯する。
「ラムサール条約」
《ピポピポピポーン》
正解を告げる電子音が鳴り響く。
原尾は何が起こったのか理解できず、呆然としている。
「『正式名称を「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」という条約を、締結されたイランの都市の名前を使って、何という?』
A.ラムサール条約。
瀬戸の正解、1ポイント獲得です」
「やっぱりこうなるか……」
みのりは額に手を当て、天井を仰いだ。




