旅立ち
「すいませーん、グランさんいますか?」
「お?おう!リョウじゃねーか!ちょっと待ってろ」
ギルドを出て真っすぐにグランさんの武器屋にきた。グランさんは奥の工房で忙しくしていたようだったが、中断して出てきてくれた。
「珍しいものを手に入れたんですよ」
カウンターに宝玉を出す。するとグランさんはあからさまにテンションを上げ、宝玉を手に取り見始めた。
「おお!これはオークの宝玉じゃねえか。ここに来てから久しぶりに見たぞ」
嬉しそうに宝玉を眺めた後それをカウンターに置いた。
「オークの宝玉は武器や防具に耐久力上昇のスキルを付けることが出来る。この作業ができるのはある程度の力を持った鍛冶師のみなんだが、心配するな。完璧に付けてやる。ここに持ってきたってことはなにかにつけてほしいってことだろ?何につけるんだ?いや、こんだけ状態がいいとマニアや貴族にも高値で売れるぞ。この透き通った水晶のようなビジュアルが人気なんだとよ。どうする?」
「今のとこ売るつもりはないんです。なので……じゃあこのオークキングの宝剣につけてもらえますか?」
スキルを二つ付けられるオークキングの宝剣をカウンターに出した。
「オークキングの宝剣か…懐かしいな」
「もってたんですか?」
「いや、こっちの話だ気にするな。これにはスキルの付けられる〇?だっけか、があるんだよな?」
「はい、お願いします」
「分かった。ちょっと待ってろよ」
グランさんは奥の部屋に消えた。ガチャガチャとしばらく音が鳴り響いた。
一体どんな作業をしているのだろうか。気になる…。
グランさんが満足そうな表情を浮かべながら工房から出てきた。
「できたぞ、やはりお前さんの目は間違ってなかったな。ちゃんとスキルがついてる」
オークキングの宝剣(ランク5) 耐久上昇(大)
渡された剣には耐久上昇(大)が付いていた。(中)や(小)出なかったのはなぜだろう。
「スキルの大中小は付け方の違いがあるんですか?」
「鍛冶師の技量や武器のランクによって変わると言われているが、基本的に運がすべてだ。今回は会心の出来だったから大が付いてるはずだ」
腕のある鍛冶師なら出来の良さなどを感覚で掴み取れるようになれるのだろう。グランさんは一体どれ程の人なんだろう。鑑定してみようかな…でもちょっと失礼かな。王都に行ったら会えなくなるだろうし、わざわざ鑑定することもないだろう。
「ありがとうございます。それと俺A級昇格試験を受けに王都に行かなくちゃいけなくなってしまったので、しばらく来れなくなりそうです。それに拠点も王都に移そうかと」
「そうなのか…お前はビッグになるやつだと思っていたが、俺の目に狂いは無かったか。うーん…ここでお前との関係を失うのは鍛冶師としてもったいなさすぎる。よし、俺も王都に戻るか!」
「え!もともと王都にいたんですか?」
「ああ、昔ちょっとな。まあ、溜まってる依頼もあるから今すぐってわけには行かないが、できるだけ早く移ろう」
「じゃあ、王都でもよろしくお願いします」
グランさんと握手を交わした。アイテムボックスに入ってる武器を売り、武器屋を出た。
外に出ると、もう陽は完全に落ちていた。
「リア、帰ろうか」
「はい、ご主人様!」
俺とリアは宿屋に帰り、疲れからかすぐに寝てしまった。
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「おはようリア」
朝起きるとリアは俺の腕に抱き着くように寝ていた。
「ふわあ…は!ご主人様よりも遅く起きるなんて申し訳ございません!」
「気にしないでいいよ。さあ、王都に行くぞ」
おばさんにあいさつをし、宿を出ていつもと反対側の門に向かった。そこには三台の馬車があった。商人が荷物を運びこんでおり、周りにいた数人の冒険者は武器の手入れをしていた。
「すいません、王都まで乗せて下さい」
「あいよ、片道金貨1枚だ。でも冒険者で用心棒もしてくれるってんならただでいいよ」
商人からしたら金を払って冒険者を雇うよりもこうした方が安く済むのだろう。一応純銀の剣を背負っておいてよかった。剣の一つでも持ってないと冒険者じゃないと疑われてしまってもおかしくなかっただろう。
出発までもう少し待ってほしいと言われたため、一緒の商隊に乗る冒険者にあいさつでもしておこう。
「同じ馬車に乗るリョウです。よろしく…」
弓を背負った茶髪の少女はこちらを睨んだ後、何も言わずに武器の手入れに戻った。
なんて愛想のない人だ。少しくらいは挨拶を返してくれてもいいのに。
「ああ、ごめん。こいつこういうやつなんだ、許してやってくれ」
槍を持った青髪の少年が話しかけてきた。おそらくこの少女と同じパーティーなのだろう。
「そうなんだ。まあ、無理に仲良くする必要もないよね…」
「僕はリードでこいつはキーラ。王都は冒険者として稼ぐには絶好の場所と聞いてね。一応槍には自身があるんだ」
「俺はリョウ、こっちはリア。俺は…剣士?かな」
「なんで疑問形なんだよ」
そう言ってリードはさわやかに笑った。ここまでの好青年は見たことがないから、ぜひとも仲良くしてもらいたい。二人と別れ、残る三人の冒険者にあいさつをしようとすると、リードが俺を止めた。
「あいつらは関わらない方がいい。あまり評判のよくないギルドのやつらだって聞いた。まあ、同じ商隊にいるだけだからそんな接することもないだろうし、ほっとけば大丈夫」
「そっか、それは危なかった。ありがとう」
リードはもう一度微笑み、キーラという少女の元へ戻った。
「まあ、おとなしくして待ってよう」
「はい、そうですね。ガラの悪いやつらは好きじゃありません」
言うまでもなく可愛いリアと二人で馬車の出発時刻まで待つことにした。