帰還
こいつの力さっきより上がってる。これは少しでも気を抜いたら力負けするな。
そう気を引き締めなおすと、オークジェネラルの力がすっと抜け、その場にうつぶせに倒れた。
あれ?急にどうしたんだ…おお!死んでる。文字通り死力を尽くしたのだろう。周りのオークはその場に崩れ落ち怯え切っているやつがほとんどだが、まだ戦う気のあるやつもいた。その筆頭がオークマジシャンで、杖を掲げ、詠唱を始めようとしていた。
まだ相当数が残っているし、全部倒すのは骨が折れる。だから精神的にとどめを刺してやろう。相手を威圧するには貧弱に見える俺なんかより、もっと適任者がいる。
「出てこいオーガキング!」
モンスターカードを使った。するとカードが光に包まれ、その光がオーガキングの形を模していった。気付くとそこにはあの時見たままのオーガキングが立っていた。
「グルウオオオオオ!!!!」
オーガキングの放った咆哮によって周りのオークは自らが弱者であり搾取される側の存在であることを自覚させられた。体が委縮し、頭の中から抵抗の意思を完全に消し去られた。オークマジシャンも恐怖から詠唱を中断せざるを得なかった。
こいつの咆哮馬鹿みたいにうるさいな、俺が後ろにいるんだから加減しろよ。オーガキングにオーガキングの宝剣を渡す。ついでにちょっとむかついたからオーガキングの尻に一発蹴りを入れてやった。
「さあ、オーク狩りの始まりだ!」
俺とリアとオーガキングはオークを殺して回った。戦意を失ったオークは子豚同然で、その場から動けないやつ、逃げ回るやつ、前後不覚に陥り火に突っ込むやつなどを片っ端から切り伏せていった。
後でリアに聞いたのだが、この時の俺はまるで悪魔のようだったらしい。正直、この時の俺は取りつかれたようにかなり昂っていたことは認める。でも悪魔って…リアちゃん酷い。
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「はあ、はあ、はあ、終わったか…疲れたー!」
俺はその場に大の字に寝転がる。辺りは火事の残り火とオークのドロップ品で埋め尽くされていた。あれからしばらくの間オークを切り続け、体力も限界を超えていた。何匹かこの集落から逃したようだったが、あれくらいなら問題はないはずだ。オーガキングもリアも怪我なくこの戦いを終えていた。
「オーガキング、もどれ」
するとオーガキングはまた光に包まれ、カードに変わった。オーガキングの宝剣はカードになることなくその場に落ちた。武器はカードになる事は無いのだろう。カードと剣をアイテムボックスに収納する。
「リア、大丈夫?動ける?」
「はあ、はあ、はい、もう動けます。少し…いやかなり疲れました」
リアはレベルが低いのによく最後まで動いていたと思う。
リア 獣戦士Lv46
スキル 身軽
リアもかなりの数を倒していたためレベルが相当上がっていた。
そういえばオーガキングのレベルは上がるのだろうか。モンスターカードを確認すると、一つも上がっていなかった。おそらくカードになったモンスターはレベルが上がらないようになっているのだろう。
辺りに落ちてるドロップ品を全て集めるのは疲れるな…なにかいい方法はないか。遠くからでもアイテムボックスに収納できればいいんだけどな。試しに遠くにあるオークの剣に手の平を向け、収納と念じてみる。するとオークの剣がその場から消えた。
「ん!?消えた…まさか」
アイテムボックスを確認すると、中にオークの剣が入っていた。こんな便利な機能があったとは…もっと早く気付けばよかった。
この要領でドロップを全て収納した。
オークの剣(ランク2)×7
オークの槍(ランク2)×6
オークの斧(ランク2)×5
オークジェネラルの大斧(ランク4) 攻撃上昇(中)
ルビーの杖(ランク3) 魔力上昇(小)
オークの革×11
オークの牙×7
オークジェネラルの上革
オークの鼻×32
オークマジシャンの鼻
オークジェネラルの鼻
オークの宝玉
モンスターカード “オーク”×6
モンスターカード “オークジェネラル”
スキルカード “頑丈”
スキルカード “水魔法Ⅰ”
かなりの量の素材が集まった。ルビーの杖というのはあのオークマジシャンが持っていたものだろう。あの二匹が持っていた武器にはスキルが付いているため、高く売れそうな気がする。いや、自分で使ってもいいな。とりあえずとっておこう。
オークの宝玉ってなんだろう。とても綺麗な赤色で透き通っており、力強い魔力を感じた。鑑定を使ってもオークの魔力が籠った宝玉としか出ず、大した情報は得られなかった。誰かに聞いてみよう。
モンスターカードとスキルカードも手に入った。早速頑丈のカードを使ってみようと思う。
「…あれ?頑丈のカードが使えない?」
スキルカードが使えないことなんてあるのか?考えられるとしたら、頑強のスキルが付いているからだろうか。上位互換のスキルはその下位互換のスキルと同時に持つことは出来ないとか。
リョウ・ヤマグチ 渡界人LV63
スキル 極運 火魔法Ⅰ 水魔法Ⅰ 豪腕 頑強
水魔法Ⅰのカードを使ったらそのカードは消え、自分のステータスに追加されていた何が違うのだろう。
「リア、このカード使ってみて」
「なんですか…ってスキルカードじゃないですか!!ドロップしたんですか!?」
「うん。でも俺は使えないみたいなんだ」
「でもそんな貴重なものを使わせていただくなんて…」
「いやいいんだよ、ギルドにもっていって騒ぎにもしたくないし」
リアはスキルカードを申し訳なさそうに使った。するとそのカードが消えた。
リア 獣戦士LV46
スキル 身軽 頑丈
リアを鑑定すると頑丈のスキルが追加されていた。おそらく仮説はあってるだろう。頑強と頑丈は両立せず、火魔法Ⅱと火魔法Ⅰは両立できないのだろう。
「ちゃんと習得できてるよ」
「そうなんですね…確認できないけど……すごい」
そうか、リアは鑑定が出来ないから直接見ることは出来ないのか。リアさん、自分の体を見回してるけどそれじゃステータスは見れませんよ。なにも分からないのにすごいって……まあ、そんなとこも可愛い。
「リア、帰るよ」
「はい!」
やることをすべて終え、リアと俺は街への帰路についた。