1話
「セーラ…お前は自分の信じた道を歩みなさい…それがワシの最後の願いだよ…」
「何を仰ってるんですが、お父様…最後なんて…」
とある一室。その部屋はかなり豪華であり、部屋にある机や椅子は誰がどう見ても高級品だ。本棚になれべられている本も重要な歴史書や禁忌な魔導書だ。そんな部屋の中央に大きなベッドがある。そのベッドの上に老人が横になっていおり、その手を握る幼き少女。老人の最後を見守る少女。
「セーラは一番下ではあるが、一番可愛い娘だよ…セーラ…強く生きなさい…」
そういうと、老人は少女の濡れている頬を撫でる。数回少女の頬を撫でると、ついに力なく腕が垂れる。
「お父様…?お父様ぁぁあああ!!!!」
バーゲン=フォレス=ミンガイル
ミンガイル王国初代国王、世界最強の戦士、SSS級冒険者、などなど…
数え切れないほどの肩書きを持った男の最後にしては寂しいものではあった。
そして同時にその魂は元の肉体に戻る。
久木田 文隆
▶︎
「……ん?…っングッゥ!ンンぅぅx!!」
目をさますと、何か生暖かい液体の中に自分がいることに気づき、急いで息を止める。視界は真っ暗でわからず、手を伸ばすとすぐに天井を感じるので、かなり狭いところにワシはおるのだろう。ここはどこじゃ!?生まれ変わったのかの?…じゃが、ここはおかしいじゃろう!
ワシは思い切り天井を押し上げようと力を入れていくと、徐々にバキバキと音を立て天井をぶち破ることができたと同時に体を起こし、思い切り空気を吸い込む。しかし、空気を吸おうにも口や鼻からは液体が止まらず余計苦しい…
しばらく口や鼻から液体を出し続けやっと止まったようで落ち着いていきが吸えるようになった。それとその間周りを見渡す。そこは廃墟だった。辺り一面埃がたまっており、とても空気が悪い。そして、ここがどこだが理解することができなかった。はこのような鉄の塊から線が伸びており、その線が自分の入っていた箱につながっている。
「ここは…この箱は…棺桶?…いや、そもそもワシは死んだはずでは?…」
ふとワシは自分の手足を見ると、そこには若々しいく筋骨隆々とした肉体が見える。まるで生前の全盛期のような肉体だ。しばらく考えたが、行動するしかないと思い棺桶から体を起こそうとするが、あまりうまく動かない。長く寝すぎた後のからだのようだ。からだを鳴らしながら、ゆっくりと力を込めていいき、なんとか立ち上がりゆっくりとからだを動かしてこの廃墟をさまよう。
「これは?…いや、この廃墟は…見たことがあるんじゃが…」
しばらくさまよい、とある部屋に着いた。大きな部屋に多くの鉄の箱が並べられている。この部屋はワシが棺桶になっていた場所が上から見下ろせるようになっている。そして、その中でも中央にあった机の上に一冊の本が置いてあった。
ワシはその本の埃を払い表紙を見る。それはミンガイル王国で使われている文字ではない。だが、確かに読むことができた。
『仮想世界に精神体を送る実験』
ワシはそっと中身を読み始める。中身は日付が書かれた手記のようだ。
そこには人間とは思えない実験の記録が書かれていた。自分たちの作ったシステムに、実験体のデータの入ったキャラクターをつくり、脳が指示した通りキャラクターを動かし、実験体のデータこそ真の肉体だと脳を騙した。そしてシステムを通してダメージを与えれば脳が肉体に命令…いや、細胞に命令し傷や怪我をつくり、骨すらも脳の命令で折れたこともあったそうだ。そして、システム内で回復させると、実際に脳がその傷を治したようだった。
しかし、徐々に脳がシステムを超えて行動し始め、最後は何が起きているのかわからない状態になったそうだ。
ただ、実験体は生きている。おそらく別の世界で。という結論に至った。
それから二年後研究結果を国に提出したが、マスコミにバレてしまい。非人道的な行い、神おも恐れぬ野蛮な行為、死の冒涜と言われ研究は破棄された。実験体を無理やり起こすことはできず、放置することが決定した。と…
「その実験体がこのワシか…」
最後のページにおそらく書いていた研究者がワシに向けた言葉じゃろう。
「君の全てを奪ってしまい申し訳なかった。
もし君が目覚めたのならば、私は私の全てをかけて君に償わせて欲しい。
あの後どうなったのか、いろいろと聞きたいことがあるしね。
そして、君の肉体はおそらく進化しているだろう。人間の脳は殆ど使えていないと、過去には言われていたが最近の研究ではフルに使えているとか言われている。だが、君は脳が別の…そう我々とは別のものになっているだろう。脳のだけで、細胞にまで指示ができるレベルだしね。君の肌を切り取ったが、すぐにその肌は再生されたし、死んだ細胞を君の上に置いたらすぐに取り込んだ。まるでアメーバーのようだったよ。
さて、そんな君はどんな人格なのだろう。君のスペックは?知りたいことだらけだ。僕の住所を書いておこう。そして僕と関わりたくないようなら、一枚のカードを入れておく。このカードを帝都銀行の貸金庫のカードだ。暗証番号を書いておく。中身は君に必要なものだろう。では、いつか会えるその日まで。久木田 文隆くん。
20XX年 午井渕 則之」
ほう…その久木田というのがワシの名か…まてよ?…
名前に違和感があり、記憶をたどるように思い出してみる。自分の過去の記憶を走馬灯のように思い出していくと、とっくに忘れていた記憶が蘇ってきた。そうか…ワシはかつて高校生だったのか…ふむ…
そこからできるだけ情報を思い出していく。そして、かつて自分が死んだあの世界はまったく異世界だったことがわかった。まあ、楽しかったしいいか。と思えるまでに自分は冷静だった。
そして、ここまで記憶が鮮明に覚えていることに違和感を感じる。やはりワシは人間を進化したのかもしれんの。
「さて、ここにいても仕方ないの…どこか身をひそめるか…それに、この男にも会ってみたいしの」
久しぶりに目覚めた久木田 文隆は本を片手に、意気揚々と実験施設から出て行った。
自身が全裸であるという事を忘れて…