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第九十九話 不器用な愛 ③

精霊たちは今、飛鳥の部屋に集まり集会を開いていた。


「シルフ、大胆な事をしたわね。でもいいの?契約者が死ぬまで次の契約は出来ないのよ。」

途中からは龍斗の視界を借りてのぞき見をしていたウィンディーネは苦笑しながら確認をする。

シルフの答えは分かっているが、自らが抱える思いの事もあって聞かずにはいられなかった。

「いいのよ。きっと私はあの人としか契約は一生しないわ。」

シルフは胸を両手で包んで今この場にはいない、最愛の人の事を思い浮かべる。

(いいな~、私も彼とそうなれたら。)

ウィンディーネはシルフを見て同じようにある人物の事を思い浮かべた。


「私は勧めた者として二人を応援するけど力の制御はしっかりするのよ。あなた達の感情がマイナスに傾いた時、世界に悪い影響が出る事を忘れない様に。今回は日本だけで済んだ異常気象も、場合によっては惑星規模の被害になるのだから。」


飛鳥は今回の事で日本全土が完全に無風になった事を注意する。

しかし、自分で進めた手前、反対はしなかった。


そして、彼女たちが話していると扉がノックされる。

ノックに反応して六人の精霊は扉へ視線を移した。


「すみません。お話し中と思いますが、お願いがあり参りました。」

そして、聞こえて来たのはアクアの声。

彼女は夕方した寅との約束を守るため、この部屋へとやって来た


「いいよ、入っておいで。」

飛鳥は椅子に座ったまま扉へと手を伸ばす。

すると扉はアクアを招き入れるようにひとりでに開いた。


「お話し中失礼します。」

そして、アクアは一礼して部屋へと入ってくる。


「あなたがこんなタイミングで来るのは珍しいわね。」

アクアの事をよく知るウィンディーネは感じた違和感を口にした。

「私もそう思いましたが、ちょうど皆様が揃われているタイミングでお話をしたかったので今となってしまいました。」


「それで、お願いって何?」

飛鳥は皆を代表して問いかけた。

「実は先ほど寅さんから希望があり、地下室を作ってもらえないかと言われました。

しかし、現在この敷地の物は皆様の加護により守られていますので私では好きなように操作できません。

それで皆様に地下室を作っていただけるようにお願いに参りました。」

それを聞いて飛鳥は周りに視線を向ける。

「寅の事だからきっと料理関係ね。反対の人はいる?」

すると、弥生が手を上げてアクアに問いかける

「その地下室は実際に、何に使うの?」

弥生は世界樹の精霊なので木への影響を懸念する。


「この度、ドラゴンを討伐しましたが、外で解体すると問題があるだろうと仰っていました。今後の事を考えると解体場や肉の熟成室など地下だと都合がいいそうです。」


それを聞いて弥生は悩むように腕を組む。

「それだとかなりの面積がいりそうね。」

そして弥生は飛鳥の顔を見る。

「分かったわ。私達でどうにかしましょ。」

そう言って残りの四人に視線を向けて告げる。


「この家を大々的にリフォームしましょ。内部的にね。」

それを聞いて五人は納得の表情を浮かべる。

しかし、その意味が分からないアクアは首を傾げた。


「何をされるのですか?」

「それは終わってからのお楽しみ。」

飛鳥は笑顔でそう言うとアクアを部屋から追い出した。

そして彼女たちは部屋の中央に立ち、飛鳥を囲むように配置についた。

その直後、彼女たちは自分たちの魔力で家の敷地内を満たしていく。

するとサトルの家に変化が現れた。

まず、一階の壁に扉が2つ出来上がる。

次に土地が広がり家もそれに伴い大きくなっていく。

そして土地は今までの5倍、家は2倍ほどに大きくなったところで拡大は止まった。


しかし、この変化に敷地外から見て気づく者はいない。

何故なら外から見たこの家にはまるで変化が見られないからだ。


そして、彼女たちが作業を終えると同時に部屋の外に沢山の足音が近づいてきた。

外ではサトル達がアクアへと今の巨大な魔力について質問している。

それを聞いて精霊たちは扉を開けて部屋から出た。


「ごめんね、みんな。ちょっと家をリフォームしたんだ。」

飛鳥はニコニコした顔で集まっているメンバーに告げた。

「リフォーム?確かに家の部屋数は増えてるし外の庭も凄く広くなってる気がする。

でもお隣さんはどうしたのですか?」

サトルは部屋を出た時の廊下の距離や外を見た時の状況からお近所さんの状況が心配で堪らなかった。


「その心配は大丈夫だよ。外見上での変化はないから。」

サトルはその答えを聞いて安心する反面、疑問が減るどころか増えていくのを感じた。

「それなら、今のこの状態はどういう事ですか?」

「空間を操作したんだよ。」

そう言うと飛鳥を含めた精霊6人は胸を張ってドヤ顔を決める。


「私達が力を合わせればこれぐらいは造作もない事だよ。それに、この家も少し手狭になって来たから、この機会に拡張したんだよ。」


サトル達は納得は出来るが理解が追いつかず誰も喋らない。

そして、飛鳥の説明は続いた。


「あと一階に解体場と肉の熟成室を作ったから寅は後で確認しておいてね。」


それを聞いて寅は全ての疑問を考える事をやめた。


「おお、そうか。ありがとう。これですぐにドラゴンを捌ける。」

寅はシルフのために今からドラゴンを捌くようだ。

寅はシルフへ視線を向け微笑み、シルフも微笑み返す。

2人の間で無言の会話が交わされた。


「アクアはどうする?」

寅は料理の相棒であるアクアに話を振る。

「・・・私も手伝います。」

アクアはここを放置するか一瞬迷ったが寅について行くことにした。

彼女の中で優先順位に何か引っかかる気がしたが、これが最善であると自分を納得させた。


そして二人が去って行く後姿をウィンディーネとシルフは見つめる。

ウィンディーネは彼女が寅を優先したことに驚き。

シルフは彼女の目に何かを感じた様だ。


その視線に飛鳥は気付いたが、今は見守る事にして気づかないふりを続けた。


しばらくしてサトル達は寅と同じように理解することを放棄した。

目の前の物が現実。

家が広くなったならいいじゃないか。

そう思って受け入れることにしたのだ。


そして夜も遅いため全員解散し、話があるなら明日することにした。


そして、次の日の朝食堂には、毎度のことながら龍斗と美雪が訪れていた。

やはり、あの魔力の放出は二人を心配させるのには十分だったようだ。

2人は美味そうに朝食を食べている。


(本当に心配して来てくれたのだろうか?)

こう思っているのはサトルだけではないはずだ。


そして龍斗達に昨日の事を説明するとあっさり納得してくれた。

ただ、家の門をくぐると突然敷地が5倍に広がり、前回来た時よりも家が2倍に大きくなっているのにはかなり驚いていた。


説明が終わると寅は龍斗へと話しかける。

「龍斗さん皮と鱗の準備は出来てるから持って帰ってもらってもいいぞ。」

「さすが寅さんだ、もう解体が終わったのか。」

それを聞いて龍斗は嬉しそうに寅へと笑いかける。

「アクアが手伝ってくれたからな。彼女のおかげだ。」

そう言ってアクアに笑いかけた。

「いいえ、あなたの腕があってこそです。」

アクアは無表情で答える。

しかし見る者が見ればその頬がわずかに赤くなっているのに気づくだろう。

「これで、シルフにドラゴン料理を食わせてやれるぜ。シルフ、今日は期待してくれ。」

そして寅は何も気づかずシルフへと話しかけた。

「ええ、期待しているわ。あなたが私のために命がけで手に入れてきた物なのだから。」

シルフは無意識に寅の自分への思いの大きさを言葉にする。

それを聞いたアクアはわずかに表情を曇らせた。

しかし、それに気付ける者はほとんどいない。


その後昼食も終え、寅とアクアは夕食の準備に取り掛かる。

寅はシルフの笑顔がまた見れることに浮かれている。

そして、嬉しそうに料理をする傍らでアクアは今まで感じた事のない感覚に襲われていた。


(胸が痛い。)


そう、彼女は今の寅の姿を見て心が悲鳴を上げていた。


そして、寅と視線を合わせた瞬間、唐突に涙がこぼれた。

それを見て寅は焦る。

彼にとって女の涙とはダイヤよりも価値があるが流させてはいけない物だった。

寅はその原因を探すが思いつかない。

涙が出る野菜は手を付けていない。

誇りが入ったにしては涙の量が多いし、ここはアクアがいつもピカピカに掃除してくれていた。

寅が悩んでいると。

「すみません。少し頭を冷やしてきます。」

アクアはそう寅に告げるとキッチンを出て行った。

アクアはそのまま自室へと戻りベットに顔をうずめた。

いまだ涙は止まらず枕を濡らしている。

しかしアクアにはこの涙の意味も、胸の痛みも理解できなかった。

そうしていると自分の部屋にもかかわらず声をかけられた。


「あなたも寅を好きになってしまったのね。」

その声の主はシルフである。

その声には怒りも蔑みもなく、優しさと愛情が感じられた。


アクアはその言葉の意味を考える。

しかし、人を好きになった経験がない彼女にはよくわからなかった。

「よくわかりません。」

だから、アクアはシルフにそう答えるしかなかった。


その答えにシルフは怒ることなくアクアの隣に座って話しかけた。

「じゃあ、私の質問に答えて。」

シルフは優しく告げる。

アクアは涙をこらえ頷く事でシルフに答える。


「寅といるとどんな気持ち」

「とても楽しいです。」

アクアは少し胸の痛みが和らぐのを感じた。


「一緒に料理をしててどう。」

「いつも感動します。彼とずっとこうしていられたらと思います。」

アクアは寅が料理する姿を思い出し胸の痛みが消えポカポカ暖かくなる。


「彼の事を思うとどんな感じ。」

「いつもは胸がポカポカします。」

「なら今は」

「彼がドラゴンの肉を捌いている時、私の事を見てくれていないと感じで胸がチクチクします。」

そしてアクアは再び目に涙が浮かぶ。

そこまで聞いてシルフはアクアを抱き寄せて耳元で囁いた。

「きっとそれが人を好きになると言う事よ。」

その優しい声を聞いてアクアは目を見開いて再び涙が頬を伝う。


「でも、彼は貴方の契約者で愛した人で、私では彼には・・・」

最後まで言おうとした言葉は声にはならず嗚咽に消えていく。

しかし、それを聞いてシルフはアクアに告げた。


「そうね、彼は私の愛しの契約者よ。」

その言葉を聞いてアクアの肩は一瞬震える。

「でも、彼が望むなら私は貴方の気持ちも受け入れるわ。もし彼があなたを受け入れるなら、一緒に彼を支えていきましょう。」

その言葉を聞いてアクアは涙を流しながらシルフを見る。


「人間の寿命は短いわ。思いを伝えるなら急がないと、彼の事を私が独占しちゃうわよ。」

シルフはそう言ってアクアの背中おおしてやる。

アクアはその言葉を聞いて薄く微笑むと涙を拭いて立ち上がった。


「彼ならきっと大丈夫よ。自信を持って行きなさい。」


アクアはその声を背中に受けながら寅へ思いを伝えるために部屋を出て行った。

読んでいただきありがとうございます。

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