第七十八話 ゲリライベント
サトル達は朝食をしっかりとりホテルを出る。
そして車に乗りダンジョンへ向かった。
ダンジョン前までは車で行けないため途中から歩きとなる。
サトル達は車から下りて歩き出すとなんだか周りの反応がおかしい。
主にたくさんの視線を感じるがそれぞれが牽制しあっているのか近づく者はいない。
しかし中学生ほどの少女がこちらに歩み寄りクロへと声をかけた。
「あ、あの。写真いいですか?」
「今からダンジョンに行くのだが・・・」
そしてクロはサトルに目を向けどうするか確認した。
サトルはここで初めてこの状態の正体に気づく。
(彼らからすれば本物の犬耳と犬尻尾だ。
オタクならばこれを逃す手はない。
しかし彼らは俺たちの行動をどうやって知ったんだ?
俺たちは昨日、東京に到着したばかりだ。
こちらの行動を把握している相手は限られる。)
その時サトルの携帯の呼び出し音がなる。
サトルはその名前を見て一瞬で理解した。
(こいつか。)
そこに書いてある名前とは龍斗。
当然こちらの行動を把握している。
そして、密かに獣人グッズを売りさばいている男。
そしてサトルは電話に出る。
「やってくれましたね。」
「ははは、いい宣伝になると思ってな。」
「それだけですか?」
「オタクを舐めてはいけない。彼らの情報拡散能力は日本でもトップクラスだ。
それを利用し更なる獣人のイメージアップを図る。」
「そうですか。さすが龍斗さんです。しかし他にも目的があるでしょう。」
サトルは笑顔を浮かべ携帯へ話しかけた。
「な、何の事かな。俺にはサッパリ・・・」
図星を突かれ龍斗は一瞬言葉に詰まる。
「そうですか。ところで獣人グッズの売り上げはどうですか?」
「それはもうバカ売れ・・・。」
つい本音が出た事に気づき言葉が止まる
「龍斗さん、後で話し合いましょう。」
そう言ってサトルは笑顔のまま携帯を切ってみんなを集めた。
そしてサトルは判明した事をみんなに説明する。
そのあいだ女の子は我慢強く待ってくれている。
「それはしょうがないわな。」
「そうですね。」
舞と彩は渋々承諾する。
「これは龍斗に貸し一つね。」
「俺もそう考えていました。」
エリザとサトルも同じ意見のようだ。
結果としてここで撮影会は開始された。
周りにいたカメ子たちが集まり写真を取り始める。
さらに陰で見守っていた龍斗の手配した警備とテレビ局が集まってくる。
そしてそこには会場が出来てあっという間にお祭り騒ぎだ。
しかも横の方では龍斗が売り出しているであろうグッズの販売まで開始され、さらに他にも男女の獣人が増えていく。
そして最後にサトル達に近寄る人物が2人いた。
それは龍斗とリンダだ。
「龍斗さん先ほどぶりですね。」
サトルは龍斗に軽く挨拶する。
「そ、そうだな。」
龍斗は視線を少しずらして返事を返す。
「私も忘れないでね。」
そう言ってエリザも近寄ってきた。
「こんなお祭り騒ぎにして大丈夫ですか?」
サトルは会場を見回しながら尋ねる。
「大丈夫です。昨日のうちに届け出を済ませ受理していただきました。」
その疑問に答えてくれたのはリンダだ。
だが皆知っての通り、行政とは行動が遅い。
かなりごり押ししたのだろう。
「しかし、これで獣人のイメージアップにはかなりはかどるだろう。」
龍斗は色々な意味で笑顔を浮かべる。
「そうですね。俺たちだけなら少し心配もありましたが、これだけキッチリとしたイベントなら安心です。」
サトルも苦笑してその意見に賛成した。
そして龍斗たちは立ち話も何なので獣人組を残して喫茶店に入った。
しかし、その喫茶店とはメイド喫茶だった。
サトル達は店の前で一度足を止めるが龍斗は気にせず入っていく。
「ご主人様お帰りなさいませ。」
そこにいたのはミニスカメイド・・・、ではなくロングスカートのメイドさん。
そしてメイドは龍斗とリンダに向いて挨拶をした。
「龍斗様、リンダ様よくお越しくださいました。今日はいかがいたしますか?」
それを聞いてサトルたちは驚き二人へと視線を集める。
そう、ここは二人の行きつけの喫茶店だった。
「そうだな今日はコーヒーにしよう。リンダはどうする?」
「私も同じもので。」
「皆様はどうされますか?」
そしてサトル達もコーヒーを注文し、席についた。
「ここはどういう所ですか?」
サトルはさっそく龍斗に質問した。
「ここは俺が経営する喫茶店の一つだ。教育はリンダに任せたからプロ顔負けだ。」
そう言って自信ありげに店員のメイド達を見た。
「ここのスタッフは真面目な方しか雇わないので気楽にしてもらっていいですよ。ちょっとした隠れた名店です。もし好きなお茶があれば言ってみたらいいですよ。」
リンダはそう言ってお茶も進めてきた。
しばらくしてコーヒーのいい匂いがしてくる。
メイドさんは出来たコーヒーをもって机にやってきて一人ひとり並べて一礼して下がっていった。
その動作は美しく龍斗の所で見たメイドと比べても遜色なかった。
そして、落ち着いたところで今回の騒動の説明が始まった。
「今回は獣人のイメージアップイベントとしてこのイベントを企画した。
さらに今回の売り上げの多くは獣人たちの援助に当てられる。」
そう言って龍斗は外で働く獣人たちを見る。
「それで、俺たちに秘密だったのは。」
サトルは少し不満気味に龍斗へ問いかけた。
「その方が自然に注目を集められるし。ゲリライベントと言うのは皆テンションが上がるだろ。」
そう言って龍斗は口を吊り上げ笑う。
まるで何処かの悪代官のようだ。
「それで隅の方でグッズも売ってたのね。」
苦笑しながらエリザも龍斗に話しかけた。
「そうだ、こういう時には少し高くてもああいう記念品はよく売れる。
しかも今回のは限定品だ。みんなこぞって何個も買って行っている。」
どうやら彼は悪代官どころか越後屋も同時に行っているようだ。
「それで他の獣人たちは?」
「もしここで一部の獣人のみの知名度を上げると変な事を考える物が現れるだろう。
それを拡散させる目的が一つ。
もう一つはどう見ても数人では無理だろう。」
そう言って龍斗は窓の外を指す。
そこには既に1000人は超えているだろう人々が集まり。
情報の拡散により更なる増加が予想された。
「それにお前たちがいたのは被災地だからな。みな自粛して無理な行動に出なかったのだろう。」
そう言って龍斗は一度コーヒーに口を付ける。
「そうですね。俺たちがしていた仕事は救助や捜索などが多かったですから。」
「人間、あまりため込みすぎるのもよくない。それにこれを機に獣人の中から希望者には各地を回ってもらおうと考えている。」
「知名度と獣人の安全性の証明のためですか?」
「そうだ、聞くのとみるのとでは大違いだからな。」
「それなら今日の所は協力しましょう。獣人組は後でしっかり労ってあげてください。」
「そうしよう。」
そしてサトルたちは今日のダンジョン突入は無理と判断して諦めた。
サトル達がくつろいでいると店のスタッフがテレビをつけてくれる。
そこには今行われているイベントが生放送されていた。
会場のステージではすでにファッションショーのようなことが行われている。
どうやら彼女・彼らはこの日のために色々な服を記憶しそれをスキルで着替えているようだ。
また、ある所では美男美女たちが握手会を行っている。
また、あるテントでは怪我をした人々に魔法をかけて癒したり。
持ち前の鼻を使って迷子を案内したり探したりしていた。
そこには組織に囚われていた事など微塵も想像できない光景が広がっている。
「いい流れになってきましたね。」
サトルは龍斗にそうつぶやく。
「そうだな、これを見れば俺たちが頑張った甲斐があるという物だ。」
しかし、これだけ人間が集まるとやはりよろしくない人もやってくる。
その者は目の前の人々に向け、懐に入れて持ち歩いていたナイフを手に襲い掛かった。
「きゃああーーーー」
激しい悲鳴と共に周りの声は消えそちらの方へ視線が集まる。
そして視線の先にはナイフ片手に女性を刺した男が立っていた。
男の手は血に染まり足元の女性は血を流し倒れうずくまっていた。
そして男は叫ぶ。
「貴様ら何楽しそうに騒いでやがる。」
そして、男は次の相手に襲い掛かった。
次は男性である。
男性は避ける暇もなく腕をナイフで切られた。
「な、何しやがる。」
切られた男性は踵を返して逃げ出した。
そして、男は近くにいた人々を次々とナイフで切りつけ怪我を覆わせていく。
その時、サトルたちはそれをテレビ画面で見ていた。
「やばい、すぐに助けに行かないと。」
サトルは焦って立ち上がった。
「待てサトル。俺に任せろ。」
龍斗はサトルを止めて、どこかへ携帯で連絡を取る。
「聞こえるか。トラブルレッド発令だ。」
「スノーとクロを現場に向かわせろ。」
「分かりました。すぐに対応します。」
「それとホロとローリーに協力要請。すぐ後ろで待機してもらえ。」
「了解。」
そしてサトルがテレビで事件現場を確認していると男の前にクロとスノーが現れた。
2人はスキルで装備を作り出し男と向かい合う。
それを見た周りの人々は次の瞬間には歓声を上げる。
2人は慎重に男を壁際に追い込んでいく。
しかしそこで誤算が発生した。
周りに押されたのか子供が一人、男に向かってつまずく様に近づき転んだ。
それを見て男は逆上して子供にナイフを投げつける。
しかしナイフは子供には届くことはなかった。
とっさんクロが子供を胸にかばいナイフから救ったのだ。
それを見た観衆はさらに盛り上がる。
丸腰になった男はスノーの盾に吹き飛ばされ壁にぶつかり気を失った。
そして、その事は会場全体に伝えられ人々のボルテージは一気に上がる。
そしてすかさずホロとローリーが駆け寄りケガ人の治療を開始した。
軽い怪我はホロが回復させ、最初に刺された女性や傷が深い者はローリーが回復させた。
事件解決後、数分でケガ人はいなくなる。
そして会場のボルテージはそのままにイベントはクライマックスを迎えた。
なんと龍斗はアイドル獣人まで育て上げ、今ステージでは彼ら彼女らの歌とダンスのパフォーマンスが繰り広げられている。
会場はそれに一体となり、このイベントの最後を締めくくった。
サトル達は獣人組を労いながらホテルへ帰っていく。
予定はズレるが明日は1日休みを取ることになった。
獣人組の疲労はかなりのもので魔力もかなり使ってしまったからだ。
そしてホロは疲労を癒すのを名目にサトルの布団の上で犬の姿で眠っている。
それを知った彩と舞もサトルのベットに忍び込んだ。
そして川の字プラス1で皆でならんで布団に入った。
眠りながら明日はどこへ行こうかと胸を膨らます。
久しぶりのデートを楽しみに4人は眠りについた。
読んでいただきありがとうございます。




