第五十六話 無慈悲な進撃
龍斗たちが娼館を責めていたころ、
サトルの両親と美雪は15階建てほどのビルの前にいた。
そこにはいくつもの会社が入っていることになっているが、そのほとんどがダミー会社である。
実際は今攻めている組織が運営する会社がビルを独占している。
そのため壁は補強され、窓ガラスは防音性の高いものと交換されていた。
しかしそれは彼らにとっても都合がよかった。
そして今現在、建物は龍斗の会社のスタッフや変装したメイドに密かに包囲されていた。
包囲が完成すると美雪は外で指揮をとるために残り、サトルの両親が表ロビーから堂々と入っていく。
入るとすぐに見張りらしき男が近づいてきた。
「あなた方はどちら様ですか?今日、会長は誰とも会いたくないと言って予定を全てキャンセルされたはずですが?」
さすがに本拠地の玄関だ。
曲がりなりにも丁寧な言葉使いができる者を配置しているようだ。
そこで彼らは答えた。
「「社会のゴミを掃除しに来た。」」
「そうですか。」
そう言って男は、胸元からリモコンを取り出しスイッチを押す。
そのとたんサイレンが鳴りビルの窓や扉がロックされシャッターが下ろされた。
そしてサイレンが鳴りやみシャッターが閉まり終わると男は口を開いた。
「貴様らがウチの拠点をつぶしてる奴らだな。貴様らのせいで大損だ。何が目的か知らねえが生きて帰れると思うなよ。生まれた事を後悔しながら死んでいけ。」
男がそう言っている間にも至る所から武装した男たちが玄関ホールへやってきている。
その数はおよそ50人といったところだろうか。
銃で武装している者は20人
剣で武装している者は10人
槍で武装している者は10人
後はアームガード等をしている者が10名
といったところだろうか。
「こいつら始末してもいいんですかい?」
「ああ構わん。」
「女はなかなか上玉ですぜ。後で俺たちで遊んでも構いやせんか。」
「ああ、最終的に殺せば文句は言わん。だが逃がすなよ。」
「分かりやした。お前ら許可が下りたぞ。男はミンチにして獣人共の餌だ。女は俺たちの玩具にしていいとよ。」
「「「「「おおおおおおお」」」」」
「あなたどうしましょう~。私モテモテよ。」
「当然じゃないか。俺の妻だぞ。」
「あら、あなたったらもしかして妬いてる?」
「そんな事はないさ。俺はお前の愛を疑ったことは一度としてないからな。」
「あら、嬉しいわ。それなら今からデートと行きましょうか。」
「そうだね。目的地はここの最上階でいいかい。」
「そうね、でも後で来る人の分も残しておかないといけないわよ。」
「そうだね。彼らもすぐに来るだろうから俺たちはのんびり歩いて進もうか。」
そして彼らは言葉の通り歩き出した。
すると、まずは銃を持った男たちが一斉に連射した。
発砲により硝煙が立ち込め、男たちの視界を遮った。
しかし煙をセンサーが感知したのか、換気設備が稼働し煙を吸い込み視界を晴らしていく。
そして煙が晴れた先で二人は何事もないようにたたずんでいた。
男たちは驚愕し一人が叫ぶ。
「貴様ら何をした?これだけの銃弾、躱せるわけがねー。」
その質問に父親の方が答えた。
「貴様の言う通り俺たちは躱してなどいない。
俺たちの後ろを見ればわかるだろ。
銃弾の跡が俺たちの後ろには一つもない。
そしてお前たちの弾はしっかり俺たちに命中しているぞ。」
そう言ってその場から一歩横へ避け、弾痕の無い床を見せる。
「ならなんで倒れねーんだ。普通一発でもくらえば重症だぞ。」
「お前は何を基準に物を言っているんだ?
そんなの上級探索者ならば、生身で普通の銃弾くらいはじいて当然だぞ。」
それを聞いた銃を撃った20人は化け物を見る目をした。
「役に立たねえてめえら下がってろ、こいつらは俺たちが貰う。」
剣を持った者達が押し退けるように前に出てくる。
「そうだ、この上玉は俺たちのもんだ。てめーらは獣人の奴隷でも相手してな。」
そして剣を待った別の男は銃装備の者達をバカにした目で見る。
それを聞いて二人のコメカミがピクっと動いた。
そう、彼らはサトルと同じ愛犬家。
しかもホロとイクスを我が子のようにかわいがり、ホロにいたっては息子の恋人となっている。
サトルの両親にとっては許されざる発言であった。
2人の逆鱗に触れた事に気づかず、剣を持った男たちは2人に向かっていった。
そして戦闘が開始される。
だが、それは男たちには理解できない現象が起きる。
2人は普通に歩いているだけなのに攻撃は当たらずにそれていく。
そしてすれ違いざまに胸を軽く指で突かれる。
ただそれだけのはずなのにレベル20越えの精鋭は抵抗もできずに倒れて行った。
「もう終わりかね。情けない。」
種を明かせば簡単なことだ。
彼らは胸を突くときに指先から研ぎ澄まされた浸透を心臓に打ち込み破壊しているのだ。
それを見た槍もちの10人は一斉にとびかかった。
長いリーチを生かして相手の間合いの外からの攻撃である。
しかし、またも攻撃はそれていく。
それを見た槍使いは理解した。
槍が避けているのではなく、彼らは指先でそっと攻撃をそらしていたのだ。
それを認識できた槍使いは実力の違いに恐怖し逃げようと試みる。
しかし、気づいた時にはすでに遅く、全員が二人の手刀により首を切断された。
そして、最後に覚悟を決めたアームガードをした10人がやってきた。
彼らにはすでに戦意はない。
しかしこれまでの行い・発言を考えれば二人にこの10人を生かす理由はなかった。
そしてまさに蹂躙、何もすることが出来ず彼らは死んでいく。
それを見た銃持ち20人は逃げ出した。
しかし窓や扉はロックされ、シャッタにより外からは隔離されている
男たちは逃げられないことに気づくとパニックを起こした。
そして彼らもまた物言わぬ躯となるにはそれほどの時間はかからなかった。
最後に残るは二人を最初に迎えた男一人。
彼は座り込み命乞いを始めた。
しかしその時、シャッターが閉まっている正面入り口に斬撃が走りシャッターが切り取られた。
そしてそこからは
怒れる龍と
怒れる虎が入ってきた。
そのあまりの怒気により最後に残った男は意識を手放した。
「もうカタは着いたのか?」
そう言って龍斗は歩きだした。
「いや、まだ1階を制圧しただけですよ。」
「そうかい、美味しい所は残しておいてくれたんだね」
そう言って紅蓮も龍斗に続いて歩きだした。
サトルの両親は自分たちの出番はもうないと感じ、すれ違いざま逆方向の外へと歩き出す。
その頃、最上階の会長室ではこの組織のボスが震えを上げていた。
彼は数年前、天職に動物を獣人に変える能力を持つ者がいる事を知る。
そして、それを商売にするために、その天職を持つ人間を探し出し誘拐した。
当然護衛の獣人はいた。
だが、まだそれほどの実力がなかったため組織の者を使い始末した。
その時に誘拐された者の目は憎悪に染まっていたが会長は気にせずその者を利用した。
最初は言うことを聞かず自殺までしようとした。
そのため組織は薬で意識を薄れさせ強制的に能力を使わせた。
それから数年、商売は軌道に乗りうまくいっていた。
「くそう、政府の奴ら急にあんな法律を発表しやがって。
奴らに今までいくら払っていたと思うんだ。
うちの店を利用させてやった奴等にも連絡が付かん。
こんな時のために少なくない金をバラまいたというのに。」
ボスは怒鳴りながら机を殴りつけやた。
連絡が付かないのは当然である。
この組織から送り込まれていた政治家周辺のスパイは龍斗と政府の捜査機関が秘密裏に拘束し情報が漏れないようにされていた。
当然、突然連絡が取れなくなると怪しまれるため替え玉をおき、差支えのない情報を与え続けていたのだ。
そして今日になり各支部の強制一斉検挙に加え逃げる暇もなく本部が攻撃を受けていると言う訳である。
彼は監視モニターの映像を見ている。
1階はサトルの両親にあっけなく制圧されてしまった。
あそこにはこのビルにいる戦闘員の半分を差し向けていた。
残り半分はこの会長室の外の通路を固めさせている。
こちらには残り50人ほど。
その内3人はレベルが30を超えた用心棒だ。
この3人は金で雇われており、この組織の者ではない。
おそら1階の映像を見ていれば無条件で逃げ出すか降伏しただろう。
そして映像では龍斗と紅蓮はエレベーターに乗ったようだ。
ボスはそれを見て机の引き出しから取り出した操作盤のスイッチを押した。
するとエレベーターは14階に差し掛かった所で地上へ落下した。
「馬鹿め、こんな事もあろうかとエレベーターは細工済みだ。」
ボスは微妙にお約束のセリフを叫び、1階のエレベーターの映像を見やる。
しかし1階のエレベーターの扉が内側から吹き飛び、中から二人が無傷で現れた。
そしてカメラに向かい叫ぶ。
「見ているだろ。残念だったな。俺たちを始末したいならこの下にC4爆薬を設置しておくんだったな。」
龍斗は監視カメラに向かい不適に笑う。
それを聞いてボスの表情は固まった。
「おい龍斗、遊びはこの辺にするよ。ちょうど直通の道ができたからね。ここを登ればすぐに最上階だ。」
紅蓮は龍斗を呆れた顔で見た後、エレベーターシャフトを見上げる。
「たしかに隔壁を切りながら上がるよりは楽だな。きさま、待っておれよ。もう五体満足では明日の太陽は見させんからね。」
そう言って二人はエレベーターシャフトを壁を蹴りながら登っていった。
そして15階のまで登るとエレベーターの扉を吹き飛ばし通路へと出る。
二人が15階に降り立つと同時に組織の戦闘員が攻撃を仕掛けてきた。
通路は広い。
おそらくここで戦闘ができるように改装されているのだろう。
二人が戦闘をするのに十分なスペースがあった。
そして二人は剣をふるう
龍斗はその天職に相応しく美しい剣技で相手の首を飛ばす。
紅蓮はその天職には相応しいが龍斗とは逆に荒々しくまさしく鬼の行軍である。
そのため47人の戦闘員は瞬く間に物言わぬ躯となった。
そして残るは3人。
しかし、そこで二人が話しかけた。
「おお、お前たちか。何でここにおる。」
「そうだね、お前たちはそちら側ではないと思っていたよ。」
龍斗と紅蓮は苦笑しながら三人に話しかける。
「俺はお前らなんか知らん。俺たちは今日ここに雇われたんだ。」
「そうだ、昼に来て周りの顔ぶれがこんな感じだから驚いたがな。」
「金は前払いで貰っている。仕事は断れん。」
しかし、三人は
若い時の二人を知らないため気付くことが出来ない。
「そうか、それならばまず名乗ろう。俺は龍斗だ。」
「私は紅蓮。」
二人は表情を引き締めて名乗りを上げた。
「「「!!!」」」
それを聞いて三人は過去の記憶から二人に名前を思い出した。
しかし、三人には今会いたくない相手、No.1とNo.2の二人であるために姿と名前の不一致に混乱する。
「待ってくれ、俺達はその二人の名前に心当たりがある。」
「しかしあのお二人はご高齢だ。人違いに決まっている。」
「そうだ。きっと名を語る偽物・・・」
その時、二人は本気の闘気を周囲に放つ。
壁がうなり足元のほこりが舞う。
(((ほ、本物だー)))
3人は敵に回してはいけない者の前に、敵として立ってしまった事を自覚した。
「「「降参します。」」」
3人は瞬時に降参を伝え武器を捨てた。
しかし龍斗は言った。
「お前たちは偶然であろうと俺たちに敵対した。しかも今回は組した相手が悪い。」
龍斗は剣を握ったまま三人へ告げる。
3人は顔を青くし膝をついた。
彼らの実力からすれば目の前の2人は絶対強者。
死神に肩を掴まれている心境だろう。
しかし、龍斗はそこである提案を出す。
「お前たちはまだ見込みがある。俺の会社で働くなら減刑を考えてやろう。」
それを聞いた三人は僅かな希望に目に光が戻る。
「本当か。それで俺たちは今どうすれば許されるんだ。」
三人は龍斗の性格から、ただで許される事はないと知っている。
そのため、男の一人は龍斗の気が変わらないうちに条件を聞いた。
「腕一本の切断だな。後でくっつく様にきれいに切ってやろう。それが嫌なら死んでもらう。」
そう言って龍斗は剣を構えた。
「俺はそれでいい。」
「俺もだ腕を切られるのは初めてじゃないからな。」
「俺も命があるだけでもありがたい。」
三人は即座にその条件を了承する。
そして三人は腕を前に差し出した。
それを見て龍斗は剣を構え躊躇なく切り落とす。
「「「ぐあああ」」」
腕は飛び、血を吹き出す。
それを3人はベルトで縛って素早く止血した。
顔色は悪いが命に別状はない。
龍斗は下のスタッフに連絡を取り、3人の治療と一時確保を命じる。
「下に行けばすぐにくっ付けてもらえる。しかし逃げれば今度こそ命を貰うぞ。」
「分かっている。2人とも急ごう。」
「「ああ」」
三人はそれぞれ自分の腕を手に持って一階へと急いだ、。
3人が行った後、紅蓮が話しかける。
「少し丸くなったんじゃないかい?」
紅蓮は口元の笑みを浮かべながら龍斗へ問いかける。
「そうかもしれんな。」
龍斗は苦笑し昔の自分を思い出しながら答えた。
そして二人は会長室へ向かった。
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