第四話 求めていたもの
「いったん地上に戻ろう」
俺の剣も折れたしこの剣もいつまでもつか。
まずは戻って仕切りなおそう。
そうして階層を上っていく
帰りは順調だ。
そして帰り道の途中の十字路。
(こっちだな)
地図を見ながら帰路を急いでいた彼の視線の端。
帰り道とは違う道だが一瞬青い影が見えた。
そこは2階層だがこのダンジョンでは可能性はある。
そして一応、確認のためにむかう。
するとそこには一匹の青いスライムがいた。
このスライムは青くどう見てもポーションスライムである。
そして彼は即座にポーションスライム倒し傷に塗ってみた。
するとたちどころに傷は治ってしまった。
このダンジョンでは基本不要なものが粒子となり消える。しかしポーションスライムそれ自体がポーションなためすべてがドロップとして残る。
そしてサトルは可能な限りそのポーションを容器に詰め持ち帰ることにした。
当然かさ張るすべてをその場に捨てて。
彼にとっては今のこの時ポーションは自分の命を除けば何より欲しいものだったのだ。
そして無事に地上に戻った。
まずは鑑定所で4階層の薬を鑑定。
これは中級ポーションであることが判明した。
鑑定員は現状を考えれば買い取りたそうにしていたがこちらで使用目的があることを説明し諦めてもらった。
そしてポーションスライムもやはりポーションだった。
こちらも売ることはせずに持ち帰った。そしてその直後携帯が鳴った。
かけて来たのは病院だった。
すぐに出て聞くと
「ホロちゃんが危険な状態なのですく来てください」
と言われた。
直ぐに病院に向かう。
1分1秒がとてつもなく長く感じ早く着くことを祈った。
そして病院につくとかなりの数の人がいたが気にせず受付に訪ねる。
すぐにホロがいるケージに連れていかれそこを見れば息も絶え絶えのホロがいた。
サトルはすぐに中級ポーションを医師に渡した。
医師はすでに飲むことができない状態にあることを考え胃に管を通してくれた。
サトルは元気になるホロを願い撫でながら薬が効くのを待った。
少しして息は落ちつき医師は検査のためにホロを連れて行った。
数時間の検査の後にホロがこちらへ看護師を引っ張るように走ってきた。
そして検査結果は問題なく健康な状態だということが判明した。
そしてその後ろから医師が歩いてくる。
彼は聞かずにはいられなかった。
ここでは先日サトルから渡された丸薬の噂を聞きつけ多くの飼い主とペットであふれ返っていた。
皆ほかの病院で断られ一部の望みを胸にこの病院にやってきた人たちだった。
医師はそれを説明し少しでも残っているのなら譲ってくれるようにお願いするつもりでいた。
そして別室で話をする事となった。
「今現在いたる地域でポーションが不足しているのはご存知ですね。」
「当然です。私もある意味ではその被害者ですから。」
「それでは気づかれましたか?院内であなたとホロちゃんを羨ましそうに見ている眼に?」
「いえ、そこまでは余裕がなくて・・・」
「そうですか・・・。今現在、人に回すだけでポーションに余裕はありません。そのためペットなどの物言わぬ者たちには薬は行き渡っていません。」
「それで・・・単刀直入に言ってください。回りくどいのは嫌いです。時間は有限ですよ。」
「それでは単刀直入に言います。もし余っているポーションがあるならば買い取りたいのです。」
「無料で提供します」
サトルは即答した。
医者は驚いているようだが確認だけを怠らない。本当にいいのか、と。
その間にサトルは大量のポーションを机に出す。
そしてそれを医師に渡し
「説明は命が助かった後で」
と言って行動を促した。
医師は今は礼だけを告げ現場に戻る。
「これだけあれば十分に足りる。助けられる」
その後それほど時を置かず病院内から人は減っていった。
皆先ほどまでとは打って変わり笑顔での帰宅である。その傍らには元気になった家族がいる。
仕事がひと段落して戻ってきた医師はさっそく聞いた。なぜあれほどの量のポーションを無料で提供してくれたのかと。
サトルは答えた。
「たまたまな部分が多いですね。」
「たまたまポーションスライムを発見でき大量のポーションが手に入りました。それに今は非常時。そんな時には助け合いでしょう。」
「しかし、あれだけのポーション、この非常時だからこそ一財産ですよ。」
「いいんですよ。」
「私はこの災害で思い知りました。何に祈っても救いは得られない。ならば人が動いたほうが可能性は大きい」
「それにあの中の何人かが今日の感謝をほかの人に向けてくれれば救いの手は自然に広がると」
「それでいいんですか?」
「いいんですよ。自己満足ですけど」
「あともしよければまたポーションをお願いできますか?噂は広がる。もっと多くの人が来るでしょう。その時のためにまだ足りないかもしれない。」
「わかりましたもう少し頑張ってみましょう。」
そしてサトルは退室し家に帰ることにした。家族はみな喜び迎えてくれた。
もう一匹の愛犬、オス犬の「イクス」にはかなり甘えられた。
「構ってやれなくてごめん」
久しぶりのダブルなでなで
ここは平和な我が家に戻った。落ち込んでいた家族もみんな笑顔になった。
災害のために仕事はしばらく休みとなっている明日からまたダンジョンに向かわないと。
しかし、体力は薬で治るがかなりの戦闘で精神が疲弊し張りつめていた糸が切れるように眠りについてしまった。
その傍には愛犬2匹が一緒に眠っている。
前日とは違うそれは幸せな光景だった。
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