落ちる
文化祭当日、美里の憂鬱とは裏腹に順調にプログラムは消化されていた。堅苦しい校風の中で一瞬だけ生まれる自由。生徒達はその自由に酔いしれていた。
「そろそろ終わりね。この文化祭も」文化祭実行委員として、共に頑張ってきた優子が言った。
「そうだね、哲太がいないのが残念だけど。あいつが一番頑張ってたのに」
「バカなのに風邪ひいてほんとバカだよね。そう言えば告白決めたの?哲太はもう決まってたみたいだけど」
優子がニヤニヤしながら言った。
「まだ。ほら見回りいくよ」
その後は特に事件もおきず告白タイムがやってきた。紹介され壇上にあがる。哲太がやるものだと思っていたのに。美里はマイクの前に立ち、昼休みに作ったカンペを取りだした。
「文化祭みんなお疲れさま。みんなのおかげで素敵な文化祭になったと思う。ううん、思うじゃなくて今までの中で最高の文化祭、ありがとう」
お礼をすると拍手がおきた。みんなが作った文化祭。どう締めるべきかまだ悩んでいた。
「ほんとは実行委員長の哲太がここにあがるはずだったんだけど、だから告白する内容はありません」
言った瞬間、床がなくなり、落ちた。スピードが出るわけでもなくエレベーターに乗ったように、どこまでもどこまでも落ちていく。そして、ぼよんと何かにはね飛ばされて、底についた。
「うぎっ」と思わず叫んでしまったが、派手に着地した割に痛みはなく、薄暗い中に光があった。
状況を確認するために立ち上がると、そこにはふっくらとした、だらしない神が横たわっていた。大きさはセダンの乗用車くらいだ。光は後光で、ぼよんとした何かはだらしない神のお腹だった。
「お前はなぜに嘘をつく」
神が言った。混乱している頭を整理しながら美里が答える。
「嘘?なんのこと?」
「告白のことじゃ。神聖なる告白の義でなぜに嘘をつく」
ぽかんとしていると、だらしない神は言った。
「文化祭、というのは我を楽しませるためにある。正確にはみんなが楽しんでいるのを見て、我が楽しむのじゃ。なのになんじゃ。最後の最後でしらけさせよって」
「そんな事言われても」
「ないならないで構わんのじゃ。でもお前には思い人がおるじゃないか」
哲太の顔がよぎった。今まで意識したことはあったが、気のせいだと片付けていた。今、だらしない神に言われ美里の中で抑圧していた何かが解放された。
「はよぉ戻って告白しなされ」
気がつくと、壇上の上に戻っていた。みんなしらけた顔でこっちを見ている。
「ごめん。今のなし。私、嘘つきました」
会場がざわつく。一呼吸おいて、美里が言った。
「私、哲太が好き!これにて文化祭を終わります!」
会場がどっと沸き、文化祭は幕を閉じた。




