メンインブラック
文化祭当日、高い雲が美里の高校最後の文化祭を祝福していた。
大きな問題もなくうららかにすぎて行く文化祭。
「じゃあ見回りいってくるね」
他の実行委員に告げ、校内を見回る。クラスの出し物、部活の出し物、遠くからは吹奏楽部のリハーサルの音が聞こえる。
美里はそんな喧噪を後ろに、屋上にむかっていた。南側の屋上はランチスペースとして解放してあるが、北側の屋上は鍵をかけている。
鍵といっても簡単な南京錠だから、コツさえつかめばクリップひとつで誰でも開けることができる。
もし、屋上に誰かいても校内の生徒であれば問題ないが、一般参加者は立ち入り禁止なので見回りが必要なのだ。
「はにほにんじよらいすしらまのんけむす」
「なんなんだらせすういあ」
屋上へむかう階段の踊り場までくると聞きなれない音が聞こえてきた。
不振に思い、そっと上を見ると、そこにはグレイが二人いた。裸のグレイと服を着たグレイ。
「ひっ!」
慌てて階段をかける。
「おい、待ちたまえ」
階段の上から声が聞こえるが、かまわず走った。裸のグレイはグレイだった。テレビのUFO特集でみた宇宙人そのまま。服を着た方はたぶん教頭先生。あの声、あの服は教頭先生だ。間違いない。教頭先生はきっとあの銀色のグレイにさらわれて、研究されて、殺されたんだ。そして地球を征服すべく変装したグレイに、いつか私も殺されるんだ。
「あっ美里!どこ行ってたの?さんざん探したんだからね。フィナーレ始まっちゃうよ」
「有紀ちゃん」
安堵感からか涙がでてきた。
「ど、どうしたの?とにかく行こう。みんな待ってるよ」
「うん」
有紀に連れられて体育館に向かう。有紀は美里が泣いている間も、バカ話をして笑わせようとしてくれた。こんないい友達を危険にさらしちゃいけない。
ステージにあがると泣きはらした顔をあげ告白した。
「みんな、お疲れさま。今から私の言うことを信じてくれなくてもいい。だけど私は見たの。教頭先生は宇宙人よ!」
一瞬の間のあと、大爆笑がおきた。
教頭先生は?美里が見ると、渋い顔をして、ポケットから卵のような機械を取り出し、時が止まった。
時が止まった中、教頭先生の声が響く。
「応答せよ、応答せよ。こちらグーン星人のトーヤ。日本政府応答せよ」
「こちら日本政府所属、宇宙対策班、どうぞ」
空間から声が響く。
「本日、カーン将軍に報告中、社会研修先である教頭という立場においてグレイということが一人の女子生徒に発覚。忘却装置作動前に逃走され、全校生徒の前で私が宇宙人であることを告白された。やむを得ず空間時間停止装置を起動」
「了解。空間時間停止装置起動確認」
「大変申し訳ないが、黒部隊にて、ここにいる全生徒の記憶を書き換えてほしい。その後、時間を1時間後に、告白者については明朝に時間を飛ばすことを了承されたし」
「了解、至急黒部隊を転送します」
何もない空間から、黒スーツにサングラスの男が次々と現れた。
美里が目をさますと朝だった。夢のような文化祭だった。哲太がいればもっとよかったのに。
支度をして学校に向かうと道すがら他の生徒に指をさされた。一人ならともかく何人もだ。フィナーレで変なこと言ったのかなぁ。興奮してたのか記憶が全くない。
「おはよー、美里」
「有紀ちゃん。おはよう」
「昨日あれからどうだったの?もうしちゃった?」
「ん、なんのこと?」
「もー、とぼけないでよね!あんな劇的な告白、私もされたいわ」
クラスへ行くと、入り口に哲太がいた。まだ本調子じゃなさそうだ。
「ちょっといいか?」
「うん、いいけど」
言い終わらないうちに腕を捕まれ廊下に連れて行かれた。クラスから冷やかしの口笛がなる。
人気のない廊下にくると、やっと腕を離してくれた。
「ちょっと、突然どうしたのよ?体は大丈夫なの?」
「ああ、それよりもだ。何がどうなっているんだ」
「それはこっちの台詞よ」
「そうか。お前もよくわからないのか」
「なんのことよ」
「昨日、俺は一日寝てた。確かに一日寝てた。けど朝起きたらかーちゃんにめちゃめちゃ怒られたんだ。あんな体調で出かけるなって」
「それってどういう事?」
「まあ聞けって。それで学校にきたら、美里ちゃんとどこまでやったのーって、みんなから聞かれるんだ」
「それ、私も聞かれたわ」
「だろ。だから啓治に詳しく聞いたら、フィナーレの時にふらふらの俺が颯爽と現れて、お前に告白したって言うんだ」
「え!」
「夢でもなんでもかまわない。けど、こんな中途半端な現実じゃだめなんだ。だから言わせてくれ。俺は美里が好きだ。実行委員になったのもこの告白をするためだったんだ。美里、ずっと好きだ!」
知らず知らずの内に美里は泣いていた。哲太が真剣に自分の事を思ってくれていたことが嬉しかったのだ。
「み、美里?」
「私、嬉しい。私も大好きよ。哲多」
「よっしゃあー!」
哲多がガッツポーズをしてると教頭先生が向こうからやってきた。
「お、誰かと思えば、伝説のカップルか。授業始まるからそろそろ戻れよ」
「はい、先生。行こう美里」
哲太が手を差し出した。ぎゅっと握ると哲太の温もりが伝わってきた。
手をつないで教頭先生の横を通ると、日の光が反射したのか、なぜだか少し、まぶしかった。
ブログ:8のつく日はショートショートで掲載済み。




