はじまり
ああ憂鬱だ。こんな憂鬱なことはない。
美里は思い悩んでいた。
明日は高校最後の文化祭。実行委員会の副リーダーとして、ここ何ヶ月か走ってきた。リーダーは幼なじみの哲太。
だが、勉強に部活に実行委員会の仕事で疲れがたまっていたのか、季節外れのウィルスはいともたやすく哲太の免疫を突破してしまった。
「ここまでがんばってきたのに悔しいけど、明日はよろしくな。」
いつも強気な哲太が送ってきたしおらしいメールが重い。
「こんなメール受け取ったらやるしかないよなー」
文化祭の準備はすべて終わっている。やることはフィナーレを除くと見回りくらいだ。
フィナーレはリーダー最大の見せ場。みんなの苦労をねぎらい、感動を共有し、告白を行う。これが文化祭の伝統であり不文律だ。男女交際が禁止されている中で、この告白をしたものだけが学校公認で堂々と交際できるのだ。
もちろん過去には「○○先生はズラだー」とか「先生の車を自転車で囲ってごめんなさい」とかいった告白はあったらしい。
ただ美里が見た過去の告白は
「お前が好きだー」
であり、その盛り上がりといったらそれはもうすさまじい。
たいがいは告白前にこっそりつき合っているので、断られる事はまずないが、それでもやっぱり盛り上がる。
でも哲太が何を告白するのか誰も知らない。さわやかなルックスで後輩の女子からはすこぶる人気だが、見てる限りではつき合っている人はいない。
美里も何回か聞いてみたものの、はぐらかされるばかり。
それだけにちょっと楽しみなフィナーレだったのに、まさか倒れるなんて。




